真田広之が満を持してハリウッド初主演&プロデューサーを務めたディズニープラスで独占配信中の「スター」オリジナルシリーズ「SHOGUN 将軍」。毎話ごとに濃厚なドラマを繰り広げて視聴者をクギづけにしており、全10話の内8話に差し掛かった現段階でも、米国の映画批評サイト「Rotten Tomatoes」ではレビュー評価99%をキープ(※4月8日時点)。その勢いはとどまるところを知らず、いまやドラマ界のアカデミー賞エミー賞最有力候補とも目されている。徳川家康をはじめとした歴史上の人物にインスパイアされたキャラクターによる「関ヶ原の戦い」前夜を描く本シリーズだが、物語はいよいよ怒涛のクライマックスへと突入。第8話では、主人公の吉井虎永(真田)が五大老の石堂和成(平岳大)に降伏宣言をしたことによって大波乱が巻き起こり、まさかの人物の首が落ちる…!あらゆる者の思惑や激情があふれだすなか、浮かび上がる虎永の真意に震えるような展開となった。

【写真を見る】まさかの人物が散る…「SHOGUN 将軍」第8話人物相関図(ネタバレあり)

MOVIE WALKER PRESSでは、「SHOGUN 将軍」の魅力を発信する特集企画を展開。本稿では衝撃に次ぐ衝撃となった第8話を、ライターの成田おり枝がレビューする。

※以降、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

■虎永の降伏宣言が、家臣たちに波紋を起こす

戦国の日本を描いたジェームズ・クラベルの小説「将軍」を、ハリウッドの製作陣によってドラマシリーズとして新たに誕生させた本作。窮地に立たされた戦国一の武将、虎永と、その家臣となった英国人航海士の按針ことジョン・ブラックソーン(コズモ・ジャーヴィス)、2人の運命の鍵を握る謎多きキリシタンの戸田鞠子(アンナ・サワイ)らによる、歴史の裏側にある壮大な謀り事、待ち受ける大どんでん返しを描く。

覇権を狙う最大のライバル、石堂に追い詰められた虎永が降伏を宣言した。その結果、無鉄砲な性格の虎永の息子、長門(倉悠貴)はいてもたってもいられずに立ち上がり、あえなく死亡。第8話「奈落の底」は、長門の葬列から幕を開ける。咳が止まらず、目の下にはクマが深く刻まれるなど、明らかに覇気がない虎永。一方の石堂は、亡き太閤の側室・落葉の方(二階堂ふみ)との結びつきを強めようと「比類なき強さ、うるわしさ、勇ましさに目を奪われていた」と愛の告白。ここぞとばかりに、高みへと上り詰めようとする。

長門の思い出話をしながら彼をあの世へと送ろうとするなか、一番の悔しさと悲しみ、敬愛を吐露したのが央海(金井浩人)だったことにグッとくる。若い力で新たな世を目指した同志として、彼らが特別な関係を築いていたことが改めてよくわかるひと幕だ。長門が荼毘に付され、その煙を見ながらそれぞれがなにを思うのか。こういった静かなシーンに情緒が込められているのも、本シリーズの魅力だろう。茶室での鞠子と夫・文太郎こと戸田広勝(阿部進之介)とのやり取りも、静寂のなかに2人の死生観が滲みでる。鞠子は死にこだわっていたのではなく、生き方にこだわっていたことがわかる瞬間でもあり、彼女の凛とした美しさにハッとさせられた。鞠子の生ける花や茶室の掛け軸まで目を凝らすことで、死が身近であった戦国に漂う空気により触れられるはずだ。

今回の大きな見どころは、虎永が降伏を宣言し、長門が非業の死を遂げたことによって、あらゆる人々に波紋が広がっていくこと。落葉の方と組むべきだと進言する家臣、戸田広松(西岡徳馬)に対して、虎永は「静かな敗北、静かな死を選ぶ」とあくまで戦うつもりはないと強く念押し。誰もが虎永の真意を測りかね、按針までも虎永に見切りをつけ、「宿命を操ることの大切さを知っている人だ」と見込んだ樫木藪重(浅野忠信)に接触しようとする。各自がどう動くべきなのかと穏やかではいられなくなり、観ているこちらも心がざわついてくる!

真田広之西岡徳馬のすさまじい演技合戦!

そのざわめきが頂点へと達するのが、家臣を集めた虎永が「自分と共に降伏する者は署名するように」と書状を求める場面だ。「敗北に向かう殿に従うことはできない!」と正直に訴える者が出るや、家臣たちの不満や戸惑いが一気に爆発。広松はなんと「殿が気持ちを変えないならば、いまここで腹を切る」と命を捨てる覚悟で、虎永に進み寄る。虎永は「死ぬがよい」と言い放ち、着物をバッと開いた広松は切腹。唯一無二の友人であり、固い絆で結ばれた殿の忠臣として、強い言葉を投げかけ合い、広松が腹を切る間まで、瞳には鋭さと彼らにしかわからない光を宿しながら睨み合う2人。その様子をカメラはアップで捉えていくのだが、ここでの緊張感と迫力はすさまじく、シリーズ屈指の名シーンと言っても間違いない。

息子である広勝に介錯され、広松の首がゴロリと転がるという激動の展開に目を丸くすると共に、真田と西岡の熱演にシビれること必至。2月に徳川家康ゆかりの地、増上寺で行われた本作の来日大ヒット祈願イベントでは、西岡が「虎永をヒロが演じると聞いて、ぜひ一緒にやりたいと思ってオーディションを受けた」と愛称で呼びながら、真田に寄せる信頼感を語っていた。一方の真田は「西岡さんとは、30年以上にわたっていろいろなシチュエーションでご一緒させていただいてきた。時には敵対する武将であり、時にはドクターと患者であり、回想シーンでお父さんを演じていただいたり」と微笑みながら、「虎永と広松の関係性を言葉ではなく表現できるのは、徳馬さんしかいなかった」と断言。真田と西岡が積み重ねてきた歴史と友情、俳優としての尊敬の念が、作品の重厚感へと昇華された奇跡的なシーンと言えるだろう。視線の絡み合いによってたくさんの感情を表した2人の名演を、ぜひ堪能してほしい。

そして広松を思って涙する虎永から明かされた、彼の真意。行く先を見つめている虎永にとって、どこからどこまでが“謀り事”なのか。虎永の目指す、紅天とは?鞠子の覚悟、按針と薮重の動揺など、重要人物のストーリーもさらに大きく動きだす予感もたっぷり!第9話が楽しみで仕方がなくなると同時に、全10話と言われている本シリーズがもう少しで終わってしまう寂しさも…。めくるめく戦国時代にタイムスリップした時間があまりにも濃密で、早くも「SHOGUN 将軍」ロスを感じてしまう。

文/成田おり枝

西岡徳馬の「徳」は旧字体が正式表記

クライマックスへ向け怒涛の展開が続く「SHOGUN 将軍」第8話レビュー/[c] 2024 Disney and its related entities