2024年8月、紀伊国屋サザンシアターにて井上ひさし生誕90年第2弾 こまつ座第150回公演『母と暮せば』が上演されることが決定した。

井上ひさしが生涯を掛けて書かなければいけない題材として挙げた「ヒロシマ」「オキナワ」「ナガサキ」。その一つ「ナガサキ」は井上が長年願った『父と暮せば』の対になる作品として、名匠・山田洋次監督が製作し大ヒットを記録した映画『母と暮せば』に結実。長崎で被爆した母と亡き息子の幽霊の交流をつづった作品は大きな話題と深い感動を呼び、数多くの賞を受賞。そして2018年、秋には山田洋次監督が監修、栗山民也演出のもと、青森で現役の高校教師を務めながらも、劇団「渡辺源四郎商店」主宰でもある畑澤聖悟を作に迎え、舞台『母と暮せば』が上演された。今回も演出は、13年紫綬褒章受章、23年旭日小綬章をはじめ、これまでに数多くの演劇賞を受賞する栗山民也。前回『母と暮せば』の演出により第26回読売演劇大賞・大賞と最優秀演出家賞を受賞している。

畑澤聖悟

畑澤聖悟

栗山民也(C)白鳥真太郎

栗山民也(C)白鳥真太郎

母・伸子役には富田靖子。栗山氏も絶大な信頼を置く情感豊かな演技により、評論家から、清浄さと少女っぽさを宿した母親像を見せながらも長崎の惨状を訴える長台詞に説得力があり、成長した母親像も強く感じた、と好評を博した。

息子・浩二役には松下洸平。こまつ座『木の上の軍隊』では新兵としてその瑞々しい演技力を遺憾なく発揮。朝ドラスカーレット』で注目を集め、俳優だけでなく、音楽活動・バラエティと幅広く活躍している。初演では素朴な演技をしつつも、起爆に力がある。特に映画では描かれなかった被爆した瞬間の身体が燃えていく演技に迫力があった、と高い評価を得て第26回読売演劇大賞・優秀男優賞と杉村春子賞、平成30年度(第73回)文化庁芸術祭演劇部門・関東参加公演の部 新人賞をトリプル受賞。初演より同じキャスト・スタッフが集結し、待望の再々演となる。

富田靖子

富田靖子

松下洸平

松下洸平

上演決定にあたり、作・畑澤聖悟、演出・栗山民也、出演の富田靖子・松下洸平よりコメントが到着した。

作 畑澤聖悟コメント

再演の時、この戯曲は「一人で書いたのではない」と書きました。いま改めてその通りだと実感しています。井上ひさし先生の思いがあり、山田洋次監督の思いがあり、数え切れないほど多くの人々の原爆への思いがありました。イタコがホトケオロシをするように、それを書き留めたのが私の仕事だったと思います。再々演して頂けることは大きな喜びです。とにかく一刻も早く観たい!演出の栗山民也さん、伸子役の富田康子さん、浩二役の松下洸平さん、スタッフの皆さんによって紡がれる命のものがたりに再会できる日がいまから楽しみでなりません。

演出 栗山民也コメント

靖子ちゃんと洸平に、また会える。その二人の声をまた聞くことができる。井上さんの残した数ページのメモから、畑澤聖悟さんがリレーするかのように戯曲に仕上げた作品に、また会える。2018年の初演から、もう何度目の上演になるのか、語り継ぐことの大事さをその度に深く噛み締めます。
『母と暮せば』は、井上ひさしが生前、「とにかく、広島、長崎、そして沖縄を書かないうちは死ねません」と幾度となくつぶやいていた作品です。それは、長崎の母と息子の上で原爆が炸裂し、一人は生き残り、一人は1万2000度の熱で一瞬のうちに溶け、その後再会する物語です。
今の瓦礫となってしまった現実の世界をリアルタイムで捉えながら、79年前の長崎に起きた不条理でメチャクチャな記憶を、再びしっかりと見つめねばと思うのです。

富田靖子コメント

2024年夏『母と暮せば』上演
決定しました‼︎
本音を言うと…目茶苦茶、怖いです。
正直、震えています。
2018年初演、2021年再演
そして2024年再々演、
どんな風に進化したのか、
進化していくのか分かりませんが、
今まで通り、これまで通り
ちゃぶ台の前で祈りを捧げている伸子さんを感じています。
長崎の高台のあの家のあの日の私たちに会いに来ていただけたら嬉しいです。

松下洸平コメント

僕にとって『母と暮せば』は、特別な思いのある作品です。
芝居の素晴らしさと難しさ、そして沢山の新しい景色に出会えたかけがえのない存在です。そんな作品にもう一度触れることで、何を思い、どんな新しい出会いがあるかとても楽しみです。
初めてこの作品と向き合った時と同じ気持ちで、2024年だからこその『母と暮せば』を作っていけたらと思います。

『母と暮せば』あらすじ

1948年昭和23年8月9日、長崎の山の斜面にへばりつくように建てられた一軒家。十字架と遺影が飾られた小さな部屋で、母・伸子は卓袱台を出して配膳をしていた。原爆から以後3年間、長崎医科大学に行ったまま行方不明となってしまった息子・浩二が帰ってくることを諦めつつも祈り、助産婦を続けていた。伸子がいざ食べようとした時、不意に誰かの気配に気づく。
「だれか、おると?」「僕だよ。」
そこには、死んだはずの浩二がいた。驚きながらも喜び涙する伸子、自分はもう死んでいることを告げながらも昔のように笑い話を繰り広げるひととき。
母さん、ずうっと笑ってなかったとやろ?母さんが笑うと僕も幸せになるとよ。」
しかし、話題は原爆が落とされた日…そして伸子の3年間へと移っていく…。