2023年、コロナ禍が明けたハリウッドでは長期にわたる脚本家組合と俳優組合の大規模なストライキが起き、それが終了したいまもメジャースタジオは先行きの不安が伝えられている。こうした巨大な業界システムが停滞や機能不全に直面するなかで、俄然注目度や存在感を増しているのが、比較的小ぶりな予算と体制で作り手の個性を大切にし、SNSに重点を置いたプロモーションで良質な作品を送り続けている新興の独立系映画スタジオだ。

【写真を見る】どんな犯罪を犯してもクローンを作って身代わりにできるリゾート地が舞台の『インフィニティ・プール』

A24、ブラムハウスに続く独立系映画スタジオのNEONとは?

その筆頭に挙げられるのが、ニューヨークに本社を置くA24(2012年設立)。日本でも『ミッドサマー』(19)などが大ヒットし、『ムーンライト』(16)や『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(22)がアカデミー賞作品賞を獲得した同スタジオは、若い世代を中心とする高感度な映画ファンが最も信頼を置くブランドとして定着している。

A24が東海岸の代表としたら、西海岸の雄はブラムハウス・プロダクションズ(2000年設立)だろうか。ロサンゼルスに本社を置き、基本は低予算ホラーを得意とするジャンル映画系の製作会社だが、『セッション』(14)や『ゲット・アウト』(17)、『ブラック・クランズマン』(18)など、賞レースに食い込む作家的野心の強い注目作も多数放つようになっている。

さて、こういった米国の独立系スタジオ勢で、とりわけ近年急成長を遂げている気鋭の映画製作・配給会社がNEON(ネオン)だ。2017年設立で本社はニューヨーク。同社の方針についてCEOのトム・クインは、「45歳以下で、暴力や外国語、ノンフィクションに嫌悪感を抱かない」観客に向けて作品をリリースするとコメントしている。要するに、尖った映画を求める進歩的な観客の欲望に応えるという攻めの姿勢の表明だ。手掛ける作品群はアートハウス系にしろ、エンタテインメント寄りにしろ、批評家の支持が高い尖鋭的なものが多いことが特徴で、A24やブラムハウスよりもハイエンドなのが持ち味。人材はA24とブラムハウスの両方から招き入れていたりする。

■NEONの最新作『インフィニティ・プール』

4月5日に日本でも劇場公開されたブランドンクローネンバーグ監督の新作『インフィニティ・プール』もNEONの製作作品だ。富裕層が訪れる架空のリゾートの孤島を舞台に、人間のクローン技術をめぐる悪夢のような惨劇が巻き起こる。ミア・ゴスの怪演が光る、まさに“攻めの姿勢”がゴリゴリに貫かれた奇想の1本だ。これはブランドンの長編3作目だが、前作の『ポゼッサー』(20)では米国での配給をNEONが担当した。また、ブランドンの父親であるカルト映画の巨匠にして鬼才、デヴィッドクローネンバーグ監督の集大成的な傑作『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』(22)も米国配給はNEONが務めている。

パルム・ドール受賞作を4作連続で配給

このようにNEONは自社製作だけでなく、配給事業にも力を入れているのだが、特にヨーロッパやアジアといった“非英語圏”の配給に関しては米国で一頭地を抜く存在となっている。とりわけ業界を驚愕させているのは、カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作、『パラサイト 半地下の家族』(19)、『TITANE/チタン(21)、『逆転のトライアングル』(22)、『落下の解剖学』(23)の米国配給権を4年連続で獲得していること。A24がオリジナルグッズの販売など自社ブランド力の強化に重きを置いているのに対し、NEONは世界中の多様な映画の紹介という点にミッションを置いており、より玄人筋やコア層の評価が集まっているのだ。

このほか、おもな作品をざっと並べてみると、セリーヌ・シアマ監督の『燃ゆる女の肖像』(19)やアリ・アッバシ監督の『ボーダー 二つの世界』(18)、ヨアキム・トリアー監督の『わたしは最悪。』(21)、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の『MEMORIA メモリア』(21)アレハンドロ・ランデス監督の『MONOS 猿と呼ばれし者たち』(19)、ヴィクトル・コサコフスキー監督の『GUNDA/グンダ』(20)、是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー』(22)等々、まさに現代映画の最先端の地図が描けてしまうラインナップがそろう。

いま世界を代表する刺激的な映画を観たいのなら、NEONの動向やセレクトに要注目!ということなのだ。

文/森直人

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