第72回カンヌ国際映画祭の審査員賞受賞作「レ・ミゼラブル」で注目を集めた、フランスの気鋭監督ラジ・リが、"排除"と"怒り"の衝突を描いた新作「バティモン5 望まれざる者」の本編映像(https://youtu.be/WPuIH1iBxlo)を、映画.comが入手した。舞台は、パリ郊外(=バンリュー)に存在する、都市再開発を目前に控えた居住棟エリアの一画、通称「バティモン5」。同所の住人であるアビーが、市長ピエールを前に、冷酷な権力の暴走に憤る姿が切り取られている。

フランス語で郊外を意味するbanlieue(バンリュー)は、「排除された者たちの地帯」という語源をもつ。19世紀から労働者の街として発展し、戦後は住宅難を解消する目的で、大量の団地が建設された。団地人気が低下する1960年代末より、旧植民地出身の移民労働者とその家族が転入し、貧困や差別などの問題が集積する場となった。

本作では、第92回アカデミー国際長編映画賞にノミネートされた「レ・ミゼラブル」のラジ・リ監督とスタッフが再集結。「レ・ミゼラブル」と地つながりのテーマを採用し、バンリューが抱える問題を、持ち前の臨場感に新しい視点を交えて描き出した。コミュニティ内にある「権力」「革新」「暴力」の3つの視点を交錯させることで、バンリュー地区の実態、ひいては花の都パリの知られざる"暗部"をあぶり出していく。

舞台となるバティモン5では、再開発のために、老朽化が進んだ団地の取り壊し計画が進行している。前任者の急逝で臨時市長となったピエールは、自身の信念の下、バティモン5の復興と治安改善のための政策の強行を決意する。しかし、その横暴なやり方に住民たちは猛反発。やがて、移民たちに寄り添い、ケアスタッフとして長年働いていたアビーたちを中心とした住民側と、市長を中心とした行政側が、ある事件をきっかけについに衝突し、激しい抗争へと発展していく。

市長がバティモン5の住民たちに突如突きつけた、身勝手な「強制立ち退き勧告」。本編映像では、突然の通達に怒りがおさまらないアビーが、市長室に乗り込む。団地はこれまで放置されていたにも関わらず、市長が変わった途端に、「整備のため」強制的に追い出されることとなった住民たち、アビーは「どの家族も20年以上ローンを返してきた」「あの地区を何年も荒れ放題にしてきて今更建て替え? 私たちを追い出すためよ」と憤るが、市長は「値がつかない部屋を建て替えのために買い上げる」と吐き捨てる。

実際に、犯罪多発地区モンフェルメイユに住んでいたラジ・リ監督の経験が元になった本エピソード。「『バティモン5』という映画のタイトルは、まさに私が育った建物の名前です。私自身、フランス最大級の都市再生計画の実施の様子を目にしました。同時に地域住民がその被害者になる様子も目の当たりにしました。この映画で描かれている住民の強制退去、彼らのアパートをとんでもない安値で買い取る過程は、私が強く印象付けられた現実です」と語っている。

「バティモン5 望まれざる者」は5月24日から、東京の新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開。

市長が突如、身勝手な「強制立ち退き勧告」を住民たちに突きつける (C)SRAB FILMS - LYLY FILMS - FRANCE 2 CINEMA - PANACHE PRODUCTIONS - LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE – 2023