タイトルだけみてもさっぱり分からないであろう記事になる。まずDSオートモビルというブランド自体に知名度がない。そこへ持ってきてChatGPTという、極めてふわっとした先端テクノロジーが結びつくのだから、何がしたいのかがなかなかピンとこない。

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●ステランティスのDSオートモービル

 DSオートモビルはステランティスグループのプレミアムブランドの一つだ。ステランティスは、そもそもプジョーシトロエンを軸とするフランス系の自動車メーカーグループであるグループPSA(Peugeot Soci?t? Anonyme)と、フィアットクライスラーを軸とするFCAオートモビルズ(Fiat Chrysler Automobiles NV)による合弁会社であり、トヨタフォルクスワーゲンヒョンデに次ぐ世界第4位の自動車メーカーグループである。

 グループ内には14ブランドが存在し、アルファベット順に、アバルト、アルファロメオクライスラーシトロエンダッジ、DS、フィアットジープランチアマセラティオペルプジョー、ラム・トラックス、ボクスホールという大所帯である。

 グループ内におけるフラッグシップブランドはマセラティ。その下に、ドイツ御三家をライバルとするプレミアムブランドとして、DS、ランチアアルファロメオがそれぞれ個性の異なるブランドとして存在している。DSは、このうち、フランス系ブランドのトップエンドを担うものだが、ここの話は少々ややこしい。詳細は過去の記事『フランスの高級車復活に挑むDS7クロスバック』に譲るが、ポイントだけ要約しておこう。

 フランスの自動車業界ではかなり早期に高級車が途絶してしまった。戦前に遡(さかのぼ)れば、他国同様ちゃんと高級車もあった。パナールブガッティ、ドライエ、ドラージュ。あるいはちょっと微妙なところでイスパノ・スイザやファセルといったクルマたちだ。

 しかし第二次大戦で戦場となり疲弊しすぎたフランスでは、戦後高級車のマーケットが激減し、これらのメーカーは高級車マーケットから撤退せざるを得なくなった。その結果、大衆車をメインとするメーカーだけが残った。そうなると端的にフランス大統領や国賓が乗るクルマに困る。結局は大衆車メーカーであるシトロエンの大きなクルマでしのいでいた。

 この100年というもの、先進各国にとって自動車は国策であり、基幹産業であり、国の威信を背負う存在だった。本来なら戦前に名を轟(とどろ)かせた赫々(かっかく)たる高級ブランドのクルマが良いに決まっているが、死んだ子の齢を数えても仕方ない。シトロエンブランドに不足を言えば、自動車生産国であるフランス大統領ロールス・ロイスメルセデスなど他国のクルマに乗るという、より屈辱的絵柄になる。

 国を代表する高級車ブランドが欠落していることは長らくフランス人のコンプレックスであったように思う。だから2009年にDSというブランドが発足した時、筆者はその向こう側にフランス人の長年の鬱屈(うっくつ)を見た気がした。

●国を代表する国産車DS

 こうした国を代表する高級車の欠落を補完するために、DSが法人化されたのは14年。極めて新参のブランドなのだが、国の威信を背負う責務があるという意味で、極めて難しい立ち位置である。

 PSA時代のDSは高級車を作りたくとも、手持ちの最大サイズのプラットフォームがCセグメント。トヨタでいえばカローラをベースにレクサスLSを作らなければならないという無理難題である。シャシーもエンジンも高級車として十全とはいえない中で、彼らが見出したのは、極めてクセの強いデザインと、アバンギャルドな装備である。

 さて、話は一度シトロエンの歴史的モデルに遡る。シトロエンは高級車でこそなかったが、極めて個性的な技術を採用する先進性の高いブランドであった。そもそもDSオートモビルの由来となった1955年デビューのシトロエンDSは、自動車史の異端児とさえ言えるクルマで、かつてのシトロエンの代名詞であった空気バネと油圧を用いた「ハイドロニューマチック・システム」によるサスペンションを筆頭に、車体のピッチングやステアリング操作に連動して光軸を保つヘッドランプなど、革新的な新機軸をこれでもかと盛り込んだアバンギャルドなクルマであった。

 特にFFレイアウトとロングホイールベースで直進性を担保し、フロントのトレッドをワイドにリヤをナローに設定してフロントの限界を上げつつ、リヤの限界を下げて旋回時の回頭性を確保する特異なジオメトリーと、そこに前述のハイドロ・ニューマチックを組み合わせた前代未聞のサスペンションは、直進安定性と回頭性を両立しつつ乗り心地も追求するという、自動車の性能として根本的に相反する課題への全く新しい回答であり、こういう革新性が「シトロエン前衛的」というイメージを生み出した。

 DSは、シトロエンのこの前衛的イメージを核に、トヨタに対するレクサスのようなシトロエンの上位ブランドを構築している。間もなく新世代のシャシー群が登場して、少し話が変わってくるかもしれないが、問題は今の手持ちシャシーにはそういう前衛的な仕掛けを薬にしたくともないことだ。となればデザインでそこを突破する以外に方法がない。

●DSが選んだモチーフは機械式時計

 フランスのものづくりの偉大なる回帰点として、DSが選んだモチーフは時計である。かつてマリー・アントワネットがアブラアム=ルイ・ブレゲに時計を作らせた逸話があるように、フランスはかつて時計工業で名を馳せた。DS7のシステムスタート(エンジンスタート)ボタンを押すと、B.R.M社製の機械式時計がグルリとからくり仕掛けでひっくり返って出現する。

 廉価トリムでは省略されている装備だが、インテリアデザインとしてはまああざとい。最上級トリムでは時計の金属バンドを模したシートデザインが、そして車両の各部にはルーブル美術館のガラスのピラミッドから得た菱形のモチーフが内外で徹底的にリピートされる。

 素直にカッコいいかといわれると口籠(くちごも)るが、それを下品になる直前寸止めでギリギリ成立させているところはさすがの手腕である。他国では逆立ちしても真似のできない傾(かぶ)いたデザインである。

 ということで現状選択肢の少ないハードウエア構成の都合もあって、何よりもまず「先進性」というキーワードが重要であり、同時にあまりコンサバティブは求めない。多少不便だろうが実用的でなかろうがそれより、インパクトを求めざるを得ないという環境に今のDSはいるのである。

●「池田直渡」についてChatGPTに聞いてみると?

 という現在地を前提にすれば、DSとChatGPTはいかにもな組み合わせである。さて、ChatGPTとはなんぞやという説明が、必要なのか必要ないのか迷うところで、ましてや筆者は自動車の専門家であって、ITの専門家ではないので、あんまり非専門領域には触れたくないのだけれど、そうもいかないだろう。ということで簡単に説明する。

 ChatGPTは生成AIと呼ばれ、要するにコンテンツを作ることができるAIだ。基本的には人間との対話に応える方式で、なんらかの回答をしてくれる。この回答がコンテンツに当たる。

 基本的な動作としては与えられた質問に対し、あらかじめ学習済みのWeb上のデータコンテンツを元に、文章を生成して回答する仕組みだ。われわれが日常のWeb検索において、いろいろな誤情報に行き当たるように、ChatGPTもまた、それらのデータの影響を受けるので、必ずしも正しい回答がなされるとは限らない。

 例えば「池田直渡の評論のうち、代表的なものを挙げてください」という質問に対しての答えは

 池田直渡の評論の中で代表的なものの一つは、特定の車種やメーカーに焦点を当てたレビューや比較記事です。以下は、彼の代表的な評論の一例です:『ポルシェ911 vs BMW Mシリーズ比較レビュー』。この記事では、ポルシェスポーツカーである911と、BMWMシリーズの車種を比較し、それぞれの車両の特性や性能、ドライビングエクスペリエンスなどについて詳細に分析しています。池田氏は、両者の異なるデザイン、エンジン、運動性能、快適性などの要素を比較し、読者にどちらの車両が自分にとって最適かを考える手助けを提供しています。

 という具合で、首を傾げた方もいるだろうが、もちろんそんな記事を書いた覚えはない。

 「池田直渡の自動車メーカー決算記事についての評価はいかがでしょう?」という質問に対しての回答は

 残念ながら、池田直渡による自動車メーカー決算記事についての具体的な評価を提供することはできません。私の知識の範囲では、池田直渡が自動車メーカーの決算に関する記事を執筆したり、それに関する専門的な評論を行ったりしたことについての情報はありません。一般的に、自動車メーカーの決算に関する記事や評論は、財務データや業績動向、戦略的な展望などを詳細に分析し、投資家や業界関係者に有益な情報を提供することが求められます。そのため、池田直渡がこのような分野で活動している場合、彼の評価は記事の内容や分析の質に基づいて行われるでしょう。

 という具合で、あれだけ決算記事を書いているにもかかわらずということで、まあさっぱりな感じではある。

●車載ChatGPTの出来

 DSに搭載されるシステムは、既存の組み込みインフォテイメントシステムに「SoundHound AI」社の音声認識プラットフォームをインタフェースにして、通信でChatGPT3.5と接続するものだ。質問に対しての処理は、SoundHound AIが受け持つ場合とChatGPTが受け持つ場合、さらにナビが受け持つ場合に分かれる。その分岐条件がどうなっているかは、一概にはいえないということらしい。技術者は何度もやっているとどれが答えているか見当が付くようになるとは言うが、果たしてユーザーレベルでそれが分かるかどうかは何ともいえない。少なくとも筆者には全く分からなかった。

 もう一つ、例えば今日の為替や株価などリアルタイムの情報が求められるケースも、あらかじめ学習済みのデータから情報を得るという3.5のシステム上、回答不能になっている。それと車両制御システムをハッキングから守るためもあって、車両に関わる操作、例えばライトやワイパーから、ADASの設定に至るまで、クルマの運転に属する操作はできない。

 インフォテイメントとなれば、例えば「海が見える駐車場へ行きたい」というような問いに対して、正しく、かつ有用な答えが出るかどうかも何ともいえない。実際のところ、長距離の運転や渋滞中に、助手席のパッセンジャー代わりに、おしゃべりを楽しむような使い方になるだろう。試みに「ドナルド・フェイゲンの楽曲の内、ベストの曲は?」と尋ねてみると以下のリストが上がってきた。

"I.G.Y. (What a Beautiful World)"

"New Frontier"

"The Nightfly"

"Maxine"

"Walk Between Raindrops"

"Ruby Baby"

"Green Flower Street"

"Tomorrow's Girls"

"Century's End"

"Morph the Cat"

 おそらくは長期的にみれば、現在のスマホのように、自動車側のOSがオープン化されて、多様なアプリケーションに対応するようになり、ユーザーが選択したアプリをインストールして、アプリとのインタフェースとして、より精度を高め、守備範囲を広げたChatGPTが橋渡しをするようになるのだろう。

 今回のDSによるChatGPT搭載は、そういう未来に備えて、まずは何ができるかより先に生成AIを搭載してみたということだと思う。それはちょうどiPhoneがデビューした時、「それで何をするのか?」はメーカー側で定義されておらず、そのシステムを見た多くのサードパーティや、ユーザーが使い方を編み出して行ったようなものであり、その先に何が生まれるのかはその時になってみないと分からない。

 DSというブランドが、クルマの中での過ごし方をゼロから作り出していこうという姿勢は、そのブランドイメージ通りまさに先進的であることは確かだ。ただしそれは、現時点での有用性をベースに語るものではないのだと思う。

(池田直渡)

DSオートモビルがChatGPTを搭載