新型コロナウイルスの猛威という長いトンネルをようやく抜け、世の中は徐々に活気を取り戻しています。そんな中、特に大手などの体力がある企業は、“水を得た魚”のごとく、積極的な“攻め”の展開を始めています。今回は、そんなアフターコロナで大手の影響を受け、かじ取りをミスしてしまったある飲食店にフォーカスを当ててみました

◆地域密着型の和食チェーン店

 都内某市に数か所の和定食店を展開している君島社長(仮名・46歳)。こだわりの食材を使った採算度外視の料理と、専用農家から仕入れる極上米が人気で、多くのファンに支持されていました。

新型コロナウイルスが蔓延した時は、本当にどうなることかと日々心配でしたが、今振り返ると貴重な時間を持つことができました。感染対策は怠らず、安全第一で細々と営業していましたが、空いた時間を活用して従業員とのコミュニケーションに当てたり、各店舗の改装などを行いました」

 新型コロナウイルスが収束に向かうと同時に客足も順調に戻ってきたのだそう。

◆まさかのアフターコロナに売上減少

 しかし、外国人の観光客も徐々に増え始め、世の中にも活気が戻ってきた頃を境に、逆行して各店舗の売り上げが通常月の50~60%まで落ち込んだそうです

「売り上げ減少の理由が最初はわかりませんでした。どの店舗に足を運んでも活気がないんです。ニュースでは都内のにぎやかな様子が映し出されているのに、なんで?という感じでした」

 しかし、その数日後、君島社長は驚くべき事実を知ることになります。

「完全な私のリサーチ不足です。自分の店舗ばかりに気が行っていて、視野が狭くなっていました。実は、ウチのチェーン店がある大通り沿いの近くにあるパチンコ店や小規模テナント店が、大手の飲食チェーン店に鞍替えしていたんです。経営者たるものが、お恥ずかしい限りです」

◆客足を取り戻すために決断

 君島社長は、さらに自社店舗の周辺地域を調べたところ、今後も競合他社の飲食店が新規オープンすることが分かりました。日を追うごとに低迷する売り上げをなんとかして食い止めようと必死でした。

「売り上げが減少し始めた頃は、そのうち挽回できるという変な自信があったのですが、いっこうに上を向かない状況に恐怖すら感じました。気持ちが焦るばかりで、落ち着いて改善策を考える余裕などはすでになく、一番手を出してはいけない“価格”で訴求することが精一杯でした

 そんな状況の中、君島社長が考えた案が“土・日専用半額チケット”でした。早速チケットを準備し、近隣の駅前で配布したり、周辺住民宅へのポスティングなどを行いました。

もちろん、半額では利益どころか赤字になるので、飲食店にとって聖域ともいえる“食材”の仕入れ先を抜本的に変更しました。まずは“米”です。以前は契約農家から仕入れる新潟のコシヒカリでしたが、知り合いの業者に頼んで回してもらったかなり等級の低い米に変更しました。鶏肉や豚肉は日本産から某海外産へ変更。さらには野菜も訳あり品を使用しました」

◆それは“終焉”を意味していた

 半額チケットの効果は絶大で、各店舗の土日営業は大盛況となりました。しかし、その効果は一時的なものだったのです。

正直、久々にお客さんがお店の前に並んでいる光景を目にしてほっとしましたよ。あとは、食材の品質を元に戻し、メニューなども充実させ、近隣の競合他社に打ち勝つ算段でした。でも、この久々の活気に満ち溢れた店内の様子は二度と戻ることはありませんでした」

 半額セールが終了したあと、客足は増えるどころか、普段の10%にも満たない数になったのです。それも当然、食材品質の低下は食事の味を著しく低下させたようで、それを証明するように幹部の一人がネットの書き込みを君島社長に見せたのでした。

 そこにはあれ? おいしさどこいった?」「なんかごはんパサパサすぎん?」「え? 厨房の人コロナで味覚やられたん?」など、悲惨なコメントが並んでいたそうです。

「顧客の信頼を失った事の重大さにようやく気づきました。でも、完全に“時すでに遅し”で、追加融資を受けて再起も考えましたが、もう私にも会社にもそんな体力は残っていませんでした。従業員の再就職先が決まった時点で廃業することを決断しました」

<TEXT/ベルクちゃん>

ベルクちゃん】
愛犬ベルクちゃんと暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営

―[飲食店員の「心の叫び」]―


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