航空機追跡サイト上で、日本上空に機影が出現したことで話題となった偵察機U-2ドラゴンレディ」。過去にこの機は日本に不時着したことがあります。その経緯は“事件”と呼べるようなものでした。

いまや機齢56年!

世界中の航空機を追跡できるサイト「フライトレーダー24」に2024年4月4日、機齢56年にもなる偵察機U-2ドラゴンレディ」の機影が出現しました。しかもその場所は日本上空。往年の偵察機がレーダーに出現したこと、そしてそのとき表示された飛行高度(約1万8288m)の高さなどから、ネット上の航空ファンのあいだで話題となりました。

実は過去に、U-2が日本で不時着したことがあります。それは1959年9月24日秋分の日のことでした。この事案は、第2次世界大戦後、米国の占領が続いていると肌身に感じさせるものだったのです。

U-2の不時着事件は、今はなき神奈川県の藤沢飛行場で発生。原因は、燃料切れによるものだったと記録されています。発生直後は大きなニュースにならなかったものの、米軍の高圧的な対応が年末に国会で追及され出して関心が高まりました。そのようななかでも、U-2の飛行目的は秘密のベールに包まれたまま。それが露わになったのは翌年、メーデーである5月1日旧ソ連によるU-2撃墜でした。

U-2は今でこそ偵察機として知られていますが、当時は所属も不明でした。存在自体は1957年に知られていたものの、同じ年に厚木基地付近に住む航空月刊誌の読者が写真を撮影し月刊誌に投稿したところ、米軍が家宅捜索に入る強権ぶりを発動し、国籍標識も描かれない所属不明な姿も合わせて不気味がられていました。

ナゾに満ちた「U-2の日本不時着」その飛行目的とは?

不時着した際も駆け付けた米国人はアロハシャツに拳銃を携える異様な姿のうえ、米軍将校は機体を撮影した日本人のフィルムを取り上げる始末。こうしてU-2の怪しさは否応なく増し、暮れには国会で取り上げられ追及も激しくなりました。

事態の鎮静化を図るためだったのでしょう。米国は、U-2NASA(米航空宇宙局)に所属し、高度16000m以上のジェット気流や天候の観測に適した「防腐剤を塗った民間機」と発表しました。それでも信じる日本人はいません。ただし、日本側も依然、真の目的をつかめず、気象観測を軍用に生かす程度の推測をするしかありませんでした。

その推測を確信に変えたのが、藤沢飛行場での不時着から約8か月後の1960年5月1日旧ソ連によるU-2撃墜だったのです。撃ち落された機体は、藤沢飛行場に不時着した機体そのもの。運用していたのは海軍や空軍でなく、諜報機関のCIA(米中央情報機関)でした。

不時着直後に現れた米国人はCIA要員ゆえにアロハシャツ姿という民間人の服装でしたが、大慌て故に拳銃も携える異様ないで立ちだったと解釈できます。

なお、冒頭の2024年4月のU-2飛来がフライトレーダーで確認された事象も、上空を通過した理由などは明らかになっていない模様です。それだけ今なお、U-2は黒一色の塗装も相まってミステリアスな機体であると言えるのかもしれません。

ちなみに、現在の米軍基地ではヘリなどの不時着に備えて基地周辺の自治体や消防も交えて合同訓練を行っています。そのため、強権が発動された、昭和の黒いジェット機事件のような事態にはならないでしょう。とはいえ、安全運航で臨んでほしいのは間違いありません。

U-2偵察機(画像:アメリカ空軍)。