経済産業省が国産ジェット旅客機の開発へ、再び動きを進めました。三菱MSJが失敗した直後のこの発表。国がこのタイミングで再び乗り出す背景には何があるのでしょう。

去年開発中止の「三菱スペースジェット」

三菱スペースジェット(以下MSJ)が失敗に終わった国産旅客機へ、経済産業省が国として再び挑もうとしています。2024年3月末、産業構造審議会に2035年以降の事業化をめどにした「航空機産業戦略」を示しました。MSJの「失敗の教訓」も踏まえるようですが、いささか唐突に案を出したとも思えます。

世界でも淘汰が進んだ「旅客機メーカー」の誕生へ、国がこのタイミングで再び乗り出す背景には何があるのでしょう。

2023年2月に事業撤退となったMSJは、国産初の旅客機として登場したプロペラ式のYS-11以来の国産旅客機にすべく、2008年にプロジェクトが始まりました。しかし、6度の延期を経ても、商業運航に欠かせない米連邦航空局(FAA)の「型式証明(TC)」を取ることが適わずに頓挫。自国で開発・製造し、実際に海外も含めた航空会社に販売され、商業運航もできたYS-11より“後退”した結果に終わりました。

他方、世界の旅客機メーカーは、巨額の開発費を回収するのに時間がかかることなどから寡占化が進み、数は限られているのが実情です。こうした荒波に経産省が再度挑むのは唐突と見られつつも、不安と期待が一緒になって受け取られています。

経産省の発案の背景には、MSJで一度は得た技術を絶やしたくない意図があるとみられています。しかし。新しい案がMSJに続く結果となれば、日本が民間旅客機を開発する機会は金輪際なくなってしまうかもしれません。

経産省もそれは避けたいのでしょう。新型ジェット旅客機は、機体の規模などは明らかになっていないものの、MSJのように1社体制ではなく複数社で挑戦し、水素など将来の動力源も視野に入れるとされています。MSJはあくまでも民間企業主体という形でしたが、今回は国の主導が前面に現れているように窺えます。

「どうしても実用化したいなら奥の手も…」とはいかず?

仮に再挑戦する機体がTC取得にまでたどり着いた場合、MSJの轍を踏まない手段は考えられるのでしょうか。ひとつ有効なのではないかと一部で浮上している策は、米国のTC取得前に日本の国土交通省航空局がTCを発効し、日本国内でのみ運航し知見を蓄えた末にFAA(アメリカ航空局)のTCを取得するというものです。

実際MSJでも日本のTC先行が有効、との声もありました。ちょうど、中国がARJ21やC919を自国内でのみ運航させているのと同じ手法です。

MSJでは、国内航空会社の受注数は57機と限られていたことから、世界をマーケットとするうえで、どこまで国内先行策が有効だったか分かりません。むしろ、日米関係の下でFAAのTCも同時に取らなければ、世界中から日本の技術力が疑問視される可能性すらあります。となると、現状ではあくまで、FAAをはじめとする各当局のTC取得を目指すスタンダードな手法が取られると見られます。

国産旅客機への再挑戦は、経産省がどれほど本気か、産業界にそれがしっかり波及するかを今後見ていかねば結論は出ません。MSJ失敗を身に染みて知る関係者が活躍しているうちに、失敗のままでは「もったいない」、それを「有効活用」するのが良いとの判断は理解できます。

一方、日本の航空機産業が取り組む航空自衛隊の「次期戦闘機」は英伊と共同開発なだけに、開発力も生産への雇用も3か国で分割されます。そのため、民間旅客機にも再度望みを託した可能性もあります。

MSJの開発が始まったのは、YS-11の生産が終了した1973年から35年後でした。経産省2035年の量産を目指すとするだけに、開発のゴーサインにさえも時間的な余裕はないと言えます。

三菱航空機「スペース・ジェット」(画像:三菱航空機)。