コーヒーを淹れる際に必須の水ですが、水道水の場合、「硬度の違いがコーヒーの味わいに影響する」と畠山大輝氏はいいます。家庭でも挑戦できるおいしいコーヒーの淹れ方について、畠山氏の著書『至高のコーヒーの淹れ方』(エクスナレッジ出版)より、詳しく見ていきましょう。

関東の水は硬度が高い

「家庭でコーヒーを淹れるときの水は、何を使ったらいいですか?」とよく質問されますが、基本的には浄水器を通した水道水で淹れるのがいちばんいいと思います。

浄水器については、蛇口に取り付ける一般的なタイプでOKですが、住宅事情などでそれを取り付けていないという場合は、ブリタなどの浄水ポットでも塩素などの匂いは十分に抜けます。ただ、浄水ポットは使うたびによく洗って、常に清潔な状態にしておかないと、むしろ水に悪影響が出るので気をつけてください。

一方、水道水については、注意してもらいたい点があります。それは水の硬度です。

水の硬度というのは、水の中に含まれるカルシウムマグネシウムの合計含有量を表す指標で、mg/Lという単位で表します。

この硬度の値は、コーヒーの味わいに多少なりとも影響を与えます。硬度が高ければ高いほど味は強めに出て、逆に低ければ低いほど味は柔らかめに出ます。

日本の水道水の硬度の平均は50より少し低いくらいといわれていますが、例えば、私のお店がある埼玉県の東部の地域は、全国的に見てもやや硬度が高く、季節や天候にもよりますが、だいたい硬度60から80の間くらいです。

これが東海地方よりも西にいくと硬度50未満の地域が多くなり、奈良、大阪、岡山、広島あたりになると30や20、中には10など、すごく低い地域もあります。四国も概ね低い傾向ですが、九州ではやや硬度が上がる地域もあります。東北地方から北海道にかけても硬度が低い地域が数多くあります。

硬度が低いとフレーバーが出にくい

硬度の違いがコーヒーの味わいに影響すると言いましたが、仮に硬度80の地域で焙煎した豆を、硬度20の地域に持っていって淹れるとどうなるか。この場合は、味や香りが弱めのコーヒーが出来上がります。なぜなら、焙煎をする際のカッピング(146ページ参照)を硬度80の水で行っており、それが焙煎の味や香りを決める基準になっているからです。

以前、大阪の有名コーヒー店にゲストバリスタで呼んでもらった際に、この現象が起こりました。埼玉の自宅で焙煎したコーヒー豆を持っていって抽出したところ、フレーバーが全然出ないし、甘さも何か物足りない。焙煎時はそうではなかったのに、いつの間にか、とても浅煎りのコーヒー豆に変わってしまった感じです。

そのときは、「あれ? どうしたんだろう? 焙煎をミスしたかな?」と焦ったのですが、すぐに原因が埼玉と大阪の水の違いにあることに気づき、少し湯温を上げたり、挽き目を細かくしたりして調整を試みました。単純に挽き目を細かくするだけでは、抽出が進みやすくなって雑味なども出やすくなるので、時間を短めにするなど、抽出の変数を調整しなければならず、なかなか大変でした。

日本でも硬度を気にした方がいいワケ

よく「軟水」とか「硬水」という言い方をしますが、硬度が低ければ軟水、高ければ硬水で、日本の水は世界的に見ると概ね軟水と位置づけられています。

そのため、これまでコーヒーの抽出に関しては、あまり硬度は注目されてきませんでした。その点、地域によって硬度の違いが大きい海外は、硬度のコントロールに関する知見が日本よりも古くからある印象です。

ただ日本でも、最近は全国から、ときには海外からもインターネットでスペシャルティグレードの焙煎豆を買うケースが増えてきました。そういう豆を入手して淹れるときは、お店がある地域の硬度についても、気をつけておく必要があると思います。

例えば、大阪のお店で焙煎された豆を埼玉で淹れて飲む場合、大阪の水と埼玉の水では、明らかに味の出方が違うはずです。先の私の例とは真逆で、大阪の水より埼玉の水を使って淹れた方が味や甘さ、ビターさが強く出てきます。その味でいいのであれば問題ないですが、もうちょっと穏やかな味にしたければ、大阪に近い硬度の水を使うか、挽き目や湯温、時間などで抽出の調整をすべきです。

地域の水の硬度は、自治体や水道局のホームページで調べることができるほか、公益社団法人「日本水道協会」のサイトの「水道水質データベースで、全国の浄水場の数年分の詳細な水質データが公開されています。季節や降雨の影響で変わる場合もあるようですが、地域ごとにだいたいの傾向をつかむことができるので、活用してみてください。

市販のミネラルウォーターを活用する

コーヒーを淹れるために水の硬度をコントロールしたい場合、最も手っ取り早い方法は市販のミネラルウォーターを使うことです。

スーパーやコンビニ、インターネットなどで販売されているミネラルウォーターには、軟水から硬水まで幅広い製品がそろっています。硬度が20の地域のお店で焙煎されたコーヒー豆を、硬度が80の地域の人がネット通販で買った場合は、硬度20にできるだけ近い市販のミネラルウォーターを買ってきて、その水で淹れてあげればいいわけです。

逆にヨーロッパなど、硬度が高い国の豆は、硬度が高めの水で淹れてあげるといいでしょう。ただし、あまりに硬度が高すぎると、苦味や重たさが強くなるので注意が必要です。

水の成分を細かくカスタマイズ

さらに細かく水をコントロールしたいなら、マグネシウムカルシウムを添加する方法もあります。マグネシウムは、ドラッグストアやインターネットで販売されている「硫酸マグネシウムを使います。「エプソムソルト」という名称で食品添加物扱いになっているものもあります。これをミネラルウォーターで希釈して濃縮液を作り、その濃縮液をコーヒー抽出用の水と混ぜ合わせたものを沸かしてコーヒーを淹れます。カルシウムは、「硫酸カルシウム(食用石膏)を使って濃縮液を作り、それと水を混ぜ合わせて使います。

そのほか、重曹を添加することで、「炭酸塩硬度」をコントロールする方法もあります。炭酸塩硬度が少なめの水は酸の出方が強く、多めの水は酸の出方が穏やかになります。酸の出方に関しては有効な調整手段として最近注目を集めています。

このようにコーヒー抽出のために水の成分調整をすることを「カスタムウォーター」といいいますが、これは、実際にやってみると、けっこう手間がかかる作業です。細かな計算をしなければならず、扱う粉末が微量なため、精度の高いスケールが必要になります。

そこで活用したいのがアクアコード」(115ページ参照)のようなカスタムウォーター用のキットです。マグネシウムカルシウムがコーヒー抽出用に最適化された比率で配合されていて、希釈すべき水の分量もわかりやすく表示されています。

畠山 大輝

Bespoke Coffee Roastersオーナー

コーヒー焙煎士/コーヒー抽出士

(※写真はイメージです/PIXTA)