濃厚な豚骨スープで知られる「ラーメン山岡家」は、チェーンでありながらセントラルキッチンを持たず店内調理にこだわってきた。また、都市部に進出せずロードサイドへと出店し、創業当初から24時間営業を続けている。

【画像】山岡家の各種ラーメン、800円のサービスセット、520円の朝ラーメン、サイドメニュー(全10枚)

 独特ともいえる路線を歩んできた山岡家だが、これが功を奏してか特に近年は著しく業績が伸びている。山岡家のビジネスモデル、そして近年の好調な業績についてまとめていく。

●他チェーンとは一線を画す、ブレない3つの方針

 赤色の背景に白文字で「ラーメン山岡家」と書かれた看板が特徴の山岡家は、グループ全体で184店舗を展開する(2024年3月時点)。北海道や東北、北関東を中心に西日本のロードサイドに展開している。300坪以上の立地への出店を基本とし、一部店舗では大型トラック用の駐車場を構える。都内では多摩エリアの1店舗しかなく、都心には店舗を構えていないため、東京での知名度は低いかもしれない。

 ほとんどの店舗が24時間営業となっており、それ以外の店舗でも午前11~翌午前3時のように、深夜まで営業しているのが特徴だ。また、チェーン店といえば効率を求めるためセントラルキッチンを構えるのが基本だが、山岡家は店内調理を行っている。

 具体的には、業者から購入した濃縮スープに加水して提供するのではなく、店内で豚骨を丸3日間煮込み続け、4日目に提供している。こだわりの製法をとることで、山岡家独特のスープができているわけだ。店内で煮込み続けられるのは24時間営業ならではといえるかもしれない。

 以上のように「ロードサイド出店」「24時間営業」「セントラルキッチンレス」という3点が、山岡家の特徴である。上場当時の06年の決算資料でも上記の方針に関する記載があることから、長きにわたりこの方針を取ってきたことが分かる。

●5種類のラーメンを提供、平日昼はコスパの高いセットも

 メニューを見ていこう。山岡家のラーメンは豚骨ベースであり、麺はスープに合わせて太麺の低加水麺を使用している。その上で「醤油」「味噌」「塩」「特製味噌」「辛味噌」と5つのジャンルから味を選べるようにしている。

 各ジャンルのラーメンは、チャーシューやネギなどのトッピングによってさらに4~5種類に分かれ、醤油ジャンルには基本となる「醤油ラーメン」のほか、「醤油ネギラーメン」や「醤油チャーシュー麺」など5種類の商品がある。

 ラーメン1杯の価格は690円から1000円前後であり、例えば醤油ラーメンと味噌ラーメンといったシンプルなメニューは690円。具材の多い醤油チャーシュー麺と味噌チャーシュー麺は960円、といった具合だ。注文時には麺の硬さや味の濃さ、油の量なども選べる。

 平日昼間限定のサービスセットはA・B・Cの3種類がある。Aセットは「ラーメン+チャーシュー丼などの丼物」、Bセットは「ラーメン+特製ギョーザ+半ライス」、Cセットは「ラーメン+丼物+特製ギョーザ」の組み合わせとなっている。価格帯はメインのラーメンによって異なるが、1食800~1130円と、1000円前後に収まっている。

●ルーツは弁当チェーンのフランチャイズ コロナ禍でも成長を続けた

 山岡家の運営企業・丸千代山岡家は、1980年に弁当チェーンのフランチャイズ事業として設立した。競合が増えたため、新業態として88年にラーメン山岡家茨城県牛久市で開店し、現在の主力事業となった。創業当初から24時間営業を基本としており、92年に札幌に進出してからは北海道で積極的に出店を重ね、03年以降は北関東でも本格的に展開。09年にはグループ100店を達成した。

 17年に150店舗を突破し、前述の通り現在では184店舗を展開する。コロナ禍以前までは店舗数の拡大とともに知名度も高まり、既存店売上高も順調に伸ばしていた。コロナ禍以降も業績が著しく伸びている。20年1月期から24年1月期の業績は次の通りだ。

売上高:約141億円→約142億円→約151億円→約186億円→約264億円

営業利益:約6.1億円→約3.2億円→約2.9億円→約5.1億円→約20.6億円

全店舗数:162→167→169→176→183

 21年1月期は休業や時短営業の影響もあり、24時間営業のメリットを生かしきれずに当初の売上目標だった152億円を下回った。しかし、翌年度以降は経済活動の再開に伴って拡大し、特に24年1月期は4割超の増収となっている。上記の通り店舗数はそこまで増えていないため、1店舗あたりの売上高が著しく伸びた形だ。山岡家によると、24年1月期の既存店売上高は前年比で4割弱も増えている。

●24年1月期に大きく業績が伸びたワケ

 山岡家が成長し続けた理由としては「24時間営業」と「品質の高さ」の2点が考えられる。ロードサイドでは早朝や深夜に営業している飲食店は数少なく、職人やタクシー・トラックドライバーといったエッセンシャルワーカーのニーズをつかめていると考えられる。

 品質の高さについては、店内調理の濃厚な豚骨スープがウケたといえる。競合チェーンと比べて突出して安いわけではないが「たまには一定の品質があるラーメンを食べたい」と考える層を取り込んだのではないか。かなり独特な豚骨の臭いを苦手とする意見はある一方、ファンの間では「クセになる」という声もあり、ある種の中毒性も人気の秘訣かもしれない。

 24年1月期の躍進についても考えてみよう。同社によると、既存店客数は前年比で3割超も増え、予想以上の増収幅だったという。念のため調べたところ、ロードサイドの交通量が前年比で3割も増えたと考えるのは難しく「山岡家に行きたい」と考える客がそれだけ増えたことを表している数値だ。

 山岡家は24年1月期において、認知度を高めるための施策を強化してきた。エリアと属性を絞ったうえで実施したYouTube広告は835万回の再生回数を記録している。また、23年10月より自社アプリを展開し、クーポンやくじ引きなどのサービスを提供している。グーグルマップにおけるMEO対策も行った。

 売上高好調の要因として運営会社はSNSやYouTubeによる認知度上昇を挙げており、上記のような施策が効果を発揮したことが分かる。

 つまり山岡家の認知度が高まり、チェーン店として認識されるようになったことが集客につながったと考えられる。一見、こだわりの強い個人店に見える山岡家だが、チェーン店として認識されれば消費者も入りやすいだろう。このほかにも、中心部の昼間人口減少に伴うロードサイド人口の増加や、深夜営業店舗の減少による自社店舗への集中なども増収に貢献したという。

 なお、当初の中期経営計画では24年1月期の売上高を約203億円、26年1月期に関しては約234億円という目標を掲げていた。それらを24年1月期決算で悠々と超えたため、同社はあらためて計画を策定するとしている。チェーンとしての認識が広がった今、新規出店のハードルは下がっているはずだ。今後、ロードサイドで「ラーメン山岡家」を見かける機会が増えていくかもしれない。

●著者プロフィール:山口伸

経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。

業績好調なラーメン山岡家