「百獣の王」から「世界の百獣の王」へ。エンターテインメント界とスポーツ界で縦横無尽に活躍している武井壮が、50歳になったのを機に、かねてから公言していた「世界中で有名になりたい」という夢の実現に向けて、着々と行動を起こしていた。タイの映画2本に出演し、今後さらにグローバルな活動を目指していくという。日々成長を続ける武井に話を聞いた。

【動画】タイのドラマプロデューサーに出演交渉する武井壮

■デビューしたころに戻ったつもりで、1からスタート

 武井が出演する映画の一つは、2022年にタイでヒットしたSFホラーアクション映画『THE ONE HUNDRED』の続編で、タイトルは『TA BONG PLUM(タ ボン プラム)』(監督:PAKPHUM WONGJINDA※読み:パークプーム・ワォンジンダ)。タイで11月に公開予定となっている(※日本での公開は未定)。

 「かなり極悪な隻眼の日本軍人・タケシ役をいただき、タイの大自然を生かした壮大なロケーションで撮影してきました。僕が驚いたのはタイのVFX技術の高さ。サンプル映像を見せてもらったんですけど、ハリウッド映画の最新作を観ているような完成度の高さに驚きました。相当本格的な作品になってると思います」。

 どのような経緯で出演することになったのか?

 「かねてから『世界中で有名になりたい』という大きな目標があって。達成するにはまずは日本での知名度が必要だと思ったので、30代から日本で有名になるために、芸能界で通用するスキルを磨いて、39歳で芸能界デビューした時に自分に課したミッションが、10年間で日本中、どこへ行っても『武井壮だ!』と気づいてもらえる存在になる、ということ。実際、僕の名前と顔を本当にたくさんの方々に知っていただくことができたと思います。

 50代では次のステップとして、日本だけでなく、地球上のどこを歩いていても『武井壮だ!』と気づいてもらえるように、チャレンジしていこうと思って。1、2年前から少しずつ準備していました。手の届くものから一つずつやっていこうと思っていたら、タイから映画出演の話をいただき、第一歩を踏み出すことになりました。

 タイには何度も行ったことがあったし、昨年からゴルフのシニアツアーに出たり、そのシニアツアーのアンバサダーを務めたりしている中で、人脈を広げて種まきしていたものが、一つ芽を出したって感じですね。

 海外で仕事をするなら、まず映画だな、と思っていたので、日本人でも出られる作品があったら知らせてほしい、とアピールしていました。映画は知名度がなくてもちょうどいい役があれば比較的参加しやすいし、世界中で公開してもらえる可能性がある。もちろん、映画だけに固執してるわけではなくて、オファーをいただけるならなんでもやるつもりです。日本の芸能界でも『武井壮っていう人がいるね、動物倒すとか言っているよね、面白そうだから番組に呼んでみようか』といった感じで仕事が増えていったので、海外でも『日本でこういう作品に出ているね、海外でもこういう作品に出て、さらにこんな活動もしている、ちょっと呼んでみようか』みたいな感じでオファーが増えていったらいいな、と思っています」。

 ゴルフ留学の経験がある武井は日常会話程度の英語は話せるが、「言葉の壁なんかない」が持論。「母国語である日本語のしゃべり方については、芸能界でやっていくためにすごく研究して、勉強してきましたけど、外国語でそこまではできない。でもお互い好意を持って接してて、あなたを尊重しますということが伝われば、仲良くなれる。その国の言葉を完璧にしゃべれなくても、愛される人は愛されるし、流ちょうにしゃべることができても嫌われる人は嫌われる。言語ができるかどうか、気にしすぎだと思うんですよ、日本人は」と、タイでの撮影も問題なかったという。

 「通訳してくる人がいるところでは通訳さんに頼みましたけど、言葉が通じなくても取れるコミュニケーションはたくさんあると思うんですよね。実際、タイで撮影している間、待ち時間もけっこうありましたけど、アクションコーディネーターの人から銃の持ち方を教わったり、殺陣の練習をしたりしていてずっと楽しかったですし、タイの人たちも好意的に受け止めてくれてとても優しかったです。現場では、日本と違う環境だけど、僕はたいていのことは『大丈夫』だから、スタッフさんや共演者さんとの関係を大事にすることからはじめたいな、って。海外ではまだ知られていないので、39歳でデビューしたころに戻ったつもりで、1からスタートだなって、思うんです」。

■頑張ってきたことが報われた、予想以上の10年

 武井がテレビで活躍するきっかけとなったのは中居正広がMCを務めていた番組『うもれびと』(フジテレビ)。百獣の王を目指す男として出演したのが2012年5月。それから半年も経たないうちに『笑っていいとも!』へのレギュラー出演(2012年10月~14年3月)が決まった。それから、40代の10年間を獅子奮迅、疾風のごとく駆け抜けた。

 現在も、テレビやラジオなどのメディア出演を中心に活躍しつつ、環境省サスティナビリティ広報大使、ワールドマスターズゲームズ関西応援大使、東京都TOKYOパラスポーツプロジェクト「TEAM BEYOND」メンバーなど多岐にわたって活動している。

 「予想以上の成果が得られた10年だったと思います。デビューしたその年に『笑っていいとも!』にレギュラー出演できたことをはじめ、タレントとして出たいなと思っていた番組にほぼ全て出られたと思いますし、レギュラー番組もやらせてもらって、冠番組を持たせてもらって、自分がMCの番組もあって。コマーシャルもたくさんやらせていただきました。大河ドラマや朝ドラにも出られました。30代で頑張ってきたことが報われたし、予想以上にかなった10年間だったなと思います」。

 芸能以外でも、マスターズ陸上の世界大会に出場したり、昨年7月にはゴルフのティーチングプロテストの実技試験に合格するなど、スポーツの分野でも活躍。日本フェシング協会会長(21年6月~22年11月)も経験した。

 「マスターズでは個人で銅メダルリレー金メダルを2個獲ることができました。ゴルフもティーチングプロの資格の試験に合格することができました。芸能の活動をしながら、さらに元々、やってきたスポーツの分野でも結果が残せたのは本当に予想以上の成果。やれることは全部やったと感じています」。

 本格的に世界進出する50代ではどんなプランを描いているのか?

 「僕が心がけているのは1つだけ、『毎日、やるべきことをやる』。毎日体を鍛えておくとか、新しいスキルを手に入れるために練習するとか、勉強するとか、いつか役に立つんじゃないかな、と思ったことを毎日1時間ずつでもやり続ける。僕は体を使ったトレーニングを毎日1時間、技術練習を1時間、勉強を1時間、毎日3時間のルーティンをやっています。そのおかげで今がある。いつかどんなチャンスが来てもいいように鍛えておこうって思って、いまもひたすら自分を準備しています」。

 実現可能な計画を立ててあきらめずに取り組むストイックさ。「日々成長」を掲げる武井らしさでもある。

 「たまにネットで“この人何でテレビ出れてるの?”とか、“何が面白いの?”とか書く人いるじゃないですか。それを見るたびに思うのは、芸能界には、話が面白い、仕切りがうまい、歌がうまい、お芝居がうまい、ルックスが抜群にいいなど、いろんなものを持ってる人が集まっているけど、それだけじゃないということ。ずっと活動をし続けるというのも大事だし、僕自身がなんでテレビに出られるのか考えてみたら、いろいろ準備してきたことが生かせているからなのかなって。やることが決まってて準備するんじゃなくて、実現するかどうかもわからないことに対して準備するって、わりとできないんですよ。さぼっちゃうし、やめちゃうし、一番難しいんじゃないかな。いろいろ準備していることが伝わって、仕事をもらえてるのかなと思うんです。日本一面白いわけでも、日本一かっこいいわけでも、日本一お芝居ができるわけでもないけれど、ひたすら努力を続けるのは日本一得意だと自分では思っているんです」。

 成功する秘訣は何にたいして努力を続けるか。そこに戦略も必要だと武井は言う。

 「ただ好きなことを努力してるだけでは仕事はやってこない。いろんな人と交流して、いろんな人とつながって、その人たちのニーズを理解して、見極めて、自分に足りないものは何か、どんな準備をすればいいかをきちんと考えて、努力する。独りよがりで頑張っても思ったような成功は手に入らない、正しく戦略的に考えて、それに向けて自分の時間を使う。それでも報われない努力もあるかもしれない。

 僕は大学時代に陸上部に誘われて、十種競技で日本チャンピオンになったけど、マイナースポーツだったがゆえに、『世界中で有名になりたい』という夢をかなえられず、道を変えることにした。十種競技で今と同じかそれ以上の知名度を手に入れていれば、芸能界に行く必要はなかった。でも若い頃の夢以上に膨らんだ道をこれからもどんどん進んでいきたいです!」

 世界を自由自在に飛び回る武井の活躍に期待したい。

タイ映画『TA BONG PLUM(タ ボン プラム)』パークプーム ワォンジンダ監督と武井壮