現在火星を調査しているNASAの探査車「パーセバランス」が、科学者たちからの期待に見事応えてくれたようだ。太古の火星に生命が存在したどうかを現代に伝える岩石を発見したのだ。
その岩石は、かつて火星に水が存在しただろうことを強く示唆するもの。地球からパーセバランスを打ち上げる際、その目的地選びの決め手にもなった最重要サンプルだ。
それは水の存在どころか生物の痕跡までとどめている可能性がある。かつて火星に生命が存在したのだとしたら、その岩石から化石が見つかることもありうるのだ。
その岩石が採取された「マージン・ユニット」は、ジェゼロ・クレーターの西側のリム沿いにある帯状の地域だ。
軌道からの観測では、火星でもっとも炭酸塩が豊富な地域であることが確認されており、その側には河川デルタもある。
ジェゼロクレーターの西側のリムのそばにあるマージンユニットの地図。白点はパーセバランスが停止したところ。青線は今後のルートを示す / image credit:R.C. Wiens et al. 2024
こうした特徴は、パーセバランス(パーサヴィアランス)の目的地としてジェゼロ・クレーターが選ばれる決め手の1つだったほど重要なものだ。
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とりわけ注目されたのは「ブンゼン・ピーク」と呼ばれる岩石だ。かなり背の高い岩で、その表面には興味深い質感がある。
パーセバランスはブンゼンピークの岩石の表面を研磨しその組成を分析。さらにドリルでサンプルを回収した/ image credit:NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS
ポイントは、垂直に立っていることから作業中にホコリをかぶりにくいところだ。これが大切なのは、表面にホコリが付着すると、岩石の化学的性質を隠してしまうためだ。
パーセバランスが事前に行った分析では、ブンゼン・ピークは75%が炭酸塩の粒で、それらがほぼ純粋なシリカで固められたものであることが確認されている。
カリフォルニア工科大学のパーセバランスのプロジェクトに参加するカリフォルニア工科大学のケン・ファーレイ氏は、「これそがジェゼロ・クレーターで見つけたいと思っていた物です」と、NASAのブログで語る。
火星に水があったという証拠
科学者がそこまでこの岩石を求めてたのは、それを構成する鉱物のほぼすべてが、地球では水の中で作られるものだからだ。さらに岩石が形成された当時の気候まで伝えてくれる。
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さらに地球では、岩石から古代の有機物や生物の痕跡が見つかることがしばしばある。微生物の細胞のまわりに直に炭酸塩鉱物が形成されるので、うまく化石になるのだ。
たとえば、地球最古の生命の証拠の1つである「ストロマトライト」は、こうしてできたものだ。
それほどまでに重要なこのサンプルは「コメット・ガイザー」と命名され、火星で採取されたサンプルの中でも最優先で地球に送られるべきものとなっている。
このサンプルをさらに特別なものにしているのは、微晶質の岩石であることだ。
つまり、顕微鏡でしか見えない小さな結晶でできているのだ。地球のものなら、先カンブリア時代のチャートのように、シアノバクテリアの化石ができていることがある。
スウェーデン研究所(RISE)のサンドラ・シリエストレム氏は、「シリカと炭酸塩の一部は微晶質であるため、かつてそこで生息していたかもしれない微生物の痕跡を今に残しているかもしれません」と語る。
しかもコメット・ガイザーは、パーセバランスが採取したサンプルではもっとも古いものである可能性もあるという。
サンプルの75%は炭酸塩の粒で、それがシリカで固められている / Image Credit: NASA/JPL-Caltech
ジェゼロ・クレーターは湖だった?
パーセバランスのミッションはこれで終わりではなく、これからも調査が続けられる。だがコメット・ガイザーのようなサンプルは、ジェゼロ・クレーターについてのとある仮説を裏付けている。
すなわち、ここはかつては湖だったと考えられるのだ。これまでに判明しているマージン・ユニットの岩石の特徴は、それが古代の湖の岸辺に沿って形成されたらしいことを示唆している。
とはいえ、炭酸塩やシリカにはまた違った形成プロセスもあるため、今の時点ではまだ最終的な結論ではない。それでも、素晴らしい岩石のサンプルが採取されたことに科学者たちは興奮を隠しきれないようだ。
サンプルが地球に送られてきたとき、最終的な答えが出るのかもしれない。
References:Perseverance Finds its Dream Rock - Universe Today / Perseverance Finds its Dream Rock - Universe Today / written by hiroching / edited by / parumo
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