『SONO SONO in the moonlight ’24』2024.1.20(SAT)兵庫・神戸クラブ月世界

1月20日(土)、神戸クラブ月世界にて『SONO SONO in the moonlight ’24』が行われ、角舘健悟(Yogee New Waves)、藤原さくらが出演した。本イベントは、いよいよ明日4月6日(土)に開催が迫った、道の駅 神戸フルーツフラワーパーク大沢にて行われる『KOBE SONO SONO ’24』のスピンオフイベント。この日のお昼には、神戸 Harbor Studioで『SONO SONO by the seaside ’24』が開催され、トクマルシューゴ、Homecomings、みらん(オープニングアクト)が出演、海辺のステージで極上の音楽を聴かせてくれた。本記事では、神戸のネオン街で行われた『SONO SONO in the moonlight ’24』の模様をレポートする。昼とはまた違った雰囲気で、それぞれの魅力と実力を存分に味わえた、素晴らしい時間となった。

14時から神戸 Harbor Studioで行われた『SONO SONO by the seaside ’24』が終わり、19時から始まる『SONO SONO in the moonlight ’24』に向かうため、三ノ宮まで移動する。昼夜公演セットの「海月チケット」も販売されていたため、ハシゴしたという人もいたのではないだろうか。陽が落ちてすっかり暗くなった1月の神戸の街は寒く、身が引き締まった。

会場のクラブ月世界は、神戸唯一の元グランドキャバレー。各線三ノ宮駅からほど近く、煌びやかな東門街のアーチをくぐって少し歩くと、大きなネオンの看板が見えてくる。お昼の『SONO SONO』とはうってかわって漂う大人の雰囲気。会場に入り廊下を進むと、華やかでノスタルジックな空間が広がっていた。吹き抜けの高い天井を見上げれば、巨大なシャンデリアとミラーボールが輝き、ステージの上には「月世界」と書かれたネオンが堂々たる存在感を放つ。半円型のステージを囲むように並べられた椅子や備え付けのテーブル、レトロなランプからも、この場所で流れてきた歴史の長さを感じることができ、タイムスリップしたような気持ちになる。

そして会場には『SONO SONO by the seaside ’24』にも出店していた「YouthCoffee(スペシャリティーコーヒー専門店)」と「本の栞(本屋)」に加え、神戸元町の焼き菓子店「YAMACINO」が出店し、来場者を迎えていた。

藤原さくら

昨年『KOBE SONO SONO』の本編にも出演した藤原さくらが登場。「daybreak」のアートワークともリンクする、ボタニカル柄の深いモスグリーンのワンピースを着てステージに現れると、アコギを持って椅子に腰掛け、「こんばんは、藤原さくらです。よろしくお願いします」とはにかんで挨拶し、自身が俳優として出演したドラマ『ラヴソング』の劇中歌「500マイル」を英語バージョンでカバー。

「元気ですか?お昼も行った方いますか?」と客席に呼びかけた藤原は『KOBE SONO SONO』について、「大好きなアーティストさんばかりのラインナップで、とても素敵なフェス。こうやって少し早めの『KOBE SONO SONO』に出れて嬉しいです」と述べ、あたたかなクラップに包まれる中で「Walking on the clouds」を優しく響かせた。1曲ごとにMCを挟むスタイルで、ライブはゆったりと進行していく。さらに、昨年12月30日に28歳の誕生日を迎えた藤原が、自身の生まれ年をタイトルにした「1995」を歌唱。スモーキーで丸い歌声が耳に心地良い。

角舘と藤原は元々レーベルメイトで、これまでも面識はあったが、昨年11月に行われた上白石萌音のライブ『yattokosa』のリハで久々に再会したそう。藤原は「Yogee New Wavesのすごく好きな曲があるので、歌ってみたいと思います」と「Ride On Wave」をカバー。2階でその様子を見ていた角舘は「嬉しいなあ!」と笑顔。歌い終わると歓声を贈っていた。藤原は角舘にカバーすると伝えたところ、一緒にギターを弾いたり話ができたと、ツーマンならではの充実した交流を喜び、「友達が増えていくのはすごく良いなと思って」と、映画『トイ・ストーリー』の主題歌「You've got a friend in me(=君はともだち)」をカバー。オーディエンスはクラップで応え、優しく素敵な空間で満たされていった。

続けてギターを低音で響かせ、ベースのようにリズムを取って「I wanna go out」をシックに披露。うっとりするほど渋くグルーヴィなアプローチがカッコ良くて仕方ない。歌声ひとつで豊かな表情を見せてくれるのはさすがだ。さらに、4月3日(水)にリリースになったばかりのニューアルバムから「daybreak」をプレイ。光が射すようにピンスポが当たり、おおらかな歌声でサウンドスケープを描き出す。ギターの演奏パートも長めにとって、より情景を広げていった。

1月19日にリリースされたばかりの新曲「sunshine」を披露する前に藤原は、この曲が生まれるキッカケとなった姪っ子への愛おしさを詰め込んだ曲だと言葉を添える。「自分の人生で、お姉ちゃんが子どもを産むというのがすごく大きな出来事だったんですよね」と述べて、慈愛に満ちた楽曲を大切そうに歌い上げた。そして、昨年春にリリースされたフルアルバム『AIRPORT』から「My Love」を披露。「色んな出会いと別れを経験してきた中で、どれだけ短い時間しか一緒にいられなかったとしても、ずっと覚えてる人がいる。そう思うと別れも寂しくない。愛ってすごく伝わるし、これから色んな人と出会う中で、一緒にいる時間を味わっていこうと思って書いた曲です」とCurly Giraffeと共作した「まばたき」を奏で、出会いの喜びと尊さを切に届けたのだった。

ライブも終盤となり、「角舘さんが歌ってほしいと言っていた曲を歌います」と、ビートルズの「Blackbird」をカバー。さらに「イベントタイトルにちなんで、最近あまり歌っていなかった月の曲を」と、ノラ・ジョーンズの「shoot the moon」を歌唱。ふわっと響いてシャボン玉のように儚く消える歌声があまりに綺麗で、聴き惚れてしまう。ラストナンバーは、インディーズ時代のアルバム『full bloom』から「Ellie」をグルーヴィに響かせてライブを終えた。芯の強さと母性を感じる美しい時間をくれた藤原さくら。4月からはいよいよツアー定が始まるので、続報を楽しみにしていたい。

角舘健悟(Yogee New Waves)

続いては角舘健悟。SEなしでステージに登場すると椅子に座り、ギターをチューニングしながら弦をポロリと爪弾いて、空間を震わせる。徐々にその動きが大きくなり「よろしくお願いします」と挨拶して「to the moon」を投下。<ここは神戸>と歌詞を変えて歌う。月世界で奏でられる<月まで行こうよ>というロマンがもうたまらない。歌声とともにくっきりとしたエネルギーがステージから放たれ、そのパワーが会場全体を包んでいく。あっという間に会場の空気を掌握すると、ニッと笑って「ようこそ月世界へ」と一言述べた。

続いては少し低めのボーカルで「Summer of Love」をパワフルに響かせる。何にもとらわれない自由な空気が魅力的で、緩急をつけたアプローチも痺れるほどにカッコ良い。

MCでは「藤原さくらさん、とても素敵でしたね。ブルージーだけどあたたかみがある。女性しかできない素敵な表現だなと思って。誰しもが持っている、やわいところを表現するのが上手な方」と賞賛を贈る。「Ride On Wave」のカバーについては「そんなことしてもらえるんだ」と喜びを口にしていた。続けて上白石萌音に楽曲提供した「ひかりのあと」をセルフカバー。逞しさを感じる歌声で魅了した後は、疾走感たっぷりに新曲を披露。まさに風が吹き抜けるような勢いと優しさで、それぞれが描いたであろう情景を動かしていった。

角舘は「なんだか素敵な時間になりそうで、とても安心しています」と笑顔を見せ、神戸に来るチャンスはなかなかないとして、『KOBE SONO SONO』運営陣に感謝を述べる。神戸の印象については「港のある街は好きなんですよね。良い意味で枯れているというか、港があると色んな国の人が来て、カルチャーが交ざる。それが僕の住んでいる東京の街に似ているなと思う。神戸は不思議とインダストリアルな感覚があって。造船が栄えたのかなと思う新幹線のホームでカッコ良いなと思った」と目を輝かせた。また、タクシーの運転手に月世界は超高級クラブだと教わったという話では、「昔の人は接待が月世界に決まったら、テンション上がっちゃうんだって。僕も夜を題材にする曲が多いので、月がついている場所でライブをやるなんて思っていなかった」と喜びを滲ませる。

本編に戻り、「冬至を過ぎて春に向かっているので、海の歌をやりましょう」と披露された「Haru no Umi」では、足元のエフェクターでノイジーなリバーブを作り出す。さらに生命力たっぷりに新曲を歌い上げる。気持ち良さそうにギターを鳴らして躍動する姿とボーカルの求心力には、思わず吸い込まれそうになった。

「僕もカバーを用意してきたらよかったな」とつぶやきつつ、「井上陽水の「海へ来なさい」がとても良い曲なので聴いてほしい」とワンフレーズだけお茶目に披露。そして「ここからちょっと盛り上げようかなと思います。……どうしようかな、盛り上げようかな」と迷う様子からはライブ感が際立つ。自分の感覚を頼りに言葉と歌を紡いでいることが、よく伝わってきた。

最近生活の変化で人生が面白いと話す角舘は、現在新曲を制作中。「一節だけやらせてください」と言って、新曲を歌唱。歌詞に散りばめられたパンチラインと力強いメロディーは、一聴しただけで心に刺さる。同時に角舘の人生が一歩ずつ、確かな幸福へと進んでいることが感じられ、この素晴らしい楽曲がいつまでも美しく響く世の中であるようにと願わずにいられなかった。一節だけと言っていたが結局フルで歌い上げ、「全部歌うつもりなかったんですけど、スッキリした」と晴れ晴れとした顔を見せた。

そして「立ってもいいですか?」と立ち上がり、アンセム「CAN YOU FEEL IT」を披露。クラップに包まれた会場とひとつになって共鳴し、「やりたい曲あるんでやります」と「Like Sixteen Candles」を歌い始めるが、途中で違うと感じたのか、「やめた」と気持ちを尊重する。最後は「もうひとつやりたい曲をやります。どうもありがとうございました」と、大名曲「Climax Night」で締め括った。メロウでおおらかで切なくて、琴線に触れる、生きている感覚。そんな尊い感情を呼び起こしてくれるのが、角舘の音楽だ。

アンコールでは「数少ない皆さんの休日をくれたということで、お返しのような曲をやろうと思います」と、全身を使って「Bluemin’ Days」を歌い届けた。<花束をあげよう 神戸月世界に/花束をあげようSONO SONOフェスティバルに/花束をあげよう 藤原さくらに>と歌詞を変えて歌うところに、角舘の愛が表れる。寒く辛いこともある日々だが、神戸月世界の夜が終わりを迎えても、嬉しい気持ちを残してくれた角舘に、最大の賛辞と感謝を贈りたい。そう思うほど幸せなライブだった。

こうして『SONO SONO in the moonlight ’24』は大団円で幕を閉じた。それぞれ全く違うタイプの弾き語りで、本当に素晴らしい夜を紡いでくれた藤原さくらと角舘健悟。筆者はあの帰り道の余韻を忘れることは、きっとできないと思う。

それぞれ出演が決まっている、『KOBE SONO SONO ’24』は、いよいよ明日4月6日(土)に、道の駅 神戸フルーツフラワーパーク大沢にて開催。詳細はHPをチェックしよう。

取材・文=久保田瑛理 撮影=羽場功太郎