上田駅に入線する115系電車。115系クモハ+モハ+クハの3両編成が基本ですが、SR1系はクモハクモハの2両で編成を組めます(筆者撮影)

長野県上田市で開催された、市民フォーラム「人と環境にやさしい交通をめざす全国大会in上田」(2024年3月16、17日)の続報では、しなの鉄道(しな鉄)にスポットを当てます。

1997年10月の北陸新幹線(当時は長野新幹線でした)高崎~長野間開業で、JR東日本から経営分離された並行在来線信越線軽井沢~篠ノ井間(しなの鉄道線65.1キロ)を運営する第三セクター鉄道。2015年の北陸新幹線金沢延伸開業で、信越線長野~妙高高原間(北しなの線37.3キロ)が加わり、100キロ超の路線ネットワークを形成します。

経営環境は厳しく、2023年12月には阿部守一長野県知事が斉藤鉄夫国土交通大臣に設備スリム化や、交通系ICカード乗車券導入への理解・支援を求めました。本コラムは、しな鉄の近況とともに戦略を探ります。

普通列車なのに駅を通過!?

フォーラム参加のため軽井沢から上田までしな鉄に乗車して、路線の性格を物語るようなシーンを目にしました。

長野行き普通が小諸に近付くと、列車は2つの駅を高速で通過します。筆者は思わず、「普通列車なのに駅を通過?」とわが目を疑ったのですが、よくよく考えれば勘違い。車窓に見えたのは、しな鉄ではなく並行するJR小海線の乙女、東小諸の両駅でした。

普通ならJRが幹線で三セクが支線。ところがここは、しな鉄が幹線でJR小海線が支線です。信越線は全国有数の幹線で、1997年10月の北陸新幹線開業前夜、軽井沢~長野間には1日19往復もの特急「あさま」が運転されていました。

地域密着の三セク鉄道に変わって27年目、しな鉄の設備は基本的にJR時代のままです。最初に挙げた阿部知事の要請も、そこに理由があります。

小諸駅で並ぶしな鉄のSR1系とJR東日本の(小海線用)キハ110系気動車(筆者撮影)

設備スリム化で経営維持

しな鉄の業績。2023年度の最終損益は1億3900万円の赤字を予想します。5期連続の赤字は避けられない模様です。

2022年度の年間輸送人員は1210万人、1日当たり輸送密度しなの鉄道線5766人、北しなの線2681人国土交通省による1日2000人の存廃検討ラインは上回りますが、長野県は赤字要因の一つに過剰な設備を挙げます。

長野県内鉄道各線の輸送人員。しな鉄はJR在来線に次ぐ輸送量です(資料:長野県

詳細はこれからですが、スリム化の実践策として複線の単線化(しな鉄の単線区間は北しなの線北長野~黒姫間)、専用品の汎用品化、ホーム長の短縮が含まれるとされます。

ICカード乗車券は、篠ノ井~長野間で乗り入れるJR信越線では2025年春以降の導入が決定しており、しな鉄とJRを乗り継ぐ利用客の利便性を向上させます。訪日外国人にも喜ばれるはずです。

報道によると、斉藤大臣は阿部知事の要請に理解を示し、「しな鉄の経営維持に向け必要な支援を考えたい」と回答したそうです。

しな鉄利用の通学生は上田電鉄の4倍超

前回コラムで取り上げた上田電鉄と、しな鉄はともに上田市に本社を置きます。上田市公共交通活性化協議会が、2022年2月に実施した「上田の高校生通学手段調査」。しな鉄の44.7%に対し上田電鉄は10.6%で、しな鉄通学生は上田電鉄の4倍以上です

上田~長野間は45分。上田には、しな鉄で長野市に通う高校生が一定数います(ちなみに新幹線通学生はゼロ。新幹線通勤者はいるはずですが)。

「クルマを運転できないと移動に困る」

もう少し、課題を考えましょう。上田市による2019年の市民アンケート調査(複数回答)では、市外への通勤通学手段は「マイカー」が72.2%で断然のトップ。「鉄道」は17.0%で2位ですが、大差を付けられます。「バス」は1.7%でした。

しかし、同じアンケートで挙がった将来の不安は「クルマを運転できなくなり、移動手段が確保できなくなる」が46.9%でトップ。長野県上田市が、しな鉄や上田電鉄の再生策を探るのも、そこに理由があります。

「プロジェクト115」

ここからは鉄道ファンの皆さまに寄せて……。しな鉄が2024年1月15日に発表し、本サイトでも報じられたのが「〝プロジェクト115〟の始動」です。発表日は115系のもじり、しな鉄は同日を「115系の日」とします。

しな鉄で1997年の開業以来主力だった、国鉄近郊形115系電車も老朽化が目立つようになりました。かつては上野駅でイヤというほど目にした115系ですが、今や〝希少種〟。しな鉄も、「2028年までの115系引退」をアナウンスします。

しな鉄がプロジェクトで打ち出すのは、「115系のグッズ販売収益による塗色変更」や「塗色変更した車両を活用したイベント」。本サイトでも先日、「昭和の列車を再現!『115系電車鈍行夜行妙高高原経由軽井沢行き』」のニュースが話題を呼びました。

その115系を活用した観光列車(臨時快速)が、2014年にデビューした「ろくもん」。ネーミングは沿線ゆかりの戦国武将・真田氏の旗印の六文銭から。車内にはイスやテーブル、ファミリー向けの子どもの遊び場などが用意され、食事も提供されます。

しな鉄の一番人気「ろくもん」。タネ車は115系ですが片側3ドアのうち中央は埋められています。デザイナーはJR九州の「D&S(デザイン&ストーリー)列車」でおなじみの水戸岡鋭二さんです(写真:しなの鉄道

115系の後継として増備が進むのが、2020年デビューのSR1系電車です。JR東日本グループの総合車両製作所J-TREC)生まれの次世代ステンレス車「sustina(サスティナ)」で、共通仕様によるコストダウン、すべての人が利用しやすいユニバーサルデザイン(UD)などがセールスポイントです。

長野駅で特急「しなの」と並ぶ

最後は、しなの鉄道線だけですが軽井沢から長野までバーチャル乗車します。しな鉄はいい意味でローカル線の風情はほぼありません。各駅とも2~3両編成の列車のはるか先までホームが延びます。

軽井沢からしばらくは北陸新幹線と並走。進行方向右側に浅間山を望めます。小諸駅手前からは、前述のようにJR小海線と並走します。

上田には、しな鉄本社があります。篠ノ井~長野間は現在も残るJR東日本信越線です。篠ノ井の発車後、今井、川中島、安茂里の3駅に停車すると終点の長野。

長野駅では、しな鉄のSR1系や115系と、JR東海の特急「しなの」が並ぶシーンが見られます。長野駅北陸新幹線在来線とも線路は地上、駅舎は橋上の2層構造。北陸旅行時はともかく、長野への鉄道紀行なら、しな鉄は片道だけでも乗車する価値のある鉄道といえるでしょう。

記事:上里夏生

2024年4月6日12時27分追記:一部記述を修正いたしました(鉄道チャンネル編集部)