昨年、AppleからM2プロセッサを搭載した『MacBook Air』の15インチモデルが突如登場した。15インチのMacが“Air”の名を冠するのは初めてのことで、名前に違わず薄くて軽い。買いたいなあ……と考えていたら今年、M3プロセッサを搭載したアップデートモデルが登場してしまった。

【画像】M3搭載『MacBook Air』はアルマイト処理によって指紋汚れが目立ちにくくなった

 筆者は今回、その最新モデルをAppleからお借りすることができたので、レビューをお届けしたい。2週間ほど使った上で結論を言うと、このモデルは「無条件でオススメできる高コスパなMac」だった。

 2024年に周りを見渡せば、iPadがモバイルコンピューティングを一変させてしまったと感じる。日常のさまざまな「ちょっとしたコンピューティング」を達成するのにiPadはベストな選択肢だ。メールやSlackの返信、資料の閲覧・共有などはもちろん、エンターテイメントの近くで仕事をしている人たちにとっては、写真・動画の編集・イラストレーション・文章構成・楽譜の閲覧などにもiPadで事足りる部分が多々ある。筆者の周囲にはプロミュージシャンの友人が多いのだが、「込み入った制作に使わない限りは、iPadで十分。コンピューターを使う機会もめっきり減った」という声を聞く。

 一方で自身の仕事には今もコンピューターが必須なので、この10年、買い替えながらMacBook Proの15インチを愛用している。執筆においては複数のウィンドウを開けることや、キーボードと日本語変換の入力精度がいずれも必要で、現状のiOS・iPadOSでは対応できないし、Macを30年弱使い続けている“慣れ”の部分も大きい。また写真や音声の編集もたびたび行うため、Macは手放せないのだ。

 そんな筆者は現在、メインマシンとしてMacBook Pro 15インチ2018)を使用している。15インチの良いところは携帯性と閲覧性を両立しているところだ。家のメインマシンとして机に置いてもOK、持ち運ぶのもギリギリ億劫ではない重さで、このバランス感が良い。

 M1・M2プロセッサが躍進してもIntel Macの買い替えを躊躇っていたのは15インチキラーマシンが出ていなかったからだが、昨年MacBook Air初の15インチが登場。横目で見ていたら今年はM3搭載のアップデートモデルが出てしまった。MacBook Air15インチはカタログスペック上、筆者待望の機種に見えるが、果たして実際にはどうか?

■いざ起動……の前から「こういうのが欲しかったのだ」と思わされる薄さ・軽さ

  手に取ったファーストインプレッションは「薄くて軽い!」だ。厚さ1.15cm・重さ1.51 kgという数値を見るだけではピンと来なかったが、実際に手に取るとこのミニマルさには衝撃を受けた。こういう15インチMacが欲しかったのだ、と起動する前に思ってしまった。外見的な前機種(M2モデル以前)との違いとして本機にはアルマイト処理がされており、今回借りた「ミッドナイト」のような暗いカラーでは特に指紋汚れがかなり目立ちにくくなっている。

 有線インターフェイスとしてはMagSafe 3ポート、3.5mmヘッドフォンジャック、2つのThunderbolt/USB 4ポートを備え、2台の外部ディスプレイを接続可能、いずれも60hzで描画できる。

 付属のMagSafe USBケーブルはファブリックになっている。同梱の2ポートUSB Type-Cアダプタは35Wモデルだが、MacBook Airは別売の70Wアダプタにも対応する。ポートが眠そうな瞳に見えて、なんだかかわいい。

 USB Type-Cポートに電源を接続して充電することも可能だが、2ポートしかないのでMagSafeを使ったほうが良いだろう。下記のようなUSBハブを接続しても、本体のポートがまだ1つ空いているのはありがたい。

 今回は数週間レビューの時間をいただいたので、普段使っているMacのデータを完全に移行してみる。Time Machineバックアップからの復元を行い、一晩寝て起きたら移行は完了だ。昨日まで使っていたMacと全く同じ環境で使い始めることができた。

 Intel Macからの移行にも関わらず使えないソフトはほぼなく、『Rosetta 2』をインストールすればIntel用のソフトも不自由なく動作した。まったく便利なものである。

■M3搭載のAirとPro、どちらを選ぶべき?

 ここで『MacBook Air』と『MacBook Pro』の違いについても考えてみたい。Appleは現在、M3搭載の『MacBook Pro』14インチモデルも販売している。果たしてどちらを選ぶべきだろうか?

 MacBook Airはファンレスであり、発熱量に対してパフォーマンス(処理速度)を維持できる時間がファンを搭載したMacBook Proよりも短く、高負荷がかかると自動的に処理速度が落ちる設計になっている。

 AirとProを比べると、Proは「時間あたりの処理速度が落ちにくいコンピューター」だといえる。なので、「高負荷の作業が続く」「長期間再起動をしないような環境で使う」「グラフィックスの編集作業が多い」といったユーザーはAirよりもProを選ぶのがベターだ。反面、「長時間高パフォーマンスを出す必要がない」「携帯性や静音性を重視したい」というユーザーにはAirがおすすめである。

 ……というのが定説なのだが、M系プロセッサの処理速度に対する発熱効率は異常に高く、ちょっとやそっとの作業では処理速度の低下を実感することは稀だ。くわえて、今回のM3チップはグラフィックス性能が大きく強化されており、Blenderを初めとする3DCG制作ツールで大きなファイルを開くのも快適だ。

 そのほかにも、本機に搭載されているM3チップはM系プロセッサで初となる「ハードウェアアクセラレーテッドレイトレーシング」にも対応した。MacBook Airといえど、ゲームやCGの描画にも使える性能を秘めているということだ。

 ゲームに関しては正直なところ、日本の市場のみを見ていてもAppleのゲームへの施策はいまだ道半ばというところ。昨年発表された「Game Pooting tool」が大活躍してくれる未来を願いつつ待っているが、それでも一部のビッグタイトルがMacに対応するなど、良いニュースも多い。『DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT』『バイオハザード ヴィレッジ』などがMacで楽しめるのは、数年前よりもずっと良い状況だといえる。

 M3ではニューラルエンジンも強化されており、M1チップに比べて処理能力が60%も向上している。昨今は「AI PC」なんて言葉も話題になっているが、AppleはAIコンピューティングの先駆者であり、最新のMacでもこうしたアップデートを続けている。M1・M2プロセッサからの乗り換えにあたっては、ローカル環境におけるAIを使った処理の高速化を感じられるはずだ。

 自身の用途としては『Adobe Lightroom』のAIノイズリダクションがこの恩恵を受けるところで、試しに使ってみたが1分足らずで処理されて驚いた。今後ソフトウェア側の最適化も進むだろうから、さらにこの速度・精度が向上していくことは確実だが、Intel Macと比べるべくもない高速処理には「もうこれで十分ですよ」という気持ちになった。

■まとめ:無条件ですすめられる! プロ機に迫る優秀なMac

 色々と書いてきたが、まとめると個人的には「とりあえずノートパソコンが1台欲しいんです」というときに無条件で勧めたいMacである。美しい画面・最低限だが十分なインターフェイス・18時間持つバッテリーといった基本的なスペックが非常に優秀であるのにくわえて、最新のM3プロセッサにはプロ機に迫るポテンシャルがあると感じた。長時間高負荷をかけないのであれば、従来はプロ機を選択せざるを得なかった用途ーーたとえば楽曲制作などーーにも活用できるだろう。

 13インチももちろん良いマシンだが、個人的には15インチの大きな画面がもたらす余裕のある作業空間が好きなので、使ったことのないユーザーにはこの機にぜひ体験してほしいと思う。

 注意点としては標準構成の場合メモリが8GBなのだが、これは心もとないので、できれば16GB以上のモデルを選択したいところだ。ちなみに今回お借りしたモデルはメモリ16GB・SSDストレージも1TBと申し分ないモデル。喉から手が出るぐらい欲しくなってしまったが、レビューも書けたので泣く泣く返却の準備を始めるとしよう。

(文・写真=白石倖介)

『MacBook Air』15インチ