頼りになる4番・中田の存在は、今の中日にとって欠かせぬものだ(C)産経新聞社

 中日が4月9日セ・リーグの単独首位に躍り出た。2016年5月10日以来、8年ぶりとなる出来事にファンは驚きを隠せず、浮かれた気持ちで勝利の美酒を味わった人もいるだろう。

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 ちなみに、その2016年5月10日のスタメンは下記のとおり。9日の試合前に殿堂入り記念セレモニーに臨んだ谷繁元信氏が、監督として率いていた頃だ。

(中)大島洋平
(二)荒木雅博
(右)平田良介
(一)ビシエド
(左)ナニータ
(三)エルナンデス
(遊)堂上直倫
(捕)桂依央利
(投)佐藤優

 この中で現役を続けているのは大島とビシエドの2人。両選手とも9日のスタメンには名を連ねておらず、ビシエドに至ってはファームで調整中だ。堂上直倫は今季より内野守備走塁コーチに就いている。野球界にとって「8年」というのは、「ひと昔」と言って差し支えないのだろう。時の流れを嫌でも感じる。

バント失敗を救った先制打

 ここからは9日の試合に触れていきたい。試合を通して目についたのは「ミスをカバーする力」だ。

 一つ目は初回の攻撃。先頭から連続四球で無死一、二塁のチャンスをつくるも、3番・高橋周平送りバントを失敗。シーズン序盤といえども首位攻防戦、そして直近の高橋が不調であることを考えれば、送りバントのサインは理解はできる。とはいえ、相手先発のアンドレジャクソンが制球を乱しがちなだけに、首脳陣の判断は手堅くいきすぎとも取れた。

 ただ、そこで救ったのが4番の中田翔だ。2球で追い込まれるも、ジャクソンが3球勝負で決めにきた速球をライト前へ運ぶタイムリー。チームに先制点をもたらした。

 もしもバント失敗から無得点となっていたら、ジャクソンは2回以降スイスイと投げていたかもしれない。そうなると、結果的に決勝点となった中田の2本目のタイムリーも生まれていないはず。今思えばこの先制点が自分たちを優位にさせるものだった。

■投手コーチの声掛けがピンチ脱出に

 二つ目は8回の守り。この回からマウンドに上がった勝野昌慶は150キロ超の速球と高速フォークで、先頭の石上泰輝を三振に抑える。開幕からセットアッパーを担う背番号41は今夜も安泰ーーそう思った矢先にミスを犯してしまう。

 1死から度会隆輝が放った打球は一二塁間へ。これを一塁手の中田が処理し、ベースカバーに走る勝野へアンダーハンドトス。これがやや逸れて、勝野は捕球しながらもバランスを崩しベースを踏み外してしまう。審判の判定はセーフ、出塁を許した。

 2点リードこそしているものの、一発を浴びたら同点。舞台は敵地・横浜スタジアム、主軸に回っていく打順を思うと、痛恨のミスプレーである。

 ここでバッターはタイラー・オースティン。長打力のある外国人打者で、一発のリスクが高い。勝野は初球、外角低めに明らかなボール球を投げた。警戒の色とミスを引きずる気持ちがないまぜになったような次の瞬間、ベンチから小走りにマウンドへ向かう人物がいた。大塚晶文投手コーチである。大塚コーチは勝野の背中を軽く叩きながら一言二言声をかけて、ベンチへ戻っていった。

 そして仕切り直しの2球目、高速フォークは真ん中近辺の甘いコースに入るも、打球は上がらず遊撃へ。6-4-3のゲッツーで事なきを得た。

 大塚コーチがどんな声掛けをしたかはわからない。ただ間を取りに行っただけかもしれない。それでも、1ボールの時点でマウンドに行く判断は素晴らしかった。勝野も期待に応え、これ以上ない形でイニングを完了させた。今後ベースカバーの練習は必要だろうが、この日においては自らのミスを帳消しにしたのだ。

 野球にはミスがつきもの。それをどうカバーするかが大事で、うまくカバーすれば勝利にもつながっていくと教えてもらう、単独首位浮上の夜だった。

[文:尾張初]

8年ぶり単独首位の中日が見せた「ミスをカバーする力」 成長を実感したふたつの場面とは?