国立天文台(NAOJ)と名古屋大学(名大)は4月8日インドに建設されたメートル波を観測できる電波干渉計「GMRT」が2010年12月に観測したデータアーカイブに対して新しい解析手法を適用した結果、高い電波感度を獲得することに成功し、地球から約1億5000万光年離れた「うみへび座銀河団(Abell 1060)」内に今までに報告されたことがない広がった電波放射を発見し、その放射領域の形状がオオコオモリに似ていたことから、英語名で「Flying Fox」と命名したことを共同で発表した。

同成果は、NAOJ 水沢VLBI観測所(NAOJ 水沢)の藏原昂平特任研究員、同・赤堀卓也特任研究員、名大大学院 理学研究科の大宮悠希大学院生、同・中澤知洋准教授(名大 素粒子宇宙起源研究所兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する欧文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。

宇宙において重力で結びついた最大の構造である、銀河が多数(多いと3桁)集まった銀河団(銀河団が多数集まったその上の大規模構造「超銀河団」もあるが、必ずしもすべて重力的に結びついているとは限らない)。銀河団は大きな質量を有しており、その重力エネルギーは膨大である。

銀河団にはX線を放射する数億度の高温プラズマや磁場が存在し、光速に近い速さの電子(宇宙線)も飛び交う。これらは、銀河団の重力エネルギーが変換されることで生成されると考えられている。しかし実際には、どのようにエネルギーの変換が行われるのか、まだ十分に解明されていない。銀河同士が衝突・合体するように、銀河団同士も衝突・合体を起こし、その大規模な衝突では、それぞれが持つ膨大な重力エネルギーを衝突の衝撃により解放すると推測されており、銀河団の進化や高エネルギー宇宙線の起源を解明する上で重要な研究対象とされている。

うみへび座銀河団は北天において地球に最も近い銀河団で、過去数十億年の間に、衝突・合体があったことが示唆されている。その一方で、衝突・合体に起因した高エネルギー宇宙線や、X線で見られる特異な形状が発見されていなかったため、大きな謎とされていたという。そこで研究チームは今回、GMRT(30台のアンテナからなる波長50MHz~1.5GHz帯域を観測可能な電波干渉計)が2010年12月に実施したうみへび座銀河団の観測データアーカイブに対し、新しい解析手法を適用して詳細な分析を行うことにしたとする。

そして新手法による解析の結果、高い電波感度の獲得に成功し、うみへび座銀河団内にこれまでに報告されたことがなかった広がった電波放射が発見された。さらに、この電波放射の存在を確かなものとするため、西オーストラリアの電波望遠鏡「MWA」(波長80~300MHzを観測可能)による観測データアーカイブの精査も実施。MWAが観測可能なGMRTよりも低い周波数においても、同じ領域に電波放射があることが確認されたとした。その一方で、可視光の観測データなどからは明確に対応天体を発見できず、これまでに確認されたことがない電波放射であると考察されたという。画像上の形から「オオコウモリ(Flying Fox)」と命名された。

また欧州宇宙機関が打ち上げたX線天文衛星「XMM-Newton」(1999年から現在も運用中)の観測データから、オオコウモリを含む領域で重元素量がやや高いことが確認された。見つかった電波放射との関連が示唆されているが、高温プラズマの特異な形状は見られず、銀河団の合体衝突を解き明かすには、日本の最新X線天文衛星「XRISM」による検証が待ち望まれているとした。

今回のオオコウモリは、従来の代表的な電波観測(~1.4GHz程度)に比べてより低い338MHzの周波数の観測データから発見された。このことは、より低い周波数の電波観測に最新の解析手法を用いることで、新たな研究成果がもたらされる可能性があるという。なお、2030年の稼働を目指し、現在世界16か国の共同によりオーストラリア南アフリカにて1平方kmもの超巨大な集光面積を持つ超大型電波望遠鏡SKA(エスケーエー)」の建設が進められている。オーストラリアの「SKA-Low」の周波数は50~350MHzと低く、観測開始がまさに期待されている。

また同様の電波放射をより多くの銀河団で捉えることは、銀河団の進化や宇宙線の加速メカニズムの解明につながり、銀河団の膨大な重力エネルギーの変換の仕組みを解き明かすことにつながるだろうとしている。
(波留久泉)

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