入れ替わりの激しいラーメン業界で「ご当地ラーメン」が繁盛するのは、一体なぜなのか。その理由からは、競合だらけの市場で儲けるためのポイントを学ぶことができます。チャンネル登録者数50万人超の税理士YouTuber、菅原由一氏の著書『タピオカ屋はどこへいったのか? 商売の始め方と儲け方がわかるビジネスのカラクリ』(KADOKAWA)より一部を抜粋し、見ていきましょう。

競合だらけの市場で勝つには「ターゲットの絞り込み」が大事

競合だらけのレッドオーシャンに沈まないためには競合との差別化が必要です。ご当地ラーメン店はその方法で繁盛している店の一例です。

ご当地ラーメン店が流行る素地として、まずラーメン市場そのものが大きいことが挙げられます。国内のラーメン屋の市場規模はおよそ6019億円とされています(総務省令和3年経済センサス」)。また、観光庁が実施した訪日外国人消費動向調査では、「最も満足した飲食店」として肉料理に次いでラーメンが第2位にランクインしており、外国人観光客からも人気の高い料理であることが分かります

ただ、市場が大きい分だけ競合も増え、特徴のない商品は飽きられます。ご当地ラーメン店が繁盛するポイントはここにあります。

各地のラーメンの郷土性を打ち出しつつ、スープの味や麺の太さなどによる違いを明確にすることで、市場内のターゲット(ラーメンファン)を絞り込むとともに競合店との差別化を図っているのです。

専門店として「地域(=小さな市場)のオンリーワン」を目指す

戦略面から見ると、飲食店は2つのタイプに分けられます。

1つは単一の料理と、その料理を好きなターゲット層に絞る専門店タイプです。トンカツ屋、すき焼き屋、ラーメン屋、寿司屋、喫茶店などがその例で、ご当地ラーメン店も、ラーメンの種類の細分化した専門店であるという点で、このタイプに含まれます。

もう1つは、ジャンルを超えて多様な料理を扱う百貨店タイプです。居酒屋ファミレスなどがこのタイプで、中食が増えている現代では多様な弁当類を扱っているコンビニもこのタイプです。

人やお金などのリソースが限られている中小企業や小規模店舗は、専門店タイプのほうが成功しやすいでしょう。提供する料理の種類を絞り込めば、食材の仕入れが単純化します。複数の料理のつくり方を覚える必要もありません。

また、ラーメン屋は基本的に店の周辺のお客さんを相手にする商売ですので、専門店としての認知度を高めることで、商圏や地域のナンバーワンになれる可能性が高まります。オンリーワンになれる可能性もあります。みそラーメンが一番美味しい店、もっとも行列ができるつけ麺の店といった小さな市場のトップとなることで、店の認知度が高まり、専門店としての価値も高まります。

“弱者”が小さな市場で勝ち抜くための戦略

少し専門的な話をすると、小さな市場のトップを狙う方法は、戦争での勝ち方の理論を示すランチェスタ―の戦略に基づく戦い方です。

ランチェスターの戦略(第一の法則)は、戦闘力が同じ場合は兵力が多い方が勝つことを大前提としています。兵力は、ビジネスで言えば人や資金などのリソースであり、中小企業や小規模店が大手と真っ向勝負しても勝てないことを意味します。

一方で、この法則には弱者が勝つための5つの戦略もあります。

その5つは、「戦う場所を限定する」「相手を限定して一騎打ちに臨む」「広域戦ではなく接近戦にする」「一点集中で戦う」「陽動作戦で競合相手の裏をかく」ことです(図表2)。

ラーメン屋が専門性を追求することは、戦う場所を絞る、一点集中で戦うといった点でこの法則と合致します。この戦略が、市場で勝ち残る可能性を高めるわけです。この戦い方はラーメン屋に限らず、中小企業や小規模店舗が勝ち残るヒントになるでしょう。

例えば、私たちの会社は税理士の集団ですが、税務の範囲は広く、個人向けの相続税と法人向けのコンサルティングでは求められる知識や能力が異なります。

美味しいみそラーメンをつくる人が美味しいつけ麺をつくれるとは限らないように、税務という基礎は同じでも、どの分野で専門性を発揮するかによって事業モデルも成長性も変わります。

だからこそ、もっとも能力を発揮できる、または最も集客と収益の面で有利な市場に絞り込むことが大事です。

市場とターゲットの選択と集中により、中小企業や小規模店舗は経営を効率化できます。獲得できる需要(量)は小さくなりますが、競合が減り、専門性を武器にして勝ち残ることができるのです。

菅原 由一

SMG税理士事務所 代表税理士

YouTubeチャンネル『脱・税理士ガワラくん』運営

(※写真はイメージです/PIXTA)