老後に向けた資産形成や生活費の担保など、さまざまな理由から「副業」を検討している人は少なくないでしょう。副業には多くの選択肢がありますが、なかでも“大家業”は会社員と相性が良いと、メガバンク出身のコンサルタントで『50代 お金の不安がなくなる副業術』(エムディエヌコーポレーション)著者の大杉潤氏はいいます。鹿児島在住の神村夫婦の事例とともに、そのメリットやポイントをみていきましょう。

副業の王道「大家業」を成功させる2つのポイント

先祖代々の土地を持っている資産家が住宅用不動産を賃貸する「大家業」は伝統的な副業です。広大な土地を所有する地主農家が農業の傍ら、空いている土地に相続税対策でアパートを建設して賃貸する事例は、全国いたるところで見られます。

その後、住宅ローンの普及に伴い、会社員がマイホームを取得する時だけでなく、賃貸用住宅不動産を購入する時にも借り入れができるようになり、アパート・マンション投資が一種のブームにもなりました。ただ、不動産は数百万円から数千万円という高額の投資になって借入金も大きくなるため、しっかりリスクを踏まえて行う必要があります。

『40代からは「稼ぎ口」を2つにしなさい』(ダイヤモンド社)および『いますぐ妻を社長にしなさい』『とにかく妻を社長にしなさい』(サンマーク出版)の著者である坂下仁氏は、主宰する「お金のソムリエ協会」の中で、自らの経験や所属メンバーの事例などから導き出した「大家業」のポイントを次の2点としています。

1.資金繰り

2.立地

1.資金繰り…数百万円~数千万規模の借り入れが必要。収支の管理が重要

会社員が大家業を行う場合には、賃貸用不動産を購入するための資金を借り入れることが普通で、最低でも数百万円から数千万円規模になることもあります。したがって、家賃収入がどれくらいあって、経費や借入金返済がどれくらいかかるかを月次ベースで把握し、管理すること、すなわち毎月の資金繰りが大切なのです。

私はもともと銀行員でしたので、資金繰りが経営の生命線であることがよくわかります。ある程度数字に強いというか、少なくとも数字による管理に苦手意識や抵抗がないことが大家業には必要です。

2.立地…不動産賃貸業は「立地が9割以上」

もう1つのポイントは立地です。不動産賃貸業は「立地が9割以上」と言われるくらい大切で、要するに立地がよければ空室になって家賃収入が入ってこなくなるリスクを大きく減らせるのです。

銀行など金融機関から不動産購入資金を借り入れる場合には、購入物件を担保として差し入れることが通常なので、立地の良し悪しは金融機関のローン審査でも厳しくチェックされます。したがって、会社員が副業として大家業を行う場合には、とにかく自分自身がよく知っているエリアに立地する不動産に投資しなければうまくいきません。

立地がいいか悪いかは一般論では判断できず、その地元の環境や歴史、その他さまざまな事情に詳しく、立地についての目利きがしっかりできなくてはならないのです。

【事例】40代会社員夫婦が賃貸用不動産を購入するまで

夫は数字、妻はコミュニケーション…夫婦の強みを生かして役割分担

神村尚・楽々夫妻は、「お金のソムリエ協会」で学んだ後、2020年から地元の鹿児島県で不動産投資に挑戦しました。

まず、会社員である尚さん(42歳)と妻・楽々さん(38歳)とで役割分担を明確にしました。尚さんは数字やパソコンに強いので、インターネットで物件の調査、さらに借入の段階では地元信用金庫へ事業計画などの数字を説明、会社員としての信用力を活かして借入交渉を担当しました(最終的に自己資金380万円、借入金額1,000万円、金利1.90%、期間20年にて借入に成功)。

一方、楽々さんは看護師時代に培ったコミュニケーション能力や人の世話をする能力を活かして、めぼしい物件の現場を訪問、不動産仲介会社、管理会社とのやり取りや現地調査を担当しました。夫婦でお互いの強みを発揮し合うことで、3人の子育てをしながら大家業の副業を開始しました。

最初に購入した物件は、中古アパートで、入居者がすべて埋まっている満室状態でのオーナーチェンジの形でした。

・物件:中古アパート(1DK4戸)、築37年

・立地:鹿児島県内の再開発が進むエリア

・価格:1,280万円

・周辺:駅や商業施設へ自転車で10~15分

家賃が1戸3万1600円なので、利回り11.85%になります。

さらに神村夫妻は、第2弾の物件として、中古戸建て投資も行い、長くネット上に出て売れていなかった物件の現地調査を行い、丁寧な交渉で提示金額の半額以下での購入に成功しました。

こうした事例のように、「大家業」においては、資金繰りと立地が最大のポイントになりますが、そのためにも自分たちがよくわかっているエリアか、すぐに現地へ調査に行ける範囲の物件で行うことが重要でしょう。

副業で賃貸ビジネスをすれば「節税」も可能

会社員には給与所得控除というものがあるため、経費計上は原則として認められませんが、副業で賃貸ビジネスを行うと、事業に関わるさまざまな経費の計上が可能になり、節税ができます。

不動産賃貸業の場合に大きいのは、減価償却費を計上できること。所有している物件の建物の価値は年々減価していくことから、毎年減価していく分を経費として計上できるのです。

この減価償却費は実際に現金が出ていくわけではないのに経費計上できるところにメリットがあります。通常の経費は、現金が外へ出ていくので、その分を経費計上するのですが、減価償却費の場合には現金が一切、減ることがありません。

そのほかにも、賃貸ビジネスが雑所得ではなく事業所得の規模になれば、さらにさまざまな経費も認められることになります。収入が増えてきたら法人化することで所得税率を下げるなどの節税も可能です。

また、賃貸ビジネス、とくに不動産投資の大家業は、昔から地主が行っていることもあって、副業禁止となっている会社であっても、とくに本業に支障が出る場合でなければ、届け出ることさえ不要という慣習になっている会社がほとんどでしょう。

そういう意味では、会社員が始めやすい副業と言えるかもしれません。

大杉 潤 経営コンサルタント/ビジネス書作家/研修講師

(※写真はイメージです/PIXTA)