日本人の持ち家率は6割を超え、依然として「持ち家派」が多数を占めています。いつ買うか、は大きな問題ですが、ひとつのきっかけになるのが「子どもの誕生」。子育てをするうえで、持ち家のほうが何かと都合がいいと考えるようですが、そこで夫婦の価値観の違いが浮き彫りになることも。みていきましょう。

新婚2年目の30代夫婦…将来の話をしたときに判明した「価値観の相違」

世帯年収1,000万円ほど、首都圏に住む30代のサラリーマン夫婦。新婚2年目。そろそろ子どもを……と妊活をスタートさせたといいます。将来の家族を想像しながら色々夢を語るなか、「家も欲しいな」と妻が言ったところ、夫の猛反対にあいました。

――小さな子どもがいたら、騒音とか、気になるじゃん

――でも離婚したら、どうするの?

――り、離婚!?

――だから今のまま、賃貸のほうが安心だよ

家族の将来のことを語っているなかで出た夫の「離婚したら大変」という発言に、「離婚なんて言い出したら、子どものことを考えるのもリスクじゃん」と妻。「それと、これとは話は別」と夫。そして

――どうしても家を買いたいなら、君だけがローンを組んでよ

と夫。あまりの言い方に口があんぐりと開いたままになったと妻。「夫とは根本的な価値観が合わないのかも」と悩み、妊活もいったん中止。離婚も考え始めているといいます。

株式会社AlbaLinkが行った『マイホーム購入のタイミングに関する意識調査』によると、マイホーム購入を決断する要因1位は「十分で安定した年収」で36.9%。続いて「家族・家庭の事情」で30.3%。「貯蓄額・頭金の有無」「ローンの負担」「住みたい物件の有無」と続きます。この妻が「家も欲しい」といったのは、ライフステージの変化に伴う「家族・家庭の事情」。3割の人が住宅購入を決断する理由のひとつです。しかし、夫は持ち家派ではなく……とはいえ、離婚を前提に「NO」を突き付けるのは、少々デリカシーのない発言でした。

妻の年収は400万円程度。本当に妻だけでローンを組むとしたら、どれほどの家が買えるのでしょうか。

まず考えたいのが年収倍率。これは年収に対して物件価格が何倍かといったもので、金融機関によって異なりますが、「住宅ローンの借入額は年収倍率7倍まで」というのが一般的。ただ不動産価格の高い東京圏だと10倍までというケースも。女性の収入だけであれば、2,000万~2,800万円程度の不動産が妥当ということになります。

もうひとつ考えたいのが、返済負担率。これは、ローン返済額が年収のどれくらいになるかというもの。年収400万円未満で30%、年収400万円以上で35%が上限とされ、20%前後が平均値とされています。もし妻の年収で返済負担率20%だとすると、月ローンの返済は6.6万円程度。仮に金利が年0.5%、返済期間は35年だとすると、借入可能額は2,542万5,161円。

――本当に私だけの収入だけで家を買おうとしたら……中古でも難しいですね

不動産価格の高騰で「ペアローン」を選択する夫婦は増えているが…

サラリーマン世帯が購入を検討する新築物件でも、昨今の不動産価格を受け、特に首都圏であれば、7,000万円、8,000万円というのも珍しくなく、時に1億円近くにもなることも。1人だととても手が届かないと、ペアローンを組むケースも増えているといいます。

アローンであれば、単独でローンを組むよりも借入額を増やすことができます。単純に夫と同等の収入が妻にあれば、単純計算、2倍の住宅ローンを借りられ、一般的なサラリーマン世帯でも億ション購入が現実的になるわけです。さらに住宅ローン減税を2人分受けられることもメリットです。

一方でペアローンのリスクとして挙げられるのが、まずは「収入の減少」。子どもが生まれる前の収入で返済プランを立てた場合、子どもの誕生と共に産休や育休を取ると、当然、収入は減少。最悪、ローン返済が滞るという場合も。また子どもの成長の過程で、いまと同じように働き続けらえるという保障はありません。子育てと両立するために、正社員から非正規社員へ。当然、収入も減少……よくあるパターンです。

また単独でローンを組む場合、契約者が「死亡」すれば、団信によって住宅ローンは完済となりますが、ペアローンの場合、もう片方のローンは残り、完済とはなりません。

そして夫の発言のとおり、「離婚」も大きなリスク。ペアローンではお互いが連帯保証人になり、ローンにより持ち分は変わりますが、共有名義になります。双方の同意がないと売却はできません。離婚し、夫婦どちらかが住み続ける場合、単独ローンに切り替える必要がありますが、夫婦2人分の収入を基準にローンを組んでいるので、1人では返済が難しい場合も。売却もひとつの選択肢ではあるものの、家が売れてもローンが残ることも珍しくありません。

こうしてみていくと、離婚を前提とした夫の発言は、妻に対する配慮が欠如したものだったかもしれませんが、ペアローンのリスクを鑑みて、「買うなら妻単独で」という夫のいうことにも一理あります。

一生、賃貸か、それとも持ち家か……いまのところ、夫婦の主張は平行線を辿っているといいます。

[参考資料]

株式会社AlbaLink『マイホーム購入のタイミングに関する意識調査』