デモス・チャン(Demos Chiang)

東洋の伝統を軸に様々な手法で表現活動を行う台湾出身のアーティストのデモスチャンDemos Chiang)は、3月23日4月10日に銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM(GINZA SIX6F)で『CHERISH BLOSSOM』を開催。2度目となる日本での個展で桜をテーマにした理由から、アーティストとしての信条までを本人にたずねた、特別インタビューをお届けする。

デモス・チャン(Demos Chiang)

「どの作品も触ってもらえるペンキで描きました」

──桜をテーマにされた今回の個展、まずは概要を紹介していただけますか?

伝統をもとに創作する活動を続ける中で、日本でも中国でも古くから人々に愛されてきた桜に注目しました。様々な桜を表現した作品を披露するのが今回の個展ですが、技法の話をすると、どの作品も壁を塗るペンキを使ったのが特徴です。触ってもらっても剥がれないので、ぜひ触れてみてください。

──絵画作品に触れるなんて、恐ろしくてできません。

まったく大丈夫。実際に指で触れると、日本イメージの桜と中国イメージの感触が違っていることがわかるはずです。龍もそうで、鱗の感触を表現しました。

──なぜ触ってもかまわない作品をつくったのですか?

一般的に絵画は見るものとされていますが、アーティストは心で描いているのです。その心を感じてもらえたらと思って、今回はペンキを選びました。ペンキのおもしろさは、完成をコントロールできないところにもあります。あえて異なる4社のペンキを使いましたが、それらが混ざって化学反応を起こすとき、弾き合うのか吸収するのか、描いてみるまでわかりません。乾燥時間もまちまちだから、本当に先が読めない。それは陶芸にも似た作品づくりの醍醐味です。

──予測不可能は不安にならないのですか?

まったくならないです。絵が僕にどう描いてほしいか教えてくれますから。現代の世界は、誰もが確信を得たくて仕方ない時代です。たとえばLINEでやり取りすれば、すぐに既読か未読が判明しますが、瞬時に判明しないと不安に陥ります。つまり確信を欲しすぎている。しかし僕の幼い頃にはLINEなど存在しなかった。だから何かしらのメッセージを発したとき、確実に伝わる確信がない分、様々な想像を楽しむことができました。ですから、見たことのない未知や、どうなるかわからない未来はとても貴重だし、僕の活動でもとても大事なのです。

デモス・チャン(Demos Chiang)

「ある時期に足を運ばなければ体験できないものの象徴として」

──動物を描くことが多い中で、桜をモチーフに選んだ理由を教えてください。

先にお話したように、長く愛されてきた古典的シンボルであることが一つ。それから、僕は日本が大好きで何度も訪れているのですが、京都で偶然お会いしたおばあさんの言葉がインスピレーションになっている部分もあるのです。山を燃やす行事です、何と言いましたっけ?

──京都五山の送り火でしょうか。

そう。それを見に行ったら、僕の横にいたおばあさんが「この光景をもう一度見ることができてよかった」と、心から感動されていたんですね。その姿が、ある時期に足を運ばなければ体験できないものの象徴として、いつしか桜とつながりました。日本の春に桜の絵の個展を開いたことに狙いはありませんが、もしまだ実際の桜が咲かないようであれば、ぜひここに来て希望を持ち帰ってほしいです。

──今回の展示で実感したのは、日本人の感覚にない桜を楽しめることです。

桜にもいろんな印象があります。僕の息子はカッコイイと思うかもしれないし、娘はカワイイと言うかもしれない。僕はそのすべてを取り入れて、よりゴージャスな桜を表現したかったのです。

──盆栽アーティスト集団「TRADMANʼS BONSAI」とのコラボレーション作品が展示されていたのも興味深かったです。

僕は「檜⿓」という名の、真鍮(しんちゅう)製の彫刻をつくりました。盆栽も長い歴史を有する伝統文化です。台湾出身の僕の作品との融合を楽しんでもらえたらうれしいです。

デモス・チャン(Demos Chiang)

──日本が好きとおっしゃいましたが、この国にどんな興味を持っているのですか?

歴史や建物も好きですが、もっともユニークに感じているのは、海外のカルチャーを吸収して独自に取り込んできた文化の形成です。その顕著な例は、英語をカタカナで表すところです。日本には16歳から年に2、3度訪れてきました。そのおかげでたくさんの友人ができたことも日本が好きな理由です。そうして長い時間をかけて築き上げた関係性は、ジムで鍛えた筋肉と同様に、誰にも奪われないものですから。

「見る人によって異なる完成を遂げるのが芸術」

──アーティストを目指したきっかけを教えてください。

アーティストになる前は、与えられた目的を明確にするデザインや設計をしていました。ただ、そういう人にサービスするような仕事を20年ほど続けてみて「そろそろ人にサービスするのはいいかな、もっと確実に生きたいな」という思いが強くなったのです。芸術は、自分の心を癒す空間を与えてくれます。僕が今日感じたことを描けば、それが今日の僕となって積み重なっていく。そこが芸術の素晴らしいところです。

──アーティストであり続けるための心構えはありますか?

難しい質問ですが、作品の評価や印象に関してアーティストが限定しないというのは大事だと思います。芸術は見る人自身の感覚で楽しむべきだし、見る人によって異なる完成を遂げるのが芸術とも言えます。また、絵を描ける人はたくさんいても、素晴らしいアーティストになるには心からのパッションが不可欠です。アーティストになって10年が経ちましたが、僕は今でも描きたいものがどんどんあふれ出てくる。毎日心を使って描けるからこそアーティストでいられるのだと思います。

デモス・チャン(Demos Chiang)

──使命感をお持ちですか?

絵を描くことでこの世界の何かを変えることはできません。ただし芸術は、長く続けることができます。たとえば今回の個展で僕の桜に触れてもらったイメージは、あるいは想像をはるかに超えて長く維持されるかもしれません。そうしたイメージの小さな積み重ねが、場合によってはいつか大きなものを動かす力になるのではないでしょうか。個人的には、僕の絵を好きだと言ってくれた人と会えると、また新しい友人ができたと感じます。それから、僕には二人の子供がいますが、彼らが僕を語るとき、アーティストとして勇気ある父親と言ってくれたらとてもうれしいですね。

──最後に、あえてたずねます。今回の個展『CHERISH BLOSSOM』に関心を寄せる人々に向けて、どんなメッセージを発しますか。

それは、僕の話を聞いてくれるすべての人がたずねてくれます。ですが、メッセージというものは特にありません。わがままに描いている絵に関心をもってくれて、なおかつ会場まで来ていただけるというなら、それ以上は何も言うことがありません。その上であえて何かをお伝えするとしたら、総じてお話しているように、僕の絵と心に触れる体験をしてください。繰り返しになりますが、芸術は感じるものです。

デモス・チャン(Demos Chiang)

Text:田村十七男

ARTIST INFORMATION

デモス・チャン(Demos Chiang)

Demos Chiang

Demos Chiang(蔣友柏:しょうゆうはく)は家族背景と若い頃の⻄洋教育により、デザインと芸術的創造において東洋と⻄洋の⽂化を統合した現代の新しい⽂⼈芸術スタイルを表現することができました。30歳のとき、彼は商業デザインにおいて優れた業績を上げ、複数の国際的な賞を受賞。近年では、彼の芸術的才能と教養により、グラフィックペインティング、インスタレーション彫刻、マルチメディアアートなど、さまざまな側⾯で創造性を表現しています。作品は、擬⼈化された動物を⽤いて彼の観察と世界への関⼼を表現していると同時に、作者の内なる感情の記録も表現しており、⾒る者に彼の鋭敏で感傷的な性質、万物に対する平等な扱い⽅を読み取ることができます。そして彼の誠実さ、粘り強い姿勢、特に各作品に書かれた英語の詩は、中国の⽂⼈書画の伝統を受け継ぎ、真実の感情と哲学的考察に満ちています。絵画技法には油⽔分離、絵の具の⾶沫、彩⾊などの⻄洋技法が⽤いられています。ナイフで削って何層にも重ねるテクスチャーが豊かな被写界深度を⽣み出し、筆運びのスピード感や画⾯の滑らかさを引き出します。 彫刻の制作に関しては、真空の概念を使⽤して、⼈⽣の変容の時間と瞬間を探求しています。「最も基本的なものを取り除き、最も核となるものを残す」というコンセプトは、彼の彫刻制作の考え⽅に貫かれています。 2021年には成都ビエンナーレ スーパー・インテグレーションに招待され、メインアーティストとして展⽰されたインスタレーション作品が⾼い評価を受けました。2023年の東京を⽪切りに、⼀連の⽬を引く国際展⽰会が上海をはじめ世界中を巡回し、各都市にユニークな芸術作品が展⽰され2024年、デモスはより創造的なエネルギーと新しい芸術的語彙を携えて再び東京に戻り、芸術に対する彼の新しい考え⽅と視点を⽰します。

EVENT INFORMATION

デモス・チャン(Demos Chiang)

Demos Chiang個展「CHERISH BLOSSOM」

2024年3⽉23⽇(⼟)〜4⽉10⽇(⽔) OPEN 11:00/CLOSE 20:00 ※最終⽇のみ18時閉場 銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM(GINZA SIX6F) 主催|銀座 蔦屋書店 企画制作|as STUDIO、MEGATRON 協⼒|TRADMAN'S BONSAI ⼊場|無料

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