憲法で定められている「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する「生活保護」。厚生労働省『被保護者調査』から、生活保護者の実態を紐解いていくとともに、生活保護世帯における「進学」について考えていきます。

子どもが学校に通う生活保護世帯…全国で8万世帯

日本では全体の9人に1人もの子どもたちが貧困状態にある

貧困は世代間で連鎖すると言われている

貧困により学力不足を引き起こし精神的に未成熟なまま大人になってしまう場合もある

出所:厚生労働省『2022年国民生活基礎調査の概況』

いわゆる「貧困の連鎖」。親世代が貧困であれば、子どもの生活にも影響を与え、貧困は次の世代へと続いていってしまう、というもの。内閣府令和3年子供の生活状況調査の分析』によると、等価世帯収入の中央値は317万5,400万円なので、貧困層は158万7,700円以下の世帯。1ヵ月あたり13万円程度となります。

また「父母のいずれも大学またはそれ以上の学歴」だった場合の貧困率は3.9%、「父母のいずれかが、大学またはそれ以上の学歴だった場合」の貧困率は6.4%、「その他の場合」の貧困率は19.0%。

また父と母、別々に最終学歴ごとの貧困率をみていくと、母親の最終学歴が「大学またはそれ以上の場合」は4.6%、「高校卒」の場合は19.7%、「中学卒」の場合は40.6%。父親の最終学歴が「大学またはそれ以上の場合」は5.3%、「高校卒」の場合は14.1%、「中学卒」の場合は33.3%でした。親が「高卒」か、それとも「大卒以上」かで、貧困率は実に3倍以上もの差が生じているのです。

1ヵ月の収入=生活費が13万円以下ともなると、生活保護を受けることになるでしょう。厚生労働省令和4年度被保護者調査』によると、生活保護世帯のなかで在学者(就学者)のいる世帯は全国で7万8,420世帯、12万4,899人。年度の異なる調査ではありますが、2020年に行った国勢調査によると、在学者は1,627万8,980人。生活保護を受けている子どもたちは全体の0.77%程度ということになります。これを多いとみるか、それとも少ないとみるか、人によって見方は変わりますが、街中にある小学校であれば、全校生徒に1人は生活保護を受けている子どもがいる、というイメージでしょうか。

学校の種別でみていくと、小学校に通う子どもは3万9,302世帯/5万2,224世帯、中学校は3万1,323世帯/3万5,494世帯、高校は3万1,052世帯/3万5,085世帯。また都道府県別にみていくと、在学者のいる生活保護世帯が最も多いのは「東京都」で8,656世帯。続く「大阪府」は2,492世帯。「福岡県」「北海道」「埼玉県」と続きます。一方で、在学者のいる生活保護世帯が最も少ないのは「富山県」で28世帯。続く「福井県」は31世帯。「石川県」「島根県」「岡山県」と続きます。

【在学者のいる「生活保護世帯数」上位10】

1位「東京都」8,656世帯

2位「大阪府」2,492世帯

3位「福岡県」2,368世帯

4位「北海道」2,360世帯

5位「埼玉県」2,130世帯

6位「千葉県」1,978世帯

7位「神奈川県」1,428世帯

8位「沖縄県」943世帯

9位「兵庫県893世帯

10位「京都府」748世帯

生活保護世帯は原則、大学進学は認められないが…貧困の連鎖、どう断ち切る?

生活保護の受給世帯では、子どもの就学は、原則として高校までしか認められず、生活保護費を大学や専門学校の費用に充てることはできません。

――うちは生活保護を受けているから……大学進学なんて贅沢だよ

子が抱える絶望感。しかし貧困の連鎖を断ち切るためにも「大学への進学」を望んだ場合は、どうなるのでしょうか。

大学等に進学する場合は「世帯分離」を行い、家族は引き続き生活保護を受けられますが、進学者に対しては生活保護費は支給されなくなります。つまり、家族は生活保護を打ち切られることなく、大学への進学は可能。ただし大学に進学する前にもそれなりにお金がかかります。そこで、生活保護世帯で高校等卒業後に進学する場合は、「進学準備給付金」として、自宅生には10万円、自宅外生には30万円が支給されます。

■入学金/授業料は?

大学や短期大学高等専門学校専門学校の授業料等に対しては上限があるものの、免除、または減額されます。国公立大学の場合は、入学金約28万円、授業料約54万円、私立大学の場合は、入学金約26万円、授業料は約70万円が上限です。

奨学金の活用

昨今は、返還の必要がない「給付型奨学金」が拡充されています。国公立大学の場合、自宅通学生は月3万3,300円、自宅外通学生は6万6,700円、私立大学の場合、自宅通学生は4万2,500円、自宅外通学生は7万5,800円が給付されます。

国による支援だけで十分とは言い切れないまでも、自身の努力次第で貧困の連鎖を断ち切ることは可能。そもそも生活保護世帯からの大学などへの進学は認めないという現在の方針は、大学進学が当たり前になっている今の時代にはそぐわないという声も。一方で「大学進学は贅沢」という声も根強いのも事実。どちらにせよ、貧困が原因で進学を諦めざるをえない子どもがいなくなるよう、これからも議論を進めることが必要です。

[参考資料]

厚生労働省『2022年国民生活基礎調査の概況』

内閣府『令和3年子供の生活状況調査の分析』

厚生労働省『令和4年度被保護者調査』

厚生労働省『子どもの進路に関する情報【○カツ!】』