業界トップのウエルシアと2位のツルハの経営統合で、ドラッグストア業界は騒然となった。実現すれば売り上げは2兆円超、次位となるマツキヨココカラをダブルスコアで引き離す圧倒的な規模を誇るグループが誕生することになる。

【画像】ドラッグストア業界の命運を握る5社

 「業界の覇権はイオンで確定」とも言えるこの再編は、ドラッグストア大手の時価総額にも影響を及ぼした(図表1)。この業界での時価総額トップは、収益力で他社を圧倒するマツキヨココカラだ。しかし、2月初旬には1.2兆円ほどだった時価総額が、3月下旬には1.1兆円程度と1割ほど下落。時価総額2位はコスモス薬品(売り上げ4位)だが、これも1割ほど下落した。

 これに対してウエルシア、ツルハは2%ほど増えており、市場の見方としてはマツキヨココカラコスモス薬品の優位性が薄まり、ウエルシア、ツルハの評価が高まったことが分かる。しかし、意外にも時価総額を大きく増やしたのは売り上げ5位のスギHD(+10%)、6位のサンドラッグ(+9%)であり、不思議に思う人もいるだろう。なぜこうしたことになるのだろうか。

●ドラッグストア業界の変遷

 ドラッグストアは1980年代頃から、まずは大都市部を中心に医薬品+化粧品(薬粧)の店として増え始めた。90年代マツモトキヨシ首都圏で大きく成長し、広く世に知られる存在となった。

 2000年代になると、地方における軽自動車の普及と女性の免許保有率の上昇を背景に、ロードサイドに薬粧+日用雑貨を豊富に品ぞろえした、現在よく見かけるタイプのドラッグストアが広がった。この時、全国各地に地域毎のドラッグストアが成長したのだが、10年代以降は相互の商勢圏がぶつかるようになって競争が激化。ドラッグストアは統合再編の時代に突入していく。

 そして、現在のドラッグストア大手のほとんどが「同業他社を統合することで成長する」という経緯を経て今に至っている。中でも、多数の同業を統合して上位企業にのし上がった代表格が、ウエルシアとツルハだった。

●覇者になるためには、大手同士の統合が必須

 しかし、ドラッグストア上位8社の売り上げ合計が市場規模の7割を超えるまでに寡占化が進んだ今、これまでのように中小を統合するという再編では、業界の勢力図を塗り替えることは出来なくなった。

 21年には、マツモトキヨシココカラファインという大手同士の経営統合が実現。ウエルシア、ツルハといった中小ドラッグの統合体である大手に肉薄することになり、収益率も時価総額も2位以下に倍するマツキヨココカラ、かつての覇者・マツキヨが復活した。この時点で、業界の誰しもが「覇権を奪うためには、大手企業同士の統合は必然である」と分かっていたのである。

ウエルシア・ツルハ連合は覇者になれるのか

 今回の経営統合により、ウエルシア・ツルハ連合は売り上げ2兆円規模と圧倒的なトップシェア企業になるが、衆目が一致する業界の覇者とは言い難い。(1)収益率、(2)化粧品販売シェア、(3)事業基盤の安定性、などにおいてはマツキヨココカラの後塵を拝しているからである。(1)(2)は言葉通りだが、(3)事業基盤の安定性はやや分かりにくいかもしれない。これの意味するところは、店舗網の地域性である。

 首都圏中心部と京阪神の大都市基盤を固めたマツキヨココカラと異なり、他の大手ドラッグの店舗基盤は郊外や地方に存立している。このエリアは、人口減少や高齢化の進行で今後、大都市部に先行してマーケットが縮小。その上、今後も大手の出店競争が続くため、明らかなレッドオーシャンなのである。

 そんな郊外や地方において、他社を圧倒するスピードで成長しているのが、コスモス薬品を中心としたフード&ドラッグ各社である。フード&ドラッグとは、食品を低価格販売することで集客するドラッグストアを指す。薬粧+日曜雑貨という構成の郊外型ドラッグストアに大きな食品売場が加わった広い店を展開し、食品の売上比率が4~6割を占める。代表企業はコスモス薬品の他、クスリのアオキやゲンキーなどがある。

 食品の低価格販売がウリのフード&ドラッグ各社の勢いは、値上げラッシュの23年以降、さらに加速している。図表2はドラッグ大手の既存店売上動向だが、フード&ドラッグ組の伸びが著しいことが見てとれるだろう。ウエルシア・ツルハ連合は、今後もこうした同業ながら異業態の企業との死闘が続くのである。

●地域毎に大手ドラッグストアの勢力関係をみると……

 地域毎に大手ドラッグストアの勢力関係を表したのが図表3(1~6)だ。大手ドラッグストアは各地方から勝ち残って大きくなっているため、その地盤が異なっている。例えば、ウエルシアは首都圏郊外、ツルハは北海道や東北、マツキヨココカラは千葉発祥ながら首都圏中心部、コスモス薬品は九州、スギHDやクスリのアオキは中部、といったように本拠地でシェアが高い傾向がある。ただ、図表3をみるとそうとも言い切れない状況があるのは、ドラッグ大手がM&Aを多用してきたためだ。

 図表3は、約10年間における各大手の売上高の推移を示している。この間に大きく増えている場合、多くは企業買収が要因だ。例えば、北海道、東北地盤のツルハが中部や中四国でも大きな存在感があるのは、静岡の杏林堂や広島のハーティーウォンツ、愛媛のレディ薬局などを仲間に入れたからである。

 ウエルシアも同様で、CFS(静岡)、ププレひまわり(岡山)、コクミン(大阪)など、各地の有力企業を傘下に入れることで業容を拡大してきた。このように、業界ではM&Aによる規模の拡大を前提に、シェア競争を展開するのが定石だった。それだけに、他社買収をすることなく、自前出店だけで業界4位となったコスモス薬品は驚異的存在とも言える。

 また、地元・九州で圧倒的なシェアを確立しているコスモス薬品は、東進を進める中で、九州、中四国、近畿の各地域で10年ほどの間に1000億円以上の売り上げを伸ばしている。進出時期が遅いため、今は数百億円の売り上げである中部や関東も、同じペースか、それ以上のスピードでシェアを増やしつつある。これまでの経緯を踏まえると、コスモス薬品は東進を続けつつ、進出エリアごとに売り上げを年100億円ほど伸ばし続けている。つまり、そのエリアにおける他社のシェアは着実に削り取られているのだ。

 これは、巨大トップシェアとなったウエルシア・ツルハ連合にとっても同じこと。それゆえ、株式市場は「ウエルシアやツルハの単独時価総額が、コスモスに追い付かない」と評価をしているのであろう。ちなみに、コスモスマツキヨココカラの利害は当面ほぼ対立しない。ロードサイドでは最強といわれるコスモスも、マツキヨココカラの牙城である大都市中心部にはほぼ出ていかないからである。

●注目されるサンドラッグ、スギの動向

 株価の話に戻れば、サンドラッグ、スギの評価が上昇しているのは、ウエルシアとツルハの経営統合が「これにて完了」と思われていないことの現れだろう。ウエルシア・ツルハ連合、マツキヨココカラコスモス薬品が業界の3極となっている中、さらなる仲間を必要としているウエルシア・ツルハ連合の同盟者候補である両社に対して、株価上昇イベントを期待しているということだ。

 サンドラッグは首都圏発祥ながら、九州地盤のダイレックスという強力なフード&ドラッグを持ち、スギは3大都市圏中京に強い基盤を持つ。両社の意向はさておき、どちらもウエルシア・ツルハ連合が仲間に迎えたい重要なプレイヤーに違いない。また、サンドラッグとスギが組んだ場合、3極に割って入る可能性もある。

 ウエルシア・ツルハ連合が生まれたことで、業界は大手同士の合従連衡による最終決戦の時代に入った。しかし、個人的には、単独路線を貫くコスモス薬品が10年後には1兆円ほど売り上げを拡大していると予想している。地方、郊外の市場縮小、シェア移動を考えると、単なる合従連衡だけでは覇権を確立できないだろう。

 例えば、コスモスが優勢を確立しつつある九州、中四国でそのシェアを奪うための画期的な戦略が必要になる。ウエルシアは、イオン九州と組んでイオン型フード&ドラッグウエルシアプラス」を開発。売り上げ2000億円までの拡大を目標にしていると公言しているが、ウエルシア・ツルハ連合が真に覇者となるためには、「コスモス封じ」の作戦が重要になる。その意味でも、サンドラッグのダイレックスは、コスモスと九州・中四国で渡り合える強力な戦力と言える。

 イオンが10%弱株式保有しているクスリのアオキの動向は、すでに注目の的だ。今後の各社の打つ手次第で、ドラッグストア業界のパワーバランスは、まだまだ大きく変化していく可能性がある。

●著者プロフィール

中井彰人(なかい あきひと)

メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。

ウエルシア(プレスリリースより引用)