『VRおじさんの初恋』は“現実世界”と“バーチャル世界”という2つの世界を行き交いながら、さえない中年の独身男性・遠藤直樹(野間口徹)の初恋を描く新たな形のヒューマンドラマ。直樹は、自身の生きがいであるVRゲーム「トワイライト」の中では制服姿の少女・ナオキとして過ごしており、突如現れた美少女アバターホナミ井桁弘恵)と心を通わせていく。

『VRおじさんの初恋』倉沢杏菜 ©NHK

 

今回は、そんなナオキを演じる新星・倉沢杏菜さんにインタビュー。野間口さん演じる直樹と同一人物とも言えるナオキの役どころや演じる上で意識していたこと、野間口さんや井桁さんとの共演エピソードや本作の魅力などを聞きました。倉沢さんの女優としての一面に迫る話題にも注目です。

 

◆今回、ナオキ役はオーディションで勝ち取ったとお伺いしました。オーディション時、手ごたえなどは感じられましたか?

オーディションは緊張のあまりほとんど放心状態で受けていたのですが、いま振り返るとあの時の“心ここにあらず”という感じがナオキの雰囲気と少し通じていたのかなと思っています。ナオキを演じられると決まってから、監督方からは「お芝居が繊細で良かった」と言っていただき、とてもうれしかったです。

 

◆まずタイトルから目を引く本作ですが、最初に台本を読んだ時の印象は?

タイトルだけ見ると非現実的といいますか、普段の私の生活とはだいぶ掛け離れた雰囲気の作品なのかなと思っていたのですが、いざ読んでみるととても人間らしくもどかしく、でも温かくて繊細で…。ナオキともこの作品とも丁寧に向き合い、作品の良さを届けられるように頑張らないと、とあらためて感じました。

 

ナオキという役をどのような人物だと捉えていますか?

ナオキは自分でも言っているのですが、ひねくれていて、いろいろなものから逃げていて、人生をも諦めてしまっているんです。でも、私から見ると本人さえ気づいてない優しさが根底にはあって、人間らしい感情を今までは押し殺していただけなのかなと。それがVRの世界でホナミという人と出会い、少しずつほどけていくさまが描かれていきます。そして、今を生きている人たちは、誰しも本心ではナオキに共感できる部分がたくさんあると思うんです。そういうことが見てくださる方に届けばいいなと思いながら演じさせていただきました

 

◆倉沢さんご自身はナオキとリンクする部分はありましたか?

私は人とコミュニケーションをとることに喜びや幸せを感じるタイプなので、そういう意味ではナオキと大きく違っていると思います。一方で、私も悩みや苦しみは周囲に打ち明けることが得意ではなく、自分の中に閉じ込めてしまうなど、ナオキに共感できる部分もあって。撮影期間はナオキと向き合いつつ、自分とも向き合うことができました。

 

◆根底は野間口さん演じる直樹と同じ人物という、そんな難役・ナオキをどのように作り上げていったのでしょうか。

役作りに関しては本当に感謝しかないのですが、撮影に入る前に野間口さんが本読みの機会を作ってくださり、その際にナオキのせりふを読んでくださったんです。そのおかげで台本を読んでいても直樹が話しているイメージが浮かびやすくなって…。あの時間に助けられたことがたくさんあります。そして、野間口さんはもちろん、直樹くらいの年齢の方を普段から意識的にたくさん見るようにしていました。

 

私としては、何も考えていないようで実は何か考えているような、ボーっとしている時のナオキというのが一番直樹を感じられたのですが、スタッフの方からも「ボーっとしている時のナオキがすごく直樹に見える」と言っていただいて…。そういう直樹を感じていただけるポイントがいろいろなところにちりばめられていると思います。

 

◆野間口さんと撮影中にコミュニケーションを取る機会はあったのでしょうか。

はい。現場にはたくさん見学に行かせていただき、野間口さんのお芝居を拝見したり、ナオキのお芝居についてご相談したりしていました。そこで監督も交えてディスカッションをするなど、皆さんと一緒に役を作り上げていった感覚でいます。

 

◆そんな撮影を経て感じた、野間口さんの印象を教えてください。

野間口さんは優しく柔らかい雰囲気をお持ちで、私が1人であっぷあっぷしている時も温かく受け入れてくださいました。お芝居についても俳優さんとしてあれだけすごい経歴をお持ちなのに、いつも真摯に柔軟に向き合われていて、とてもカッコいい方です。ご一緒できたことを本当に光栄に思っています。

 

◆本作はナオキホナミとのやりとりも見どころのひとつですが、ホナミを演じる井桁さんの印象はいかがでしたか?

きっと皆さんが想像されているそのまま、優しく明るくてユーモアのある方です。優しさといってもいろいろな種類があると思うのですが、井桁さんは周囲を巻き込む優しさをお持ちで、現場の空気をも包み込んでくださる方。井桁さんがいらっしゃるだけで雰囲気が和やかになるんです。私がお芝居で悩んでいる時にはアドバイスをくださったり、井桁さんのおかげで安心してナオキとしていられましたし、現場でのあり方もたくさん学ばせていただきました。

 

◆撮影の合間などは井桁さんとお話されることも?

たくさんお話させていただきました。お芝居のことはもちろん、時には井桁さんがお好きという焼き鳥のお話なども(笑)。あと、俳優さんって台本やお水、貴重品などを入れたサブバッグを現場に持って行く方が多く、それを“現場バッグ”と言うのですが、最近まで私はその存在を知らなくて…。井桁さんが現場バッグを使われているのを見ていいなと思い、私もある日バッグを持って行き「井桁さんのまねをしました!」と報告したら「みんなやってるよ」と笑っていただいたこともありました(笑)。本当にかわいらしくて、おちゃめなところもあるすてきな方です。

 

◆本作は現実世界とVRの世界を行き来しながら物語が展開していくということで、撮影はどのように行われたのでしょうか。

セットやロケでの撮影が中心でしたが、グリーンバックでの撮影もやらせていただきました。今後、ナオキが水中にいるシーンが登場するのですが、それはグリーンバックを背景にワイヤーで吊られながらお芝居をしていて、初のワイヤー体験もできました! ロケでは各地に行かせていただいて、すてきな場所がたくさん登場するので、そういう部分もチェックしていただけたらうれしいです。

 

◆劇中でお気に入りのシーンをひとつ挙げていただくと?

1話でのナオキホナミの出会いのシーンでしょうか。現実同様にVRの世界でもひとりで過ごしていたナオキの前に突然ホナミという人が現れ、困惑しつつどこかうれしい気持ちもあって…。そんな心の葛藤を抱えながら、今後もどんどんホナミに巻き込まれていきます。ぜひ、見てくださる皆さんにもナオキと一緒に巻き込まれていただきたいです。

 

◆倉沢さんが感じるこの作品の魅力は?

まず、他のどのような作品とも似つかない唯一無二な作品だということ。ただ、それゆえにユニークさが際立ち、一見とっつきにくく見えるかもしれないのですが、いざフタを開けてみると今を生きている人たちにはみんなどこかしら刺さるものがあるんじゃないかなと。この作品を作り上げながら私自身が自分と向き合えたように、きっと見てくださった方の中にあるわだかまりみたいなものが温かくほどけていくような魅力が詰まっています。この作品が1人でも多くの方に届いたらいいなと願うばかりです。

 

◆今回、ナオキ役に大抜てきされた倉沢さんですが、そもそも芸能界に入ろうと思ったきっかけは?

5歳から8年間クラシックバレエを習っていたのもあり、元々自分の体を使って表現することが好きだったんです。そんな中、中学生の頃に授業参観で英語の劇をやったのですが、芝居をしている私を見た母が「女優さんやってみれば」と言ってくれたんです。そこから高校生になり、進路に悩んでいた時にちょうど今の事務所がオーディションをやっているのを知って、挑戦だけしてみようと受け、ここまでたどり着きました。

 

◆そこから女優として本格始動し、想像とのギャップはありましたか?

もちろん思っていたより楽しいと思える時もあれば、難しさを感じることも多いです。決して簡単にできるものではなく、とても丁寧に、真摯に向き合い続けないといけないお仕事なのだなと感じています。そして、それはつまり自分と向き合い続けるということでもあり、成長を感じられたり、同時にこれまで知らなかった感情が出てきたり、終わりがないのだろうなと。だからこそもっといろいろなことをやってみたいですし、なんならもっと悩んでもみたいです。とても魅力的なお仕事だなと思っています。

 

◆最後に、今後の展望を教えてください。

今の年齢だからこそできる役や難しい役など、まずはもっといろいろな役に挑戦してみたいです。あと、バレエをやっていたのもそうですが、歌を歌うことも好きなので、そういうことを活かせる舞台など、やってみたいことが本当にいっぱいあって。これからお仕事をさせていただく中で、そういう糸が少しずつつながっていけばいいなと思っています。

 

PROFILE

倉沢杏菜

●くらさわ・あんな…2005年3月18日生まれ。神奈川県出身。レプロエンタテインメントが2021年から22年にかけて開催していた「レプロ30周年主役オーディション」がきっかけで芸能界入り。近作はドラマ『君には届かない。』『先生さようなら』など。

 

番組情報

夜ドラ『VRおじさんの初恋』

NHK総合

毎週月~木曜日 午後10時45分~11時

番組公式HP:https://www.nhk.jp/p/ts/GXWGM1YQG1/

 

●text/片岡聡恵

倉沢杏菜、主演・野間口徹と共に挑んだナオキ役は「誰もが本心では共感できる部分がある」『VRおじさんの初恋』