(昆虫料理研究家:内山 昭一)

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カシューナッツのような見た目と甘い匂い

 ここ最近になって昆虫食界隈でにわかに注目度が急上昇している昆虫がいます。それはフェモラータオオモモブトハムシ(以後フェモラータと表記)という外来生物です。食用となる幼虫は小さくて丸まっていてとてもかわいく、まるでカシューナッツに色も形もそっくりです。注目される理由としては、見た目で虫には見えないこともありますが、なによりもその甘い匂いに驚かされるのです。ゆでて数日冷蔵庫で保存するとその匂いが際立ちます。「杏仁そっくり」と誰が言ったかわかりませんが、今ではフェモラータの匂いの形容として定着しています。

 フェモラータは2009年に三重で発見されたハムシ科の昆虫で、成虫は翅が金色に光る構造色できれいなため、ペットショップで売られていたものが放置され、野生化したと言われています。太く立派な後脚が特徴で、学名のフェモラータは「太もも」という意味です。フェモラータはクズの葉を食べて茎に産卵し、蔓に虫こぶ(ゴール)を作って越冬します。私はその美味しさに魅了されて、昨年と今年、「食べて駆除する」目的で採集に行ってきました。

 フェモラータは愛知でも発見されていて、地元の研究者と落ち合って、昨年と同じ河川敷で採集を始めました。虫こぶは部分的に膨らんでいるので見つけやすく、1か所で見つかると次々と見つかります。2時間ほどでかなりの数の虫こぶを採集できました。虫こぶを開いて茶色の繭を取り出し、繭を割るとカシューナッツならぬフェモラータ幼虫が現われます。一連の作業は慎重にしないと幼虫を傷つけてしまうので注意が必要です。

 フェモラータ幼虫は見た目に優しく甘い香りがするので、スイーツなどのトッピングなどにもよく使います。たとえばゆでてハチミツをからめ、ホイップを絞ったマフィンにのせたりします。

 クズはマメ科なのでフェモラータの大豆への侵入が危惧されています。いまのところ農作物への被害は報告されておらず、クズの繁茂する一部の河川敷に留まっています。ただ今後の推移によっては特定外来生物に指定される可能性があり、その場合は現場で殺処分しなければなりません。そうあってほしくないのですが、推移を見守るしかないでしょう。

岩手の高校生がカメムシの食用化を提案

 “嫌悪感”が昆虫を食べる心理的な壁となっているのですが、フェモラータはその見た目からハードルを下げてくれています。その対極にあるのがカメムシでしょう。

 カメムシは臭いという否定的評価が定着しています。でもニオイというのは濃いと悪臭でも薄いと良い匂いということがあるのです。

 たとえばホシハラビロヘリカメムシなどヘリカメムシ科のカメムシは少量をつぶすと青りんごのようなフルーティーな匂いがします。このカメムシを地域の魅力にしようと高校生が考えました。

SDGs QUEST みらい甲子園」は高校生がチームで社会課題解決のアクションアイデアを考えるコンテストです。その岩手県大会で今年3月、岩手県立葛巻高等学校が最優秀賞を受賞しました。そのテーマがなんと「カメムシの食用化」でした地域で大量発生するカメムシを食用化するアイデアで、厄介な害虫を地域の魅力にするという発想の転換が高く評価されたそうです。今後交流を深めて「カメムシ料理レシピコンテスト」など開催できたらと思うと心が躍ります。

 ところがネオニコチノイドをはじめとする農薬散布による昆虫種の減少には著しいものがあります。たとえばハナバチの巣から160種類もの農薬が検出されています。殺虫剤はピンポイントで効くだけでなく、あらゆる野生生物のジェノサイドと言えるでしょう。

 昆虫は農作物の受粉を助け、食物連鎖の重要な役割をはたしています。このまま減少を続けていけば地球は死の惑星になりかねません。知られているだけでも100万種以上とされる昆虫は、鳥や魚の餌だけでなく、人間にとっても貴重な食料であり、世界を見渡すと20憶人が2000種類の昆虫を日々の糧としているのです。

 私の住む東京都日野市には無農薬で野菜を育てている「せせらぎ農園」があります。筆者は農園のサツマイモ畑から“収穫”されて丸々太ったエビガラスズメの幼虫をいただくことがあります。新鮮なサツマイモの葉をもりもり食べて育った幼虫は肉厚で旨味があり、美味しくいただくことができます。美味しい昆虫たちがいなくなる世界を私は見たくないと思っています。

参考文献:デイヴ・グールソン著『サイレントアース』NHK出版、2022年

(編集協力:春燈社 小西眞由美)

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フェモラータオオモモブトハムシの成虫 LiCheng Shih, CC BY 2.0, ウィキメディア・コモンズ経由で