3月30日、『Shadow Corridor 2 雨ノ四葩(あまのよひら)』(以下、『Shadow Corridor 2』)が発売となった。

 前作の登場から約7年が経過するなかで、満を持してリリースを迎えた同タイトル。本稿執筆時点では、注目どおりの高評価を獲得している。「Shadow Corridor」が支持される理由はどのような点にあるのか。『Shadow Corridor 2』のインプレッションから見えてきた、シリーズの魅力へと迫る。

参考:【画像】恐怖を感じさせる『Shadow Corridor 2』の雰囲気あふれるビジュアル

■城間一樹氏が手掛ける探索型ホラーADV『Shadow Corridor 2』

 『Shadow Corridor 2』は、Space Onigiri Gamesが開発・発売を手掛ける探索型の3Dホラーアドベンチャーだ。2017年にフリーゲームとして公開され話題を呼んだ『影廊-Shadow Corridor-』(※)の続編にあたる作品で、プレイヤーは前作同様、都度構造を変える回廊を舞台に、恐ろしい徘徊者から逃れつつ、各ステージのクリアを目指していく。

 開発・発売元のSpace Onigiri Gamesは、ゲームクリエイター・城間一樹氏が個人で運営するゲーム会社。同氏は大学院の中退後、フリーターとして働きながら独学でゲーム制作を学び、『影廊-Shadow Corridor-』をリリースした。前作が一定の成功を収めたことから注目度が高まると予想された今作でも、個人による制作体制を継続。小規模制作のホラーゲームがたびたび話題を集める昨今のゲームカルチャーのなかで、トレンドを牽引してきた1人として、その存在感を示している。

 『Shadow Corridor 2』は現状、PC(Steam)限定で配信されているが、今後はPlayStation 5PlayStation 4Nintendo Switchにも移植予定。Steam版の価格は2,480円となっている。なお、2024年4月6日までの期間、20%OFFの1,984円で購入できるリリース記念セールも開催中だ(価格はともに税込)。

※リリース当初は無料で公開されていたが、2024年4月現在はさまざまなバージョンアップをくわえ、『Shadow Corridor』(あるいは『Shadow Corridor シャドーコリドー 影の回廊』)として有料(Steam版:820円、PlayStation 4Nintendo Switch版:1,980円)で販売されている。

■恐怖・ユーザー心理への咀嚼度の高さが、無二の恐怖感を演出

 まもなくリリースから1週間を迎える『Shadow Corridor 2』だが、現時点での評判を見るかぎり、期待の続編として上々のスタートを切ったと言えそうだ。Steamに寄せられたレビューでは、全体の約9割にあたるユーザーが好評とし、「非常に好評」という高いステータスを獲得している(2024年4月4日時点)。これは評価数が500件に満たないタイトルにおいて最上位のもの。第1作『Shadow Corridor』が分類されているのもこのランクであることを踏まえると、『Shadow Corridor 2』は、ファンの大きな期待に応えられていると考えられるのではないか。

 大手が開発・発売を手掛けるタイトルでは、注目のなかでリリースされた続編がファンの期待に応えられず、評価を落としてしまうことが珍しくない。『Shadow Corridor 2』は個人制作だからこそ、開発に対する姿勢や当初のコンセプトがブレず、良い結果へとつながった面もあるのだろう。今後は前作と同様に、実況・配信の文化から口コミで支持を広げていくものと考えられる。ホラーのジャンルが盛り上がる夏ごろには、その名もさらに知られていくはずだ。

 「Shadow Corridor」の最大の魅力は、ゲームプレイが持つ手ざわりにある。「おどろおどろしい場所を着の身着のままで探索する」というシリーズの基本設計は、古くから人々のあいだで親しまれてきたアナログゲーム肝試し」のそれに類似する。現実世界では、規模が大きくなるほど、倫理的にも精神的にも忌避されやすいこの遊びだが、好奇心という人間の根源的感情に呼応する意味ではとてもよくできている。平安時代末期に書かれた歴史物語『大鏡』には、当時から貴族のあいだで親しまれていたとの記述もあるという。

 このように1000年以上の長きにわたり愛されてきた定番の遊びをビデオゲームへと落とし込んだのが、「Shadow Corridor」シリーズである。集まる支持は、恐怖や好奇心肝試しといったシリーズのモチーフに対するプレイヤーの関心の一端とも捉えられるのではないか。バーチャルだからこそ(肝試しにあった)諸々の事情を気にすることなく没頭でき、かつ(肝試しと比較し)恐怖との距離感もちょうどいい。このような性質こそが「Shadow Corridor」の大きな魅力となっている。

 とはいえ、そのような設計を持つホラーゲームであれば、ほかにも少なからず存在しているだろう。「Shadow Corridor」の恐怖体験には、その他大勢にはない独自のスパイスがくわえられている点にも言及しておかなければならない。たとえば、「襲い来る脅威を隠れてやり過ごす」という仕様は、類似ジャンルであるサスペンスからの借り物である。ホラーとは親和性の高いこの要素に、ある意味でトラウマ的な恐怖を感じてしまったプレイヤーも多くいるのではないか。肝試しのように「もしかしたら何かがいるかもしれない場所」ではなく、「確実に何かが存在しており、ともするとプレイヤーに気づき、襲いかかってくる場所」だからこそ、探索にはこうした緊急的な退避が必要となる。この点はシリーズの独自性であると言えるだろう。

 また、良質なSE、意図されたUIの不自由さも体験に緊迫感を与えている。プレイヤーのなかには、脅威とは直接的に関係のない環境音に飛び上がったり、迫る脅威に冷静さを失うなかで適切なアイテムを使うことができずゲームオーバーとなってしまったり、といった経験を持つ人も多いはずだ。これらは恐怖、プレイヤー心理に対する城間氏の咀嚼度の高さとも言い換えられる。「Shadow Corridor」には、ホラーゲームを演出するために必要となる緻密な設定が随所に散りばめられている。

 続編への期待が高まるなかリリースされた『Shadow Corridor 2』には、さまざまな進化点も盛り込まれている。ホラーゲームのプレイが好きな人は実際に手に取って、どうしても苦手だという人はお気に入りのストリーマーによる実況・配信を通じて、同タイトルが描き出す恐怖の世界に触れてみるのはいかがだろうか。

(文=結木千尋)

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