ヤマハが研究・開発している技術「TransVox(トランスヴォックス)」という技術をご存じだろうか。これは歌声をAIによって分析・合成して人の歌声を別人の歌声にリアルタイム変換するというもので、この技術の実証実験として現在、『なりきりマイク VOLUME2 Da-iCE』が全国のカラオケ店18店舗に期間限定で導入されている。本稿ではメディア向けに行われた体験会の様子を交えながら、なりきりマイクについてレポートしたい。

【画像】Da-iCE仕様のスペシャルルーム!

 体験会がおこなわれたのはカラオケ店「コートダジュール目黒駅西口店。『なりきりマイク VOLUME2 Da-iCE』は同店を含む18店舗で展開されており、Da-iCE仕様に彩られたスペシャルルームで“なりきり”を楽しむことができるようだ。

 なりきりマイクの基幹技術である「TransVox」は誰でも「あの歌手になれる」ような体験を味わうことができる技術で、歌手の歌声の特徴・音の高低に応じた音色の変化など、歌い方の癖をAIに学習させることで実現している。マイクに入力された人の歌声の発音や抑揚を高精度かつ瞬時に分析し、あらかじめAIが学習した内容をもとにそれを“真似て歌い直す”ような仕組みで、ボイスチェンジャーのような「声をそのまま変換する技術」とは根本的に仕組みが異なる。また昨年は実証実験の第一弾としてEvery Little Thing持田香織とのコラボレーションが実施されて話題となった。

 第二弾となる今回は男性アーティストの声で、加えて2音声の同時変換(デュエット機能)を成すのに相性がよいアーティストを選定した結果、ツインボーカルが魅力の5人組ダンス&ボーカルグループ・Da-iCEとのコラボレーションが行われることになったという。

 スペシャルルームには「なりきりマイク」の操作用スイッチがあり、「大野雄大」「花村想太」ボタンを押してマイクで歌うだけで、歌声が2人の歌声にリアルタイム変換される。第一弾と同じく、出力される声の高さを1オクターブ高くするボタンも用意されているので、高音域に自信のない人でも楽しめるはずだ。また、なりきりマイクの機能はカラオケの機材とは独立しているため、Da-iCEの楽曲はもちろんのこと、あらゆるカラオケの楽曲をこのマイクで楽しむことができる。

■“一人デュエット”にも挑戦 実際に「なりきりマイク」を試してみる

 実際にマイクに声を出してみると自然な形で自分の声が変換されるのだが、楽曲を歌うとこれが単純な変換装置ではないことがよくわかる。筆者もためしに1曲歌ってみたが、抑揚の取り方や高音域の出し方など、自分の発声が他人のもののように感じられて驚いた。ためしに「大野雄大」「花村想太」のマイクを持ち替えながら“一人デュエット”をしてみると、それぞれのマイクに“得意な音域”があることがわかる。

 この「自分から他人の歌声がする」という体験は非常にユニークで、声の作りは初期のボーカロイドの発声にも少し似ていると感じた。ボーカロイドとこの施策には「自分の行動で発声を操作する」という点でも共通点がある。たとえば「初音ミク」の声で発声できる「なりきりマイク」があっても面白そうだ(ボーカロイドの発展の経緯からするとなんだか技術の使い方が逆さまなようにも思うが)。ちなみに、この「なりきりマイク」はAIを使った技術だが、カラオケ店でユーザーの声を記録・収集することは一切無いとのことなので、その点はご安心を。

 ウィークポイントを挙げると、「なりきりマイク」の仕組み上これは避けられないのだが、「声が遅れて聴こえてくる」ということだ。入力された音声を一旦変換してから出力しているため遅延が出るのは当然のことだが、この遅延がよりタイトになるともっと歌いやすそうだ。現時点ではテンポの速い曲よりは、ゆったりとしたバラードなどの曲を選ぶと歌いやすいだろう。

 なお今回の施策の実現に当たってはレノボジャパン合同会社による協力があり、TransVoxを用いたソフトウェアを処理するハードウェアとしてエッジコンピューティング向けの小型デバイス『ThinkEdge SE30』の提供があったという。小型・高性能なハードウェアによってリアルタイムで音声変換を実現しているとのことだ。

 『なりきりマイク VOLUME2 Da-iCE』が体験できるのは8月29日まで。ぜひ最寄りの実施店で楽しんで欲しい。

(取材・文=白石倖介)

Da-iCEコラボルーム