健大高崎の初優勝で幕を閉じた今春の選抜大会。そのなかでは金属バットの変化が小さくない注目を集めた。(C)産経新聞社

試合展開にも生まれた「変化」

 健大高崎の初戴冠で幕を閉じた第96回選抜高校野球。この春もさまざまなトピックが注目を集めたなかで、最も大きく、かつ高校野球界にとって重要な意味を持った話題と言えば、やはり新基準の金属バット導入だろう。

 そもそも金属バットが導入されたのは1974年にまで遡る。当時、木製バットでは選手はもちろんチームの負担も大きいという理由から用いられた。その後、メーカーによる開発競争が本格化。打球の飛距離や速度は導入当初から格段に伸び、その都度、基準は改定されてきた。

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 だが、2019年の夏の甲子園で投手が打球を顔面に受けて骨折するという事故が発生。このアクシデントをきっかけにさらなる基準改定の議論が進み、最大直径と厚みを変更することで打球速度と飛距離が従来のものよりも落ちる、低反発の金属バットが導入される運びとなった。

 今大会は、その新基準の金属バットによって行われた初めての公式戦となったわけだが、効果は確実に表れていた印象を受けた。フェンスオーバーのホームランはわずかに2本(ランニングホームランは1本)と、金属バット導入以降では最低の数字となった。

 2022年に選抜大会で歴代最多となる11本塁打ホームランを放つなど、これまでも強打のチームを作り上げてきた大阪桐蔭の西谷浩一監督も、初戦の北海戦後には、「ロング(長打)が出づらくなっている」と告白。実際、西の横綱と称された名門も今大会では境亮陽(3年)のランニングホームランはあったものの、フェンスオーバーの打球はゼロ。長打も3試合で4本に終わっていた。

 無論、試合展開にも変化は起こった。従来の金属バットであれば、外野の頭を超えていたと思われる打球が伸びないため、走者が二塁にいる場面では極端に前進するチームが増え、シングルヒットではホームインできないケースが相次いだ。また、芯を外れた時の打球は今までに見たことがないような弱いゴロになり、キャッチャーが打球を処理する場面も散見された。

 得点をあげるには、これまで以上に走塁が重要になり、逆に守備に関しては弱いゴロに対して素早く前にダッシュして処理できるという点が求められた。長打こそ少なかったが、足を使える選手が多く、内野は鉄壁の守備を誇った報徳学園が決勝に進出したというのも、新基準のバットが導入された影響を象徴していると言えそうだ。

仙台育英の須江監督が明かした「驚き」

 その一方で違う声が聞かれたのも事実である。

 大会中に試合中継の解説者として甲子園を訪れていた仙台育英の須江航監督と話をする機会があった。そこで名門を率いる40歳の指揮官は新基準の金属バットについてこう答えていた。

「練習試合では広い球場でも柵越えが出ています。だから選抜を見てちょっと驚きました。それだけ投手のレベルが高いこともありそうですし、寒さや緊張も影響しているのかもしれません。あと選抜に出場するチームは細かいプレーの練習をする必要があって、単純なフィジカル面の強化は我々のような出場を逃したチームの方ができたという可能性もありますね」

 筆者も選抜の前後で高校野球の練習試合や公式戦を見たが、確かに選抜ほどの影響は感じられなかった。「打球が飛ばない」という話題が先行し、それが高校球界内で集団心理として働いていた部分もあったはずだ。

 もっとも、現時点で確実に言えることは、ホームランや長打を打つためには、これまでよりもフィジカル面での強化はもちろん、芯でしっかりとボールを捉える技術がより重要になったという点だ。そういう意味ではトレーニング環境や、打撃技術をしっかりと選手に落とし込める指導者がいるチームがより強さを発揮するようになる可能性は高いのではないか。

 過去を振り返ってみても、高校野球は基準の変更直後こそ影響が顕著に表れるが、その後は徐々に各校が適応してくるということを繰り返している。そうした歴史的背景を鑑みても、球界全体が「極端なスモーベースボールに偏る」というのは考えづらい。

 今大会でも見事なホームランを放ったモイセエフ・ニキータ(豊川)や正林輝大(神村学園)のように、夏以降も高いレベルのバッティングを見せてくれる選手が多く出てくることを期待したい。

[文:西尾典文]

【著者プロフィール】

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。

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