アニメ「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」(星見純那役)、「ラブライブ!サンシャイン‼︎」(鹿角理亞役)、「ウマ娘 プリティーダービー」(ケイエスミラクル役)などの声優として活躍するほか、舞台俳優としても活動する佐藤日向。そんな佐藤にとって大切な「言葉」を題材にして書き下ろすエッセイ連載がスタート。記念すべき第1回のテーマは「きっかけ」。高校2年生の時に出演したミュージカル作品「グッバイ・ガール」の演出家マキノノゾミ氏から受け取った、舞台俳優を今でも続けるきっかけにもなっている言葉について綴る。

【画像を見る】「グッバイ・ガール」出演時、高校生時代の佐藤(写真中央)

■#1_きっかけ

最近私のことを知ってくれた人にとって「佐藤日向」と「舞台」は切っても切り離せない縁があるように見えているのではないかと思う。

舞台に立つようになったのは、実はここ数年だと言うと驚かれる。高校生の頃はまだ声優班に所属していなかったこともあり、それはもうガムシャラに、千本ノックのごとくオーディションというオーディションを受けては落ちてを繰り返す日々だった。

そんな時「グッバイ・ガール」というミュージカル作品のオーディションで、演出のマキノノゾミさんから「この作品(グッバイ・ガール)の映画を見たことがある?」と聞かれた。当時、高校2年生だった私は馬鹿正直に「予告だけ見ました!」と元気よく答えてしまう。アミューズあるある(と私は勝手に思っている)で、事務所名のあいうえお順に質疑応答を行われることが基本なため、私以降の受けている子たちはみんな、映画の感想やどこに感銘を受けたかを熱く語っていた。

「これは失敗したぞ」と私は内心苦笑いと冷や汗と諦めがごちゃ混ぜになっていて、オーディション中に落ちた確信を持っていた。あんなに記憶が飛びそうになるオーディションはなかなかないなと今書きながらも思う。しかし、後日マキノさんから元気のいい「予告だけ見てきました!」が合格の決め手だったと聞いた時、オーディションというものは何がきっかけで合格するのかが分らないものだと痛感した。

「グッバイ・ガール」は、私にとって初めて尽くしの舞台で今でも定期的に思い出す作品。本番にオーケストラで生演奏する舞台の場合、稽古場ピアノで歌の稽古をする、本役があってもアンサンブルとしても舞台に参加する、ウィッグのネットは自分で被りピンを刺すーー。

中でも一番苦戦したのはダンスだ。振り付けの先生から「あなたの踊りはまるでアイドルみたい。ステージのダンスではないわ」と言われたときの衝撃と恥ずかしさは今でも忘れられない。これまでのダンス経験がなければよかったと思ったことは一度もないが、その経験自体が通用しない、むしろ枷になってしまう場所があることをこの時初めて知った。

苦戦しながらも、たくさんの方にご指導いただきながら迎えた最終稽古の日。

「僕にとって舞台は航海と同じ。座組のことをクルーというのも、航海だからだ。ここから一カ月の公演期間、長旅にはなるけど荒波もこの座組、クルー一同で乗り越えましょう」

マキノさんからいただいたこの言葉は、私にとって舞台を続けるきっかけになっている。マチネ、ソワレ、上手、下手。知らなかった言葉の中にあった“クルー”という高校生の私でも知っている単語。この言葉のおかげで大変な稽古も、これからの公演も、どんな荒波が来ても「せっかくの航海なのだから楽しまなきゃ」と思えるようになった。

舞台のセットも回転式で小道具もレトロな雰囲気が可愛く、音楽もワクワクするものが多かったが、本作は配信がなくDVDにも収録されていない。だからこそ、私たちクルーとお客さんだけが見返すことができる特別な航海日誌のような存在になっている。

そして、この舞台をたまたま観てくれた事務所の方から、「君は舞台に立つとキラキラするから絶対に舞台に立つことを諦めたらダメだよ」と言っていただいたことで、今に至るまで舞台に立つことを大切にしようと思い続けられている。本作での私の役は、特段目立つものではなく、出番のトータル時間も5分弱だったにも関わらず、私の芝居を覚えていてくれて、私に言葉を届けてくれたことが嬉しかった。

何がきっかけで続けようと決心するかなんて分からないからこそ、きっかけを見逃さずに挑戦することが大切なのだと学んだ、声優をまだ目指していない頃の私の思い出。

佐藤日向エッセイ連載#2「担任の先生」は4月21日(日)更新予定です。「わたしことば」次回もお楽しみに!

佐藤日向が言葉をテーマに書き下ろすエッセイ連載「わたしことば」/事務所提供