特急「やくも」に使われる国鉄型381系特急形電車は、2024年6月をもって定期運行を終了します。登場から半世紀。国鉄初の振り子式特急電車はなぜ、長い活躍となったのでしょうか。

長寿といわれる185系よりも長寿!

特急「やくも」に使われる国鉄型381系電車は、2024年6月末に定期運行を終了します。381系は、国鉄が最初に振り子式を採用した電車であるとともに、国鉄特急形としては185系と並び、最後の生き残りでもあります。

1973(昭和48)年より導入された381系は、なぜ今まで活躍できたのでしょうか。逆にいえば、なぜJR西日本は長らく381系を置き換えなかったのでしょうか。同じく長寿といわれる国鉄型185系電車は、製造初年は1981(昭和56)年で、定期運行を2021年に終えています。まずは381系の歴史を振り返ってみましょう。

1958(昭和33)年に最初の特急形電車151系(当時は20系)が登場して以降、国鉄は各地に電車特急を投入してきましたが、在来線カーブが多く、電車化しても速度向上には限度がありました。

カーブが多いということは、カーブの通過速度を上げればスピードアップできるということです。そうした理由で1970(昭和45)年、国鉄は591系高速試験用電車を製造します。最高速度を130km/hに向上させ、車体を傾斜させる振り子装置を取り付けた新型車両を実用化すれば、カーブでも速度を落とさずに済み、所要時間を短縮できると考えたのです。

この591系の試験結果を元に製造されたのが381系でした。381系はそれまでの国鉄特急形電車とは異なり、車体外板をアルミニウムとし軽量化も実現。クーラーを床下に置いたり、主電動機を小型化したりして台車高さを抑制し、さらに屋根高さも低くすることで、低重心化を図りました。この結果、それまで気動車特急キハ181系で最速3時間32分かかっていた岡山~出雲市間が、3時間12分に短縮されたのです。

あまりにも高価な電車だった

381系紀勢本線の特急「くろしお」にも投入され、大幅なスピードアップを実現しました。しかし1453両が製造された481・485系電車や、508両が製造された183189系電車に対して、381系277両の製造に留まりました。

これはコスト高が原因です。高価なアルミ車体に加え、台車や主電動機、制御装置などは全て新規開発され、新機軸の振り子式に至っては空気バネ台車を収縮させる空気圧縮機の稼働量も多く、保守点検費用がかさみました。

また、地上設備も381系の振り子式に対応させる必要があり、改修費用の点から、新規に電化する中央西線伯備線以外では導入が見送られました。実際に投入された伯備線でも、当初は費用対効果に見合わないとして、従来型の183系が投入されそうになったほどでした。

381系は、車内の各座席にエチケット袋が用意され、さらに車掌が酔い止め薬を常備していることでも有名です。揺れ自体は従来車両より軽減したものの、曲線上で一気に車体が傾く振り子の特性もあり、不自然な揺れで酔う乗客が続出したのです。乗り心地については抜本的改善が困難で、JR化後に「制御付き振り子装置」が開発されるきっかけとなりました。

2007(平成19)年、接客設備をリニューアルした「ゆったりやくも」が登場したほか、JR東海と西日本がパノラグリーン車へ改造するなど、381系は現在に至るまで数次のリニューアルが行われています。

381系が高コスト・高性能とはいえ、全く置き換えられなかったわけではありません。JR東海は1994(平成6)年より、曲線通過速度や乗り心地を改善した383系電車を投入したほか、JR西日本も1996(平成8)年より、283系電車を投入して381系を置き換えています。紀勢本線で「オーシャンアロー」として投入された283系は、伯備線への投入も考慮し耐寒・耐雪構造が採用されており、当初は順次381系を置き換える予定だったのでしょう。

しかし、283系はわずか18両で製造が打ち切られ、投入された紀勢本線ですら381系の完全置き換えには至りませんでした。

なぜ381系は置き換えられなかったのか

投入された1996年の前年には阪神・淡路大震災が発生しています。JR西日本だけで1020億円の復旧費用がかかっていますから、高コストな振り子式特急形電車の新製投入計画が変更されるのは、無理もなからぬことだったでしょう。

また、2005(平成17)年に発生した福知山線脱線事故は、JR西日本に速度よりも安全性重視の方向に舵を切らせました。車齢だけを見れば古い381系は堅牢な国鉄設計で、かつ腐食しにくいアルミニウムの車体外板を備えていたことで、ほかの国鉄型車両よりも長持ちすることが幸いし、新型車両の導入ではなく、長期使用のためのリニューアルを一部車両で進めることで改善としたわけです。

それが先述の「ゆったりやくも」です。全ての座席を683系電車と同じものに交換し、和式トイレを洋式に変更、男性小用トイレの設置、窓側足元を圧迫していた通風ダクトの撤去、天井と照明の交換、塗装変更などかなり大がかりなもので、新車同然の内装となりました。

ちなみに、ここまで徹底したリニューアルがなされなかった紀勢本線381系は、2012(平成24)年よりスピードダウンを承知のうえで、振り子機能のない287系電車で置き換えられます。

381系が50年にも渡る活躍をした要因には、地方幹線の特急へ容易に新車を投入し得ないJR西日本の経営状態もあったでしょう。ただ、曲線通過速度をそれまでより20km/h向上させた高性能さも、活躍を長引かせた理由と考えられます。

2024年7月以降も、381系は臨時列車として運行される予定です。いつまで活躍するかは分かりませんが、国鉄が産み出した最後の高性能特急形電車が、末永く活躍することを願うばかりです。

リニューアルされ2007年に登場した「ゆったりやくも」(安藤昌季撮影)。