フランス国立農業・食糧・環境研究所(INRAE)のJean-Guy Berrin博士、Ketty C.Tamburrini博士と摂南大学(学長:久保康之)農学部農業生産学科の久保康之教授と小玉紗代助教らの研究グループは、ウリ科植物に感染し壊死病斑を引き起こす炭疽病菌の分泌する溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO)※1で同種の分子が2個結合する「二量体化※2」が起き、セルロース分解活性を増加させていることを発見しました。この二量体化プロセスは、他の菌類でも同様のメカニズムを保有していると考えられ、地球上に大量に存在するバイオマスであるセルロースをより効果的に分解できる新しい酵素カクテルの開発に貢献することが期待されます。

  • 本件のポイント

●植物病原菌が分泌する植物侵入促進酵素(LPMO)の二量体化の仕組みを発見

●二量体化には、無秩序な末端領域が重要な役目を果たしていることを解明

●セルロースの効率的分解を可能にする新たな酵素カクテル開発につながると期待

ウリ類炭疽病菌の感染葉および付着器から分泌されるLPMO二量体

 植物病原性のカビの仲間である炭疽病菌は宿主植物に侵入する際、付着器と呼ばれる特殊な細胞を植物表面に形成し、細胞壁に針のような菌糸を突き刺すことで植物の内部へ侵入しようとします。その時、葉の表面に存在する複雑なポリマーであるセルロースを分解できるLPMOを含む酵素のカクテルを分泌します。今回、LPMOの一種であるAA9A酵素が二量体化するプロセスを明らかにしました=図。二量体化には確かな三次元構造を持たない「無秩序な」C末端領域が重要であり、二量体化によりAA9A酵素はセルロースに対する基質結合と活性が増加することも分かりました。更に、炭疽病菌は感染時に二量体AA9Aを分泌し、付着器を介した侵入を促進させていることを見出しました。この無秩序な領域はさまざまなLPMOに広範囲に存在している一方で、これまでは単なる付属物と考えられており、その機能は不明でした。今回の成果を基盤として、セルロース系バイオマスをより効果的に分解できる新しい酵素カクテルの開発につながる可能性が期待されます。

 本研究成果は2024年3月21日に国際学術誌Proc Natl Acad Sci USAに掲載されました。

 本研究は日本学術振興会科学研究費(20H02989・久保、20K15529,23K13956・小玉)の支援を受けて行われました。

用語説明

※1 溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO)
セルロースを酸化的に分解する酵素。炭疽病菌の植物組織への侵入を促進する。

※2 二量体化

  同じ種類の分子(ここではタンパク質)が2個結合することによりつくられる複合体を

  形成すること。

  • 論文情報

論文名:The disordered C-terminal tail of fungal LPMOs from phytopathogens mediates protein dimerization and impacts plant penetration.

著者名:Tamburrini KC, Kodama S, Grisel S, Mireille H, Nishiuchi T, Bissaro B,Kubo Y, Longhi S, Berrin JG.

DOI:10.1073/pnas.2319998121

配信元企業:学校法人常翔学園

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