「今日はどうしても勉強する時間を確保できなかったなあ…」という日もあるもの。そんなときは聴覚を利用した勉強法が効果的です。脳内科医の加藤俊徳氏の著書『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)より本文を一部抜粋して、 解説します。

時間がない人は眠る前に聴覚を活かした勉強法

聴覚は、朝一番に活動を始めて、1日の最後、眠る直前まで活動を続けます。 ベッドに入って目を瞑れば視覚から入ってくる情報は遮断できますが、耳から入ってくる音を遮ることは不可能です。 この脳番地の働き方を活用して、夜、眠る直前の時間を活かした勉強法をご紹介しましょう。 日中、どうしても勉強をする時間がとれなかった。働いていれば、そんな日もあるでしょう。しかし、「あぁ、今日は何もできなかったな……」とネガティブな感情を抱えたままベッドに入るのはよくありません。 せめて音読だけでもして眠りにつきたいところですが、それをやる気力も湧いてこない日は、オーディオブックやラジオなど、耳から学べるツールを使ってみましょう。 オーディオブックやラジオは、電車や車での移動中などの隙間時間にも活用できますし、忙しい大人にとってとても便利なツール。 しかも、前述したように聴覚系脳番地は記憶系脳番地に対してアピール上手です。視覚系が優位な人も同様に、脳番地の働きを強化する脳トレだと思って、オーディオブックやラジオによる学習を取り入れてみましょう。 人の記憶は眠っている間に整理されて定着します。 この脳の特性からしても、眠る前に耳から情報を取り入れる聴覚を活かした勉強法はおすすめです。

ウォーキングで脳の情報処理能力をアップする

運動系脳番地は、すべての脳番地のエネルギー源です。 人間はお母さんのお腹の中にいるときから手を握ったり指しゃぶりをしたりして、運動系脳番地を働かせる準備をしています。そして、誕生してすぐに泣き、手足を動かし、脳の機能を発展させていきます。 運動系が働くから視覚系と聴覚系も働くし、視覚&聴覚によるインプットがあってはじめて、アウトプットも成立します。 つまり、運動系は脳全体を回すトリガーであり、運動をしないと頭が悪くなってしまうのです。 脳全体が回らないと脳の情報処理能力も低下します。 脳の中で情報をイメージする際に働く言語操作にも運動系が関わっているため、クリエイティブな能力も削がれていきます。 運動の中で私がおすすめするのは、ウォーキングです。 デスクワークが中心の人なら、1日の中で合計60分を目安に歩きましょう。 これで、脳の健康維持が期待できます。   より活発に脳を働かせて知的生産性を高めたい場合には合計80〜90分くらい歩く時間を作るようにするのがいいでしょう。 仕事中に身体を動かす機会があるようであれば、それとは別に30〜40分歩くようにします。 歩く時間帯によって、ウォーキング中の脳番地の使い方をコントロールするのもおすすめです。 仕事終わりで脳の疲労を感じているようなときは、なるべく人混みや店が立ち並ぶ通りは避けて目に入ってくる情報量を減らし、ボーッとしながら歩くことで脳の疲れを癒やします。 歩くことが健康維持につながるのはもちろんのこと、適度な疲れを感じることで睡眠の質が高まることも、脳にとってはとても重要なファクターです。   私は、毎朝1時間歩くことを習慣にしています。 運動系脳番地を積極的に動かすことで、脳番地のエネルギーはアップし、頭をよくするのですから、歩くことを軽視せず、毎日の習慣として取り入れていきましょう。  

就寝前に復習したらそのあとスマホを見てはいけない

よく知られているように、眠りには浅い眠りの「レム睡眠」と深い眠りの「ノンレム睡眠」があり、これを1セットとして一晩に何度か繰り返しています。 人の脳は眠っている間にも活動し、浅い眠りの「レム睡眠」のときに記憶を再生・整理し、深い眠りの「ノンレム睡眠」時に長期記憶を形成するとされています。 レム睡眠とノンレム睡眠が交互に訪れるような睡眠のリズムが整っていないと、人は賢くなれないのです。この睡眠のシステムを利用して、眠る前に頭の整理をすることで、より記憶は定着しやすくなります。

毎日、寝る1時間くらい前に、覚えたいことを振り返って、整理してみます。 これだけでも記憶系を働かせることができておすすめですが、さらに一歩踏み込んで、これはしっかり記憶しておきたいという内容について、復習するようにします。 声に出すことで聴覚系脳番地を働かせ、海馬に「これは重要だから覚えておいてね」というメッセージを送り、寝ている間に記憶に定着しやすい状況を作っておくのです。 ここで注意したいのは、記憶に定着させたいことを復習したら、他の情報をなるべく入れないようにすることです。 脳には、より最新の情報を上書きするような仕組みがあります。 なので、ベッドに入ってからスマホをいじったりしてしまうと記憶の撹乱が起きて、覚えておきたかったことの定着率を下げてしまうのです。

1日の終わりに今日を振り返ったらさっさと寝る。 これが記憶力を高める寝る前の勉強法です。 また、脳番地を働かせるという観点からも眠りは重要です。 日中の脳は、神経細胞やグリア細胞(神経細胞以外の細胞の総称)などの活動で埋め尽くされ、疲労物質などが溜まりやすい構造になっています。 ノンレム睡眠時は脳内のごみ処理も行われるため、疲労物資が排出されやすい環境です。認知症にも関わるアミロイドβやタウタンパクの排出にも深く関わっているため、しっかり眠ることが脳の健康には欠かせません。 生体リズムの観点からは、22時には眠るのが望ましいのですが、ビジネスパーソンにとっては少し難しいと思うので、できれば23時、遅くとも日付が変わる前に眠ることを心がけましょう。 ちなみに、アメリカの睡眠財団では26〜64歳の推奨睡眠時間を7〜9時間としています。しっかり7時間以上の睡眠を確保することも大人の勉強法には必須です。

加藤 俊徳

加藤プラチナクリニック院長/株式会社脳の学校代表

脳内科医/医学博士

(※写真はイメージです/PIXTA)