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 日本発のディープテックスタートアップが世界に伍するために必要な要素は何か――。グローバル課題に技術で取り組む起業家のための世界最大規模のスタートアップ・コンテストExtreme Tech Challenge(以下「XTC」)」の日本大会「XTC JAPAN 2024」が、2024年3月1日に東京・汐留で行われた(ACII STARTUP主催「JAPAN INNOVATION DAY 2024」と同時開催)。

 ここでは、グローバルVCによるパネルディスカッション「世界のディープテックVC対談」の内容をダイジェストでお届けする。

 パネリストとして、XTCの共同創設者でWalden Catalyst Ventures共同創業者・マネージングパートナーのYoung Sohn(ヤン・ソン)氏、Darwin Venture Management マネージングパートナー Kay Lin(ケイ・リン)氏、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)パートナー 長坂 英樹氏、モデレーターとしてXTC JAPAN幹事/IT-Farmジェネラルパートナー 春日 伸弥氏が登壇。日本発のディープテックスタートアップが世界に伍するために知っておくべき共通認識や未来について語り合った。

春日氏:まずはみなさんの会社についてご紹介いただけますか。

ソン氏:私の投資エリアはデータエコノミーと、それを実現可能にする基盤分野、たとえばAIです。チップからアプリケーションまで幅広いレイヤーを対象とし、大きなインパクトを与える起業家を世界中から探しています。これまで米国、欧州、イスラエルを中心に投資してきましたが、これから日本にも拡大していきたいと考えています。私は投資家として27年間活動し、世界中の600以上の企業に40億ドル以上を投資し、139の企業をIPOさせています。

リン氏: Darwin Venture Managementは半導体業界で活躍したスタンフォード大学出身のSimon Fang博士とYaoting Wang博士が共同で2009年に設立しました。半導体分野や素材などのディープテック領域への投資からスタートし、インターネット、ソフトウェアへと投資領域を拡大しています。特に大学からのスピンオフに興味があり、大学の持つ知財の社会実装を支援しています。これまで台湾スタートアップのグローバル展開といえば米国と中国でしたが、近年は日本にも展開する企業が台頭してきました。このため私達も日本に進出して投資機会や協業機会を探ることにしたのです。今日はスタートアップのみなさんとお話できることを楽しみにしています。

長坂氏:東大IPCは、大学からの起業を支援する東京大学100%子会社です。我々の目的は、大学・研究機関から生まれる最先端技術やアイデアを事業化し、そこで得た利益を大学に還流しつつ、グローバルなイノベーションに貢献し、国境を越えた協力と変革的な技術の成長を促進することです。最近の注力している領域は気候変動、サイバーセキュリティ、資源不足、エネルギー貯蔵等に関する問題など、グローバル課題に対処する技術に関心があります。また、主なターゲットエリアは日本、EU、米国です。

次に来るテクノロジーの波は?

春日氏:ソンさんはThe Next Waveという(ハイテク業界リーダーへの)YouTubeインタビュー集でも有名です。次に来るテクノロジーの波は、どのようなものになるとお考えでしょうか。

ソン氏:コロナ禍では人と会うことが制限されたことから、YouTubeを通じていろいろな人と交流し、アイデアを共有することを思いつきました。波は新しいチャンスをつくるものでもあります。歴史を振り返ると、内燃機関や電気の発明により、自動車や電子回路などが作られて社会に大きな変化が起こりました。2000年代にはデジタルネットワークが普及し、SaaSやバイオテックなども生まれています。そして今はAIの時代です。AIは新素材の開発や創薬など、あらゆる分野で使われるようになります。我々投資家は、AIの技術がピークに達する前に投資しなければなりません。サーフィンのように波が来る前にパドリングして、うまく波に乗ることをイメージしています。

 現在のAIへの投資は米国が群を抜いており、2位は中国、日本のAI投資はわずかです。日本の政府の方にお会いして、AIと半導体にもっと投資すべきだとお伝えしたいと考えています。また、米国、台湾、韓国、日本の半導体産業はお互いに依存しあっています。新しい世界経済が広がっており、ここにいるみなさんには新しい波に乗るチャンスがあります。

春日氏:台湾は半導体メーカーの集積地ですが、どのようにトレンドを見ていますか?

リン氏熊本県に台湾TSMCの工場ができたことが台湾でも話題です。台湾の人々は7年はかかるだろうと言っていたのですが、2年で完成したことにみな驚いています。これはグローバルなうねり(今回は地政学的リスク)が、ビジネスや技術の進展を急加速させる例だと思います。 AIに関しては、インフラになっていくと考えています。ICチップ携帯電話から照明器具などあらゆるものに使われているのと同様に、人々が気付かないところで当たり前に使われるものになると思います。そのため、我々が見るべき本質は、AIを使っているという事実ではなく、AIを使ってどのような問題を解決し、ビジネスや社会にどのようなインパクトをもたらすかだと考えます。

長坂氏:私からはアプリケーションおよび大学関係スタートアップトレンドの側面からお話しできればと思います。最近の技術でいうと、大きな変化の一つは紛れもなく皆様もご存じの生成AIの台頭だと思っております。Google、マイクロソフト、Meta、Appleなどの巨大企業は生成AIの開発に注力しており、マイクロソフトは100億ドル以上を投資しています。生成AIは文脈を読むことができるので、これまでの部分的な自動化から、個別最適化されたプロセス全体設計を含めあらゆる自動化が可能になります。この生成AIをどのように応用していくのかが大学関連スタートアップの課題です。それを踏まえて、例えば3Dシミュレーションによる素材や化合物・新薬開発、デジタルツインによる建設業や製造業への活用など、生成AIと社会問題の解決がどのように結び付けられるのかに興味があります。

日本のスタートアップが世界で活躍するには何が必要か?

春日氏:世界的な投資家から見て、日本のスタートアップの技術は世界に通用するでしょうか? 世界で存在感を示すにはどのようにすればいいでしょうか。

ソン氏:AIの競争はまだ初期の段階です。現時点で私が言えることは、特定分野において、日本は世界で通用する技術があると思います。半導体チップの製造では、その材料の多くを日本から調達しています。半導体製造装置も多くが日本から供給され、そこには日本の精密電子技術やノウハウ、機械学習技術などが活用されています。これらの分野では日本企業が引き続き世界的に活躍しています。スタートアップの分野でも、日本から大変面白いアイディアが孵化しつつあります。けれども日本でそうしたスタートアップに出会える割合は、世界に比べるとまだまだ低いのが実情です。起業家を増やし、大きな夢を描き、日本人だけで固まらずに世界中の人材を活用すべきです。日本のスタートアップは、米国をはじめとする海外企業と組み、グローバル化していくことが重要です。(XTCの前身である)Maitai Globalという投資家と起業家の交流会からは多数の巨大スタートアップが生まれました。コミュニティを作りグローバルに思考し、私達のようなグローバル志向の投資家と出会ってください。

リン氏:日本にはディープテックのスタートアップがたくさんあります。すでに我々は日本のディープテックの企業に投資しています。日本の大学や地方発のスタートアップはもっと世界へ発信してくことが大事です。国内に良いパートナーや顧客がいる企業も、現状に甘んじず、世界に進出すれば、より早く多くの人々に技術を届けられます。海外の投資家との出会いが海外進出への助けとなるはずです。

長坂氏:2つのポイントがあります。1つは、技術を顧客への事業価値として説明できる人が足りないこと。大学のトップレベルの研究者でも、その研究成果をどのようにビジネスに生かせるのかを説明できる人は少ないのです。2つ目は世界進出をためらわないこと。日本にいれば言葉も通じて文化も同じなので心地いいけれど、それでは成長できません。世界に出ていくことはそれほど難しくありませんから、ぜひ挑戦してください。まずは、技術を顧客への事業価値として説明できる人、特定の地域や顧客へ先導してくれる人を見つけること。そしてタイミングも大事です。これらがなくても安心してください。XTCの支援があります。

海外進出をためらうな。世界に出れば、より早く多くの人に技術を届けられる