日本のドキュメンタリー史上最も重要な映画作家のひとり、佐藤真監督のレトロスペクティブ「暮らしの思想 佐藤真 RETROSPECTIVE」が、5月24日よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次開催されることが決定。ポスタービジュアル、予告編(https://youtu.be/SAqGuFmSvaE)が披露された。

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革新的手法と映画哲学によって数々の傑作を世に残したドキュメンタリー作家・佐藤真。ありきたりの「日常」を撮り、その中に潜むもうひとつの世界への入口を探し、言葉にからめとられる前の世界の感触を伝えた。2007年に49歳で突然この世を去ったが、今なお多くの人たちに影響を与え続けている。

今回のレトロスペクティブでは、知的障がい者と呼ばれる7人のアーティストたちの活動を通して芸術表現の根底に迫った「まひるのほし」(1998)、重度の自閉症を抱えた一人のアーティスト今村花子と、彼女を取り巻く家族の物語「花子」(2001)、パレスチナの窮状と真実を世に伝え、和解と共生の地平を探り続けた知識人エドワード・サイードの不在を見つめた「エドワード・サイード OUT OF PLACE」(2005)の3作品を4Kレストア上映。

また、日本のドキュメンタリー映画の金字塔と言われている、新潟水俣病の舞台ともなった阿賀野川流域に暮らす人々を描いた長編デビュー作「阿賀に生きる」(1992)と、その10年後の人々を捉えた「阿賀の記憶」(2004)、濱口竜介監督作「寝ても覚めても」でもその作品が引用された、孤高の写真家・牛腸茂雄の作品世界に肉薄する「SELF AND OTHERS」(2000)もあわせて披露される。

なお、本レトロスペクティブ開催に際して、日本映画界を牽引する映画監督3名のコメントが到着。濱口竜介監督は「一度お会いしたかった」と尊敬の念を滲ませ、深田晃司監督は「ノスタルジーから遠く現在と生々しく接続している」と絶賛。三宅唱監督は「新たな問いばかり見つかります」とレトロスペクティブ開催に期待を寄せている。また、サイードと親交の深かったノーベル文学賞受賞作家・大江健三郎氏がかつて「エドワード・サイード OUT OF PLACE」について書いたコメントも解禁された。

コメントは、以下の通り。

大江健三郎(作家)

エドワード・サイードの「不在」の風景のなかを、ゆったりと美しいカメラが、いつまでも追ってゆく。パレスチナイスラエルの苦しみのひだひだが照射される。人々の色濃い思い出を横切るサイード。そしてサイードの「希望」が私らの頭上に現われる。
(「エドワード・サイード OUT OF PLACE」について)

【濱口竜介(映画監督「悪は存在しない」)】

佐藤真の映画ではカメラが人物の前に回ることが多い。対立でもなく、対峙でもなく、被写体の前で立ちすくむカメラ。そんな印象を受ける。答えのない過酷な生を、人々の声が和らげる。佐藤真はインタビューすることを恐れない。インタビューの一つ一つが説明に堕することがないのは、人の声自体を「できごと」として捉える感性ゆえだろう。一度お会いしたかった。

【深田晃司(映画監督「LOVE LIFE」)】

生きていると佐藤真監督の映画のことを不意に思い出す。阿賀の景色、花子の笑顔、パレスチナの難民たち。それら映像の記憶の断片はノスタルジーから遠く現在と生々しく接続している。

【三宅唱(映画監督「夜明けのすべて」)】

なぜそう撮ったのか。なぜそう繋いだのか。なにを撮らずにいたのか。なにを撮れなかったのか。あるショットから次のショットへ、そのすべての変化が、新たな発見として、新たな応答として、そして新たな問いとして迫ってくるように受け止めています。自分なりに考えてきたつもりでも、いままた見直すと、まだまだぜんぜん受け止められていないことに気づき、新たな問いばかり見つかります。レトロスペクティヴの開催を嬉しく思っています。

ポスタービジュアル