免許不要の“はず”の電動キックボード歩行者と接触事故を起こした被疑者。その後を追うと、極めて重い罪になったことがわかりました。被疑者はもと免許保有者。免許の必要性の有無の認識も操作の焦点になっています。

歩行者と衝突「大丈夫かな?」→「大丈夫そう」そのまま逃走!?

名古屋市内の繁華街で、電動キックボード歩行者と衝突、骨折させ、逃走した事件が2024年2月3日に発生しました。その1週間後、被疑者は逮捕されました。

4月15日まで続く春の交通安全運動では、電動キックボード等利用時のヘルメット着用と交通ルールの遵守が全国重点項目になっています。名古屋市で起きた事案のその後を追うと、運転者自らが電動キックボードの事故を“事件化”してしまう実態が見えてきました。

事件は2月3日17時11分頃、名古屋市中区栄4丁目の両側に歩道のある一方通行路で起きました。被害者の40代男性が歩道から車道を横断しようとしたところ、44歳の無職の男が電動キックボードで後ろから追突するように衝突しました。

被害者の男性は鎖骨を折るなど全治約8週間のけがを負いました。被疑者は事故後、一度は電動キックボードを降りて駆け寄りますが、男性がよろめきながら立ち上がると放置したまま逃走しました。その様子は、周囲の防犯カメラなどの映像に残され、大きなニュースにもなりました。

単に電動キックボードで衝突する人身事故であれば、逮捕されることはありません。しかし、被疑者は救護することなく逃走したために、道路交通法違反(救護義務違反・事故不申告)で、通常逮捕されています。この容疑者はその後、名古屋地方検察庁に送致されました。

捜査の焦点は、容疑者がなぜ逃走しなければならなかったのか、という点に絞られました。

取り調べに被疑者は当初「捕まりたくなかった」と供述しています。事故は電動キックボード一方通行を逆走することによって起きていますが、特定小型原付だった場合は、標識によりますが、自転車と同じように規制の対象から除外されます。しかし、44歳の男が乗っていたのは、原動機付自転車に相当する電動キックボードでした。

当然ですが、原付を運転するためには原付免許が必要です。そのため逮捕された男の容疑は、無免許危険運転致傷(通行禁止道路の通行)の上にひき逃げ、という重罪になりました。

しかし、捜査はそれだけで終結しませんでした。愛知県警交通捜査課と中署によると、実はこの被疑者、「過去に運転免許を持っていたことは確認できる」というのです。

免許の必要性を「わかっている」? 被疑者が迎えた最悪の結果

電動キックボードの利用者の中には、自分が運転する車両が、免許不要の特定小型原付なのか、原付か、もっと上位免許である自動二輪免許が必要なのか、理解しないまま運転している人もいるようです。

今回の事件で被疑者の運転した電動キックボードのブランドは「GOTRAX」(型番APEX MAX)でした。GOTRAXのサイトには、電動キックボードの商品紹介はありますが、同型の販売はありません。また、販売されていないせいなのか、製造する車両がどの免許区分なのかも明示されていません。

今回の事件では、実はこの免許区分の認識が問題になっています。

「2023年8月ごろにネットで購入した」と、被疑者は当初供述していました。記者が事件発生当初に通販サイトを確認した時点では、免許が必要とも、そうでないとも受け取れるような記載でした。そして運転時に、被疑者は無免許でした。当該機種が原付あったことを認識していたのでしょうか。

警察は「回答を差し控える」と回答しましたが、過去に免許を所持していたことを考えると、免許の要否については知識があったことが伺われます。また、救護義務についても知っていたはずです。

何らかの理由で無免許となった場合の移動手段としても、免許不要の特定小型原付は非常に魅力的ですが、販売サイドもどの免許区分の乗りものを販売しているのか、明記して販売する必要があります。

そして事故当時、車両にはナンバープレート(課税申告)がありませんでした。おそらく自賠責保険も未加入であることが考えられます。この事件では罪名や罰条に入っていませんが、被害者の治療費は事実上、自賠責保険の加入者が立て替えることになります。

電動キックボードの事故や事件では、新しい交通ルールの周知を、とよく言われます。しかし、本当は免許が必要なことを知った上で、より出力の高い車両を選択し、無免許、無届のまま乗ってしまう、ということがあるのではないでしょうか。気軽に乗っていても事故を起こした時の責任は重大です。

無届の電動キックボードでの悪質な走行例。写真はイメージ(中島みなみ撮影)。