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 2024年2月29日、東京ミッドタウン日比谷で「SPORTS INNOVATION STUDIO」のデモデイが行われた。

「SPORTS INNOVATION STUDIO」は、スポーツ庁が「Scrum Studio(スクラムスタジオ)」と共同で実施するプログラム。スポーツ界のリソースと他産業の知見や技術を連携させ、新しいサービスを創出することを目的としている。

 今回のデモデイでは、企業やスポーツ団体との共同で事業共創を行なう「オープンイノベーション」の成果発表と、スポーツにおける優れた取り組みを表彰する「コンテスト」の授賞者の発表が行なわれた。

業界や団体の課題を解決する新しい事業

「オープンイノベーション」は、採択企業が企業やスポーツ団体との共同で新しい事業の創生に取り組むという内容だ。今回は「日本フットサルトップリーグ」(以降「Fリーグ」)と、「日本自動車連盟」(以降「JAF」)がコラボレーションパートナーとなり、計8つの企業と団体(「Fリーグ」4社、「JAF」4社)がテクノロジーやビジネスアイデアの実証をした。

 オリジナルサービスやチャットボットの開発を行なう「and.d」では、Fリーグの課題である人材不足を解決することを目的とする「AI観戦アシスタントボット」を開発した。実証実験では、7万を超えるインプレッションがあり、ポジティブな声も多かったとのこと。同社の深澤大気代表は「ファンのエンゲージメント向上につながる可能性が見えた」と手応えを述べた。

 スポーツ専門職の人材育成や事業運営を行なう「Ascenders」は、Fリーグの理解を深め、新規ファン獲得を目的とするオリジナル映像コンテンツの企画と製作を提案。フットサルトライアウトに挑むドキュメンタリー映像を作成し、Fリーグの通常コンテンツの約100倍の13万再生を記録した。池井大貴CMOは「熱心なファンにも響くコンテンツになったのではないか。今後は観客動員につながるコンテンツ、関心を深めるコンテンツを展開したい」と語った。

「One Smile Foundation」は、笑顔検知テクノロジーを用い、「スポーツが生み出す笑顔を寄付に変える社会貢献プロジェクト」の実装に挑戦。観客の笑顔を撮影した映像に広告を映し出し、その広告費をリーグに分配したり、寄付を社会支援に充てたりする。今回は、まずは認知拡大として、オールスターの選手投票を来場者のスマイルで行うという実験を実施。3月19日オールスター戦で本格的な実験を実施した。

 4社目は「SOLTILO Knows」。Fリーグが課題とする「データ取得」、「データ活用」の2つを解決する手段として、運動を数値化するウエアラブルセンサーを装着したスーツの導入と、取得データを活用したフットサルの観戦体験価値の向上を提案。8チームで同スーツを導入し、トレーニングや試合で着用した結果、効果的なトレーニングを行うことに貢献することに成功した。本取り組みも3月19日オールスター戦で本格的な実証実験を行なうとしている。

 次に、JAFと共同で事業共創に取り組んだ4社が登壇。

 1社目は自由視点映像やマルチアングル映像の配信システムを提供する「AMATELUS」。同社はさまざまなアングルでの映像配信を行なう「Swipevideo」を活用した、スーパー耐久シリーズのマルチアングル配信を提案。同社の篠原敏也COOは、「多くの人にSwipevideoを活用したレース映像を楽しんでもらえると確信している」と話した。

 電動マイクロモビリティーのシェアリングサービスを展開する「Luup」が登壇。モータースポーツシーンへの新たな来場手段として電動マイクロモビリティーを提案し、GHG排出量削減や地域活性化貢献などを提案した。JAF開催のイベントでは、電動マイクロモビリティーの無料クーポンを配布し、2日で合計300回の送客を実現。同社の鈴木尉大氏は、「インフラとしての発展的な活用方法の可能性を感じた。多くのスポーツ施設の課題である会場アクセス難の解決手段として提供したい」と話した。

 3社目の「Virtual Motorsport Lab」は、自動運転のソフトウェア人材育成とモータースポーツ認知度の向上施策を目的に、中高生を対象とした「自動運転の技術を競うレース」を実施した。大会には174人が参加。自動運転やITについて学べるだけでなく、自動車やモータースポーツに興味を持ったという参加者が多く、「モータースポーツ認知度の向上」にも成功。山下洋樹代表は「より本格的な大会の実施や、教育プラットフォームやパートナー企業の拡大。将来的には世界選手権を開催したい」と展望を語った。

 最後は「テレビ東京」が登壇。同社はテレビ東京のファンコミュニティを形成し、ファンエンゲージメントの向上に取り組んでおり、同じようにモータースポーツのファンコミュニティーの形成を提案。eモータースポーツリーグである「UNIZONE」のファンコミュニティを、テレビ東京が持つアセットを活用して広げることで、エンゲージメントのアップ。さらに認知拡大を目指すとしている。

2つの賞を同時受賞したプロジェクトとは

 イベント後半では、「コンテスト」で受賞した企業や団体が表彰された。

コンテスト」部門は、大賞である「スポーツオープンイノベーション大賞」のほか、「ビジネス・グロース賞」「ソーシャル・インパクト賞」「パイオニア賞」、「スポーツオープンイノベーション大賞」の4つ。

「スポーツオープンイノベーション大賞」は、リユース事業を行う「バリュエンスジャパン」によるプロジェクト「持続可能なチーム運営とファンエンゲージメントをサポートする『HATTRICK Auction』~チームにとっては不要でも、ファンにとっては宝物に~」が選出。同プロジェクトは「ビジネス・グロース賞」との同時選出となった。

 HATTRICK Auctionは、アスリートが実使用したグッズを取り扱うスポーツチーム公認オークションを実施しているサイト。数多くの貴重な商品が出品されるだけでなく、正規品であることの徹底した立証や転売の抑制を実施。また商品に込められたストーリーも含めて落札者に提供する共感型サービスとしても人気を得ている。

 HATTRICK事業責任者の井元信樹氏は受賞に際し、「HATTRICK Auctionがここまで成長し、このような賞をいただけたのも、この事業を共により良いものにしようと一緒に取り組んでくださったクライアントの皆さま、ユーザーの皆さまのおかげです。今後も現状に満足せず、さらなるクライアント・ファンファーストを追求しながら、地域社会・地球環境へと貢献するサービスとして一層のサービス向上と成長を目指します」と今後の抱負を語った。

ソーシャル・インパクト賞」は、「resolist」の「奈良県全域を走る移動式こども食堂」が受賞した。

 同社は松本山雅FC所属の現役Jリーガーの浅川隼人選手が代表を務めており、「アスリート食堂chabudai」や「浅川隼人レンタル」という、代表本人を何でも屋として派遣するユニークな取り組みを実施している。

 今回受賞した「奈良県全域を走る移動式こども食堂」は、「地域でこどもの健康を支え、共に育てる」をコンセプトに、キッチントレーラーで奈良県各地を回るプロジェクト。奈良県だけでなく他の地域からも注目されている取り組みだ。

 浅川選手は「現役アスリート初受賞ということで大変誇らしいです。『夢を追い、支え、創る』というミッションの下で活動をしています。これからもスポーツの力を使い、0距離で多くの方と関わり、人を繋ぎ、夢を紡いでいけるようにしたい。これからも皆さんと共により素晴らしいスポーツ界、日本にしていけることを楽しみにしています」とコメントした。

パイオニア賞」は「渋谷未来デザイン」による、「AIR RACE X(エアレース エックス) - XRで拡張する都市とスポーツによる新しい体験価値をつくる」が選ばれた。

 AIR RACE Xは、実際のフライトと最新のデジタル技術を融合させた新時代のレースフォーマット。2023年10月には渋谷で世界初となるXR技術を用いたエアレースが実施され、大きな注目を集めた。今後は同プロジェクトで用いられたXR技術の他スポーツでの活用や、スポーツツーリズムといった地域活性化への貢献なども期待されている。

「渋谷未来デザイン」の長田新子事務局長は今回の「パイオニア賞」選出について、「大変誇りに思います。AIR RACE Xは、レース復活(※)への強い想いとそれを実現するために奮闘した仲間たちのストーリーそのもの。航空ルールやデータ取得、XR技術、空間演出などの専門家が共通の目的に挑戦した結果です。革新性の追求で、世界初のレースフォーマットや観戦方法も生まれました。今後は次のレース開催や他スポーツへの転用、地域活性化など更なる可能性も追求していきます」と抱負を語った。 ※エアレースシリーズは2019年で終了

 両部門の発表、表彰が終わった後は、室伏広治スポーツ庁長官が登壇し、全体の総括と閉会の挨拶を行った。

「オープンイノベーション」に対しては、「今回の成果発表をひとつの通過点として、今後の実装に向けて事業を加速し、事業の拡張を進めてもらいたい。期待しています」と話した。

 また、コンテストで受賞した3団体については「コンテストには多くの応募があり、選出されなかった取り組みも素晴らしいものでした。わが国のスポーツ産業を成長させていくには、皆さんのさらなる活躍が必要。スポーツ庁としても皆さんの取り組みを応援していきたい」と締めくくった。

共創、テクノロジーの導入でスポーツ事業を拡張