8年の開発期間を費やした海上自衛隊の哨戒ヘリコプターSH-60L。前代であるSH-60Kの能力向上型という位置づけですが、その外観はほとんど同じです。何が変わったのか、報道公開でその中身を見てきました。

外見上の違いはほとんどない

海上自衛隊の哨戒ヘリコプターSH-60Kの能力向上型となるSH-60Lが、2024年3月26日(火)に報道陣へ公開されました。2015(平成27)年度に開発が始まり、2023年12月22日にSH-60Lとして部隊使用承認を受けたので、開発期間は8年に及びます。しかし外見はほとんど変わっておらず機体寸法も同じ。いったい何が変わったのでしょうか。

2024年度予算案においてSH-60Lは、6機で665億円が計上されています。KとLの共通性は6~7割とされていますので、逆にいえば3~4割は変わっていることになります。前型と共通部分が多ければ調達、運用コストを抑えることができ、また搭乗員の転換訓練も少なくて済みます。

能力向上のポイントは、対潜水艦戦における優位性の確保、飛行性能の向上、搭乗員の負担軽減です。現代の兵器のスペックは、ハードウェアよりも目に見えないソフトウェアに拠るところが大きく、外見からスペックを推し測るのは難しくなっています。KとLの違いをあえて指摘するならば、胴体側面のレーザー警報装置(LWS)と下部の船舶自動識別装置(AIS)アンテナの有無が見分ける手がかりです(Lで増設)。

SH-60シリーズにはほかにもJというバージョンがありますが、ソフトウェア性能をごく大雑把に表現すれば、Jがファミコン、Kがプレイステーション、Lはプレイステーション5といったイメージでしょう。

対潜戦は海自哨戒ヘリコプターの主要任務ですが、Lでは「マルチスタティック戦術」が可能になったのが大きな進化です。

従来は自機の吊下げ式ソナーを用いて単機で捜索、追尾、類識別を行っていましたが、この戦術では複数機が参加してそれぞれのソナーで受信された音波を統合処理でき、探知識別能力の向上や捜索範囲拡大などの効果が期待されます。また船舶共通通信システム(国際VHF)を利用して、船舶の動静を自動で識別する船舶自動識別装置(AIS)により、水上艦船に対する警戒監視能力も向上しました。

KとL 機内の様子はこんなに違う!

なお機内の様子はKとLでは大分違います。Kは操縦席がグラスコクピット化されていますが、ディスプレイは6個並び、機長と副操縦士では別々の計器となっています。Lではディスプレイが統合されて4個になり、機長と副操縦士は同じ計器でデュアル・コクピット化を実現しました。またディスプレイはカラー画面で大きくなり、スマホのようにタッチパネル方式で直感的に操作できるようになりました。

機上電子員が扱う制御盤の多機能ディスプレイも、同じようにタッチパネル方式となり操作性が向上。通信容量も拡大され、データリンクのパフォーマンスにも優れ、ほとんどストレスはないようです。

ソマリア沖への海賊対策部隊派遣の経験から、SH-60Kには飛行性能の向上という課題が持ち上がりました。高温環境下では空気密度が下がり、飛行性能は低下します。筆者(月刊PANZER編集部)は趣味でラジコン固定翼機を飛ばすのですが、真夏は飛ばしにくく空気が「重い」のをはっきり実感します。

Lではこの「重い」空気を克服するためパワーアップの必要があったのですが、エンジンはKと同じままでした。その代わりトランスミッションやギアボックスを改良強化して馬力制限を緩和しました。ヘリコプターの飛行性能は単にエンジン馬力だけでなく、ギアボックスやローターなどトータルバランスが重要で、Lではエンジン能力を最大化できるようにしたのです。

オートパイロット機能も付加

さらに搭乗員の負担軽減のため、飛行制御システム(オートパイロット)が付加されました。海自哨戒ヘリコプターの任務は対潜戦のほかにも対水上戦、警戒監視、輸送、通信中継、救難など多様で、活動域も日本周辺に留まらず海賊対処などで世界中に広がっています。パイロットには高い技量が求められますが、Lでは操縦に「職人技」に頼らないオートパイロットを導入したのです。

例えば吊下げ式ソナーを下ろす時は、ホバリングしながらソナー位置を必要位置に保持し、安定させる技術が必要でしたが、オートパイロットによって機上電子員が求める機体位置を自動で制御できるようになりました。ちなみにKとLで飛行特性は同じなので、パイロットには特別な機種転換訓練も必要なく、変わったのはオートパイロットが追加されたことくらいだそうです。

機内レイアウトへ目を向けると、座席の脱着が簡単になったほか天井高もやや高くなり、患者の担架輸送やサイドドアに備わる機銃の操作も容易になるなど、Kの運用経験から細かな改善も施されています。

SH-60KからSH-60Lへの進化はパソコンのアップデートに近いかもしれません。筐体は変わらずタスク処理能力を向上させたからです。しかし、それは仕事が楽になることを意味しません。処理能力が増えれば要求される仕事量も増えるのが「仕事」の常で、いつも追いかけっこです。哨戒ヘリコプター潜水艦の関係にも似ています。

海上自衛隊の哨戒ヘリコプターSH-60L。張り出した下部小翼(スタブウィング)に魚雷や対艦ミサイル、対潜爆弾を搭載できる(月刊PANZER編集部撮影)。