航空機メーカーであるボーイング幹部が語った衝撃的なコメントが、世界中の航空専門家たちから注目を集めました。それはF-15戦闘機マッハ3という高速を出したというもの。これは本当なのでしょうか。

F-15「イーグル」ホントの速さは

2024年2月21日、航空業界はあるニュースによって話題沸騰となりました。それは、ボーイング戦闘機F-15EX「イーグルII」が、実用戦闘機としては最速となるマッハ3で飛行したというものです。

この情報は、ボーイング社のF-15事業プログラムマネージャーであるロバート・ノボトニー氏が、この日に開催されていたシンガポール・エアショーにおいて「F-15EXの最高速度はマッハ2.9である」と発言したものが大元です。

これが、彼の発言よりも0.1ぶんだけ繰り上げられて(尾ひれがついて)、航空専門メディアで「マッハ3出た」と報じられたことによって世界中に知られることとなりました。

マッハ3という驚異的な速度は、原型機であるF-15イーグル」の公式な最高速度であるマッハ2.5を大きく上回るものであり、また2024年現在最速とされるロシア製の戦闘機MiG-31フォックスハウンド」のマッハ2.8さえも凌駕します。

F-15EXは、従来のF-15よりも30%増しの推力をもつ約1万3000kgfのF110-GE-129ジェットエンジンを2基搭載しています。ゆえに、これがマッハ3(正確にはマッハ2.9)という高速を可能にする根拠だと言われました。

しかし、航空専門家たちは直ちにこの報道へ疑問を投げかけました。なぜなら、F-15マッハ2.5で飛行すること自体が非常に困難であることは、よく知られているからです。

実際、F-15マッハ2.5で飛行するためには、一切の装備を取り外し、空気抵抗を最小限にまで低くした「クリーン」状態で、かつ高度約1万3000m前後に限られます。たとえば、外部燃料タンクを積んだだけで、速度はマッハ1.6程度にまで落ち込んでしまいます。

加えて、「クリーン」な状態でもその日の気温に大きく左右されるため、マッハ2.5に達するのは冬の寒い日に限定されます。これは寒い日ほどエンジンの熱効率が上昇するためで、同様にモータースポーツなどでも冬のほうが良い記録が出ると言われています。

「圧倒的な速さ」こそロマンか?

また、F-15マッハ2以上となると「空力加熱」が大きな問題となります。機首先端のレーダードームやキャノピー(風防)などといった非金属部が耐熱制限に達することで、コックピット内に焼け焦げた匂いが漂うのだとか。そのため、マッハ2以上の高速状態を長く維持することはできず、マッハ2.3以上の速度を出す場合は、1分間の時間制限が課せられます。

このように厳しい条件を複数クリアした場合にのみ、F-15マッハ2.5を出せるのです。そのため、実戦配備されている普通の機体で、真夏に大量の武装を備えた状態だと、マッハ1.3さえも厳しくなるのが実態です。したがって日常的な訓練や実際の戦闘シナリオでは、最高速度という数値はほとんど意味を成さないとも言われています。

結局、マッハ3発言をしたノボトニー氏は、わずか2日後には発言の訂正を行い、マッハ2.9と述べたことは誤りであるとしました。また、それとともに「設計上の制限はマッハ2.497である」と訂正したことで、この騒動は収束しています。

かつて1950~60年代頃までは、戦闘機といえば熾烈な人類最速争いの最先端を行く乗りものでありました。しかし、1970年頃にMiG-25マッハ3.2に達し頂点に君臨したことで競争は終わりを迎え、その後は半世紀にも渡って戦闘機の速度性能は「マッハ1をほんの少し上回る」ところで落ち着いてしまいました。

そういったことを鑑みると、F-15EXのマッハ3発言が大きな反響を呼んだのは、航空専門家やファンらの潜在意識の奥底にあった、熾烈な速度競争を繰り広げた「黄金時代」への懐かしみ、またそうなってほしいという願望がロマン心を刺激したからだ、と言えるのかもしれません。

2024年現在、アメリカ空軍でテスト中のF-15EX「イーグルII」戦闘機(画像:アメリカ空軍)。