あなたは退職金をどう使いますか? 退職金の使い道の第1位は「貯金」というデータがあります。一方で、退職金をもとに資産運用を始める人も。ですが、付け焼き刃の知識で、金融機関に勧められるがままに手を出すのは危険です。みるみるうちに資産がとんでいき最悪「老後破産」の落とし穴に落ちることも。あなたにとっての退職金の「最高の使い道」とは? 今回はそんなお話です。

「金利が6%も付くなら」……退職金2,000万円の運用を〈なじみの銀行〉に任せた60歳・元会社員が見落としていたリスクとは?

登場人物ゆめこさん(以下、ゆ)……大正時代からタイムスリップしてきた26歳女性。なぜか、現代社会にめちゃくちゃ詳しい。

・ワイ(以下、ワ)……ゆめこさんの白い飼い犬。お菓子好き。ミーハー

・有識者のおじさん(以下、お)……難しい単語や複雑な制度を解説してくれる物知りな優しいおじさん。 ・トウシ スルベイ(以下、主)……今回の主人公。60歳既婚者で、子ども独立済み。元大手商社勤め。

主:俺の名前はトウシ スルベイ、今年で60歳を迎え(2023年当時)会社を定年退職した。

俺は昭和38年1963年生まれだ。コメディアンで言うと、タウンダウンのハマちゃん、マっちゃんと同学年。俺が生まれた年は年末の風物詩、赤白(あかしろ)歌合戦が最高視聴率81.4%を記録し、国民がみんなこぞって同じ娯楽を分かち合っていた時代だ。テレビ以外の娯楽がたくさんある現在からすると、考えられないよな。

俺が子どもの頃は、日本は高度経済成長の真っ只中。俺が生まれる約10年前から始まった高度経済成長期は俺が10歳のときに終焉を迎えた。高校時代は受験戦争が過熱しており、当時は俺も猛勉強したよ。寝る間も惜しんで勉強した甲斐あって、俺は有名私立大学のケイソウ大学に見事合格した。

卒業後は丸の内にある大手商社に入社。あの頃は毎晩遅くまで仕事をしていたなぁ。入社して1年も待たずに時代はバブル期に突入、先輩も上司もみんながお金を遣いたがっていた。給料がどんどん上がるもんだから、俺も25歳で結婚した後すぐにマンションを購入。25歳でマイホームなんて、今のご時世からは考えられないよな。

ワ:バブルってどんな時代だったの?

ゆ:一般的に、1986年の12月から1991年の2月ごろまでがバブル景気といわれています。株価の上昇に不動産価格の高騰、個人資産も急激に増大したことで社会全体が今までにない好景気に浮かれていました。

主:ご存じのとおり、その後日本はバブル崩壊という大波に襲われた。「あの浮かれた時代は何だったのだろうか?」と思わずにはいられない……。うちの会社も例に漏れず不況のあおりを受けたが、耐え忍び、その後おとずれるリーマンショック、昨今の物価高・円安もなんとか身を粉にしてやってきた。

そして俺はこの度定年を迎え、楽しみにしていた退職金を手にしたのだ! 一気に大金を手にして、俺はにやにやが止まらない!

ワ:スルベイさんうれしそう! 退職金ってどのくらいもらえるの?

退職金の平均額は?

ゆ:一般的に中小企業であれば約1,000万円、大企業であれば約2,000万円ほどといわれています。「年金だけでは老後資金が2,000万円不足する」という政府の試算が世間を騒がせたのは記憶に新しいですよね。年金だけで老後の生活費をまかなうのが難しい現在、退職金をあてにしている人も多いのではないでしょうか。

主:俺は約2,000万円の退職金を手に入れてモーレツに浮かれている!

ワ:モーレツ!?

ゆ:さすが60年代生まれです!

主:退職金をもとに、俺は思い切って投資をしてみようと思う。題して、「トウシ スルベイ、初めてトウシスルベ!」大作戦だ!!

ワ:おお、そのまんま!

ゆ:確かに、定年退職後の収入が、65歳からもらえる年金だけでは「心許ない」がしばしば聞かれます。

ワ:退職金で投資を始める人は多いの?

お:退職金の運用を考えている人は決して多数派という訳ではありません。

退職金の使い道を年代別で見てみると、すべての世代で「預貯金」の割合が圧倒的に高く、全体の約50〜60%となっています。次いで「投資」「ローンの返済」に充てる人が多くなっています。

ゆ:もし退職金で投資をするとしたら、どの投資を行いますか? という質問に対しても、約46%の人が投資するつもりはないと回答しました。

ワ:みんな慎重だね。

お:「投資はしない」という回答の次に多いのが株式投資で、全体の約29%。さらにその次は投資信託で約21%という結果となりました。日本は海外の先進国に比べて「投資後進国」といわれることもあります。

ゆ:投資に消極的な方のほうが多いようです。

主:俺も退職金はとりあえずまるっと貯金するつもりだったんだが、バブル崩壊以降、ニッポンの銀行はずっと低金利だろ? それじゃあ貯金をしたってまったく増えない。貯金以外に使えるお金がないんじゃあ、生きてるだけで資産はどんどん減っていく一方だ。なんとかならないものかと悩んでいるときに、昨日、いつも利用している銀行から資産運用の話をもちかけられたんだ。

ワ:ふむふむ

ゆ:スルベイさんのような定年退職者をターゲットにした金融商品の営業をかけられることもあるでしょう。定年退職者限定の金融商品を検索してみると、銀行・信託銀行信用組合など数多くの金融機関のプランが出てきます。たとえば、退職後1〜2年の人を対象に、「スーパー定期3ヵ月7.1%」と謳っているものがあるとします。

ワ:すごいお得だね!

初心者が陥りやすい、投資の落とし穴とは?

ゆ:ただしこういった高金利の商品は注意が必要です。よくよく説明を聞くと、実はセット販売で、申し込み総額の50%以上を使って投資信託やファンドラップを購入することが条件となっていることがあります。しかも7.1%の金利は最初の3ヵ月のみで、その期間を過ぎると店頭表示金に変わってしまうのです。

ワ:ええ~思ってたのと違う

ゆ:高金利に惹かれて銀行の窓口に行き、きちんと理解していないにもかかわらず担当者の勧めるがまま契約してしまう人もいることでしょう。このようなシチュエーションで「プロのお墨付きだから問題ない」という考えをもつのは大間違いです。銀行が売るのは自分たちが儲かる商品です。決してお客様の利益が第一ではないことを念頭に置きましょう。

主:ちょ、ちょっと待ってくれ。俺はそんな高金利の商品には興味ないよ。俺も元商社マンのはしくれだ。そんな都合のいい金融商品がある訳ないことぐらい分かり切っているさ。俺はもっと手堅く、ローリスクローリターンで地道に増やそうと思っているんだ。それに年の功として言わせてもらえば、銀行の人間をはなから疑うスタンスもどうかと思うぞ? 

俺に声を掛けてくれたのは、もう何十年も付き合いのある銀行だ。お得意さんを騙そうとするわけがないじゃないか。心配いらないよ。紹介してくれた商品も、年利3〜5%と、現実味のある内容だ。これなら退職金のうち1,000万円を投資に回せば、1年で30〜50万円の運用益を得られる見込みだ。貯金してタンスに眠らせておくよりもずっといい。これが賢い選択だよ!

ワ:たった1年でそんなに増えるの? これならスルベイさんの言う通り、銀行おすすめの金融商品を購入するのがいい気がするね。

ゆ:ですが、スルベイさん。セットで購入する商品の内容や運用にかかる手数料をしっかり理解していますか?

主:え? 手数料?

お:実際に大手銀行が販売している投資信託を例にとると、購入時に約3%を超える手数料がかかります。たとえば、1,000万円分の投資信託を購入すれば35万円以上の手数料負担が発生するということです。

ゆ:投資信託では、複数の投資家から集めた資金を元手に、資産運用のプロ(運用会社)が投資を代行します。運用には各種手数料がかかるほか、利益に応じて所定の税金がかかります。

お:手数料には次のようなものがあります。

①販売手数料…購入するたびにかかる手数料。なかには、手数料のかからない商品もある

②信託財産留保額換金…解約したときに発生する手数料。なかには、徴収しないところもある

③信託報酬個人投資家に代わって投資・運用を担う運用会社に支払われる手数料

ゆ:いかに手数料や税金を安く抑えるかが重要なポイントになってきますね。

ワ:えっ……それじゃあ実際の運用益は、高額の手数料を引いた残り?

主:それじゃあ運用益が30万円だった場合、手数料は35万円で……1年目はむしろ損する計算じゃないか!

ゆ:もちろんそういう場合もあるでしょう。それに、投資信託は市況によって価格が変動しますから、買付時の資産価格を大きく下回るリスクを孕んでいることも忘れてはいけません。

また、セットで購入する商品として、投資信託ではなく外貨定期預金を選択した場合、円貨と外貨を交換する際に為替手数料が発生するうえ、為替変動リスクもあります。外貨は投資初心者が手を出すにはかなり難しいものだといえます。

主:む、むむむ……まさかそんな落とし穴があるなんて。俺は心配になって、自分が資産運用を任せている銀行へ相談に向かった。

ワ:スルベイさん急いで~。

主:「はぁはぁ」(スルべイ、走る)

スルべイが最終的にくだした決断とは!?

主:俺は話がこじれないよう、「落ち着いて話し合おう」と自分に言い聞かせ、担当者にまずは「リスクのない投資など存在しないことは理解している」と伝えた。担当者は「銀行としても我々購入者が損失を可能な限り出さないように運用していること」や、投資先を分散するなどのリスク軽減策をしていることなど丁寧に説明してもらった。素人の私がしつこく質問をしても、粘り強く教えてくれる姿勢に安心感がもてた。

どうするべきか迷ったが、俺には退職金の他に2,000万円の貯金がある。だったら、貯金が減り続けることにビクビクするよりも、多少のリスクを取ってでも投資にいくらかを回してもよさそうだと思えるようになった。

ワ:おお! スルベイさん資産運用を頑張ることにしたんだね!

主:ああ。それに、俺もただ銀行に任せておくのではなく、自分でも投資について色々と学ぶことにしたんだ。幸い、今はネットを使えば投資のリスクを分かりやすく解説してる動画がたくさんあって、どういった部分を見て投資先を選べばいいのかを手軽に学ぶことができる。俺の不安の原因はバブルの時の株価の急落だ。ネットを通じて現在の経済動向について、アンテナを張ることを日々心がけている。

ワ:初めて資産運用を始める人は、自分の資産や年金に見合った投資額を見極めるのが大事なんだね!

ゆ:スルベイさんは貯蓄額、退職金の額と照らし合わせて、投資計画を立てるのが重要ですね。「素人だから」「初めてだから」と安易に人任せにせず、自分なりに情報に触れて知見を深め、疑問や不安を解消していくというのはとても大切なことです!

ゆめこさんの部屋>

ワ:ヘックション、冬が近づいてきて寒いよう。

ゆ:あら。犬の皮はかつてモンゴル人の防寒に使われていたっていうのに、昨今の小型犬は寒さに弱いのね。

ワ:ワイ、モンゴル人をあたためてたの?

ゆ:そうよ。「犬の皮の耐久性はタヌキの4倍」ともいわれているのよ

ワ:ワイ、タヌキさんより4倍も強かったんだ!

ゆ:ヘックション。私も寒くなってきたわ。じ~。

ワ:きゃ~。絶対やめてね!絶対やめてね!

ゆ:冗談です。

ワ:ホッ。犬の皮1枚繋がりました。

(※写真はイメージです/PIXTA)