インドネシアにはどの町にも、必ず複数の「ワルテグ」が存在する。個人経営の大衆食堂で、大抵は英語で言うところの「パパママショップ」である。日本のいわゆる「町中華」と似たような具合だ。

そのワルテグ近代化に貢献してきたのが2017年設立のスタートアップ「Wahyoo」である。Techableでは2019年9月28日Wahyooに関する記事を配信したが、今回はパンデミックを乗り越え2022年には資金調達も成功させた同社のその後についてまとめてみた。

個人経営の大衆食堂を近代化

Wahyooが展開するサービスを一言で言い表すのは、いささか難しい。既存のワルテグをネットワークに組み込むことを目的にした組合組織、と書くのが一番いいかもしれない。

Wahyooのネットワークに加盟しているワルテグは、専用の業務用アプリを使うことができるのだ。このアプリには、独自のオンライン問屋やPOSシステム等が用意されている。

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ここで、個人経営のワルテグのテクノロジー事情について触れる必要がある。インドネシアのパパママショップはPOSシステムどころか、今でも紙とペンと電卓で勘定をつけている場合が多い。従来型のレジすらないのだ。日本でも昔の八百屋は天井から紐でザルをぶら下げてそこに売上金を入れていたが、インドネシアの場合はザルが机の引き出しになっているだけである。

だからといって、急にPOSシステムを導入するわけにもいかない。高齢の経営者はスマホの取り扱いに慣れておらず、POSシステムの前にまずはスマホの使い方を習わなければならない状況だ。もちろんこれは、材料をオンラインで発注する際にも当てはまる。

個人経営の店のおとっつぁんやおっかさんにスマホの使い方を直接指導

Wahyooが他のオンラインサービス提供者と一線を画しているのは、きめ細かいサポート体制である。

スマホの使い方や簿記会計の基礎といった、現代のワルテグ経営に必要なノウハウを経営者に直接教える講習会やレッスンを実施。

これは市民間の情報格差の縮小にも貢献した。オンライン問屋を導入すれば経営の効率化や働き方改革につながることは日常的にスマホを使う層にとっては常識だが、そうでない人にとっては目新しい知識である。Wahyooはその知識にたどり着くまでのパイプを作ったのだ。

インドネシア政府の基本方針と合致

2022年10月、WahyooはシリーズB投資ラウンドで650万ドルの資金調達に成功した。この時点で、Wahyooのネットワークに参加するワルテグは2万7000超。2019年1月の時点での参加店舗は2000程度だったのだから、目覚ましいほどの急拡大と言える。

同時に、Wahyooの拡大はインドネシアにおける情報格差も炙り出すことになった。

インドネシア政府の基本方針、そしてこの国のスタートアップの共通コンセプトは「UMKMの経済発展」である。UMKMとは「Usaha Mikro Kecil Menengah」の略語で、「中小零細事業者」を指す。インドネシアの雇用の95%以上は、このUMKMが担っているのだ。

中央政府が恐れているのは、UMKMである地元のパパママショップが外資のコンビニエンスストアに敗退するといったシナリオである。インドネシアに進出していたセブンイレブンが若者に好評だったにもかかわらず撤退を余儀なくされたのは、こうした背景が少なからず影響している。

ともかく、インドネシアでは「UMKMのDX化」が早急の課題となっているが、Wahyooの取り組みから考察してもそれは一筋縄ではいかないことがよく理解できる。

不衛生な食堂を清潔に

食堂の近代化は、同時に衛生環境の整備にもつながる。

Wahyooのもう一つの目的は、従来の食堂をネットワークに組み込み、そこから清潔な飲食店へと改装させることだ。インドネシアの大衆食堂の中には、現代に相応しくないほど不潔な店舗も存在する。それを改めさせることにより、結果として都市衛生の改善につながるのだ。

今年限りで大統領を退任する予定のジョコ・ウィドド氏は、「インドネシアからユニコーン企業を続々登場させる」という公約を実現させてきた。その流れは、3月20日大統領選挙での勝利が確実となったプラボウォ・スビアント氏の時代になっても大きく変わらないだろう。

むしろプラボウォ氏の大統領就任により、地元スタートアップの拡大を支援する何かしらの政策が実行される可能性が高い。インドネシア政府は伝統的に内資を最優先する方針を打ち出すことで知られている。そうした事情を背景に、今後もインドネシアでは「各分野のWahyoo」が矢継ぎ早に登場するだろう。

引用元:Wahyoo-Linkedin

(文・澤田 真一)