コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は根田啓史さんの漫画「プロ奢ラレヤー ~働かずに生きるコツ~」を紹介する。

【漫画】漫画家・萬田が食事を共にしたのは"プロ奢ラレヤー"だった…取材をもとにした創作漫画に「もの凄く感動しました…ありがとうございます」の声

作者である根田さんが12月14日にX(旧Twitter)に本作を投稿したところ、1.7万件を超える「いいね」が寄せられた。本記事では根田啓史さん(萬田ひろしさん)に、作品のこだわりなどについてインタビューをおこなった。

■漫画家の萬田が暮らすのは”色々な悩みを抱えた人が集まるシェアハウス”だった…

実在する人物・プロ奢ラレヤーさんはX(旧Twitter)のDMなどで食事を奢りたい人から連絡を受け、食事を共にしながら話を聞くなどの生活を続けている。作者の根田さん自身もプロ奢ラレヤーさんに実際に奢った経験があり、「漫画家・萬田ひろし」として彼と彼をとりまく人たちを取材するとともに、フィクションを交えながら漫画に描いた。

萬田が暮らしているのは、悩みを抱えた人たちが集まるシェアハウス。ある日の深夜、シェアハウスで共に暮らす女性・エリカがキッチンで大量の食べ物を必死で食べている姿を見かける。萬田はエリカがシェアハウスに来た事情を知らないが、夜中に大量の食べ物を食べていることに違和感を覚えた。

エリカは中学時代、好きだった男の子に「デブ」と言われたことがある。エリカはそれ以来、食べることと太ることに恐怖心を覚えるようになってしまった。だがお腹が空くため、大量に食べては戻すという食生活になってしまったのだ。エリカの食生活はさらにエスカレートしていき、スーパーで食べ物を万引きしてまで食べるようになる。そしてある日、エリカは何度目かの万引きが見つかって捕まってしまったのだ。

そして出所後、エリカはプロ奢ラレヤーさんと待ち合わせをする。エリカは彼に会うやいなや「私のこと弟子にしてくださいっ!!」と頭を下げた。弟子入りは断られるが、エリカはプロ奢ラレヤーさんと食事を共にして逮捕された経緯を話す。エリカは自身の食生活が変わらないことを自覚しており、かといって命を絶つ勇気もない。「残り何十年もこの状態が続くのは長すぎる」と苦しい心境を語った。

するとプロ奢ラレヤーさんさんは、「プロの奢られ屋になりたいなら勝手になればいい」「似たことをしている人はたくさんいるが、すぐに辞めてしまう」「女性でプロの奢られ屋をやりきったら凄いと思う」と持論を展開。そして、出所したばかりで住むところがないというエリカに紹介したのが、萬田たちが住むシェアハウスだったのだ。

作者である根田啓史さんが本作を投稿したX(旧Twitter)には「すごく勉強になりました」「なんかものすごく刺さった」「もの凄く感動しました…ありがとうございます」などのコメントが寄せられている。

■「彼の周りにいるとても面白い人たちとも沢山つながりが生まれたのが、自分にとっては大きな財産」作者・根田啓史さんにインタビュー

――「プロ奢ラレヤー ~働かずに生きるコツ~」を漫画にしたきっかけや理由があればお教えください。

実はこの漫画は昔描いた漫画のリブート作品なんです。5年以上前だと思うのですが、自分の商業誌での活動がうまくいかなくて、個人発信での活動にチャレンジしようとしていました。その頃よくTwitterでプロ奢ラレヤーのツイートを読んでいて。色んな境遇の人の人生をプロ奢の視点で切り取った内容で、それは読み物として興味深いだけでなく、個人的にハッとさせられるものが多かったので、会ってみたら何か変わるかも…と思って、奢りの打診をしました。結構2分くらいで返信があった記憶があります。「おけ」みたいな。自分は1500字くらい、自分と会う意味みたいなのをしたためて送ったのに温度差(笑)

そこで話したことがどれも興味深くて。だから奢りの中で話した内容や起きたことを漫画にしてTwitterに投稿したんですよね。それをプロ奢も読んでくれて、軽くバズったのが始まりです。会ってみたら何か変わりましたね(笑)

そこから何度か奢らせてもらったり、Twitter上でたまにやり取りさせてもらう仲になったのですが、二年ほど前に、商業誌でプロ奢ラレヤーを漫画にするという企画が持ち上がったらしく、そのことをプロ奢ラレヤーがツイートしてたんですよね。で、根田さんとかやってくんないかなぁ~的なツイート見かけて、ぜひやりたいですってTwitter上で返信したのが今回の漫画のきっかけです。

僕はプロ奢が好きで、かつ彼の活動の面白さや奥深さをある程度理解していると自負してたので、「これは自分にしかできん仕事だ!!」みたいな気持ちがありました。ただ、個人的には、単純にプロ奢の体験した変な人たちの奢りエピソードの短編集みたいなものをイメージしてたのですが、企画した編集やプロデューサーから、ドラマ化がゴールで、きちんとテーマや主人公を立てた漫画にしたいと聞かされたので、だったらきちんと物語の目標みたいなの決めて、出てくるキャラも有象無象ではなく、何度も絡まりあいながら変化していく人物像にしなきゃなと思って、萬田のキャラクターやシェアハウスのメンバーを配置していきました。ドラマ化したらどんなキャスティングでどんな脚本構成になるかとか、ドラマ化無理でも映画になったときは…とか、いろいろ考えながら作ったので、それなりに使いやすい脚本になってるはずです…いつでもドラマ化・映画化募集中です!(笑)

――プロ奢ラレヤーさんを取材されるあたって、印象に残ったこと(大変だった・楽しかったなど)があればお教えください。

プロ奢は他人に制限をかけないので、大変だったことは特にないです。漫画のチェックとかもいつも「おす」みたいなので終わりなので。自分を漫画にするって、色んな側面を色んな解釈で描かれるので、結構居心地悪いというか、色々言いたくなることがあると思うんですけど、プロ奢は本当にすべて許容してくれたので、普通にずっと楽しかったです。ネットではめちゃくちゃいい加減な雰囲気出してますけど、すごいマメで、時間もわりと守ってくれます(遅刻したり、すっぽかしたりも勿論しますが(笑))。

また、プロ奢を追いかけている中で、彼の周りにいるとても面白い人たちとも沢山つながりが生まれたのが、自分にとっては大きな財産になりました。プロ奢はめんどくさい仕事があるとすぐ誰かに任せてしまうので、自分が質問したこととかに対して「この人に聞いて」みたいに言ってくるんですよね、いやオメーのこと聞いてんのになんでだよって感じですが(笑)。でも、その相手が大体何かしらのプロフェッショナルだったりするんですよ…やり取りしてる過程で、え、こっちはこっちでめちゃくちゃお話聞いてみたい…!!!みたいな。描き残したこと結構あるのですが(連載は終了してしまったので)、本当にたくさんの情報や繋がりを得ることができて、自分にとっては貴重な体験でした。

――本作を描くうえでこだわった点や、「ここを見てほしい」というポイントがあればお教えください。

一番はテーマですかね…。情報が溢れ、価値観がバラバラになっている現代社会において、「自分がどう生きるか?」みたいなことを、僕の感性とプロ奢ラレヤーという切り口を通して考える機会になればなぁと思っています。働かずに生きるコツとかちょっととがった言い方にはなってますが…。

自分から見ると、プロ奢ラレヤーってめちゃくちゃ仕事してるし、仕事できるんですよね(笑)。彼のnoteはnoteの中でもトップクラスに充実してると思いますし、奢られ体験もフィールドワークと考えたらこなしてる数マジでエグいので。自分からしたら、社会学者でありジャーナリストでもあるんです。単純にごはん何度も食べるのも自分にとっては重労働ですし。見てて思うのですが、胃袋と肝臓が強靭すぎます。それなのにワードとして「奢られて生きている」と掲げているだけで、乞食だと言われたり、暮らしぶりを羨ましがられたり、労働を馬鹿にしているみたいな言い方されたりしていて。「働いている」「働いていない」の違いって何なのか、突き詰めると良く分かんないんですよね。

自分自身も、漫画家として10年以上活動していますけど、「働いている」なんてほとんど思ったことないですし…。そういう世の中に対する様々な見方考え方みたいなものが、漫画を通して広がったり柔らかくなったりしたらいいなと思っています。

――本作の中で特に印象に残っているシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。

プロ奢のシェアハウスに住んでいる天才プログラマーのコウタ君と政治家のお父さんとのやり取りのシーンですかね…。これは完全に自分の趣味なのですが、父子モノが好きなので。。。自分の漫画でこういうシーンが描けてとても嬉しかったです。続きをめっちゃ描きたかった…。

――プロ奢ラレヤーさんと実際にお話をされて、根田さんから見た「プロ奢ラレヤーさんの魅力」とはどんなところだと思われますか?

個人的には「面倒見のよさ」と「効率のよさ」です。これ言うと営業妨害になるのかもしれないですが、プロ奢は困ってる人をめちゃくちゃ助けてるんですよね。実際「プロ奢から金借りた」っていう人何人か会ったことありますし(笑)。

勿論、誰でも手を差し伸べるわけではなくて、彼なりの基準があると思うんですけど、そういう基準を超えたことに関しては、様々な方法で支援している印象です。で、その効率がめちゃくちゃ良いっていうのが、本当にすごいところだなと思います。突然送ってくる一言のメールだったり、人の紹介だったり、仕事の斡旋だったり…、その相手が前に進むための急所みたいなのが多分見えているのだと思うのですが、あとは本人の力で回り始めるための一押しをしてくれるんですよね。それは漫画でも描いていることなんですけど。

僕も連載中、何度かLINEとかDM来たことがあります。本当に一言とかです(笑)。でもそれが何のシグナルか考えているうちに、悩んでいたことがほどけていったりして…。思わせぶりなわけではなく、ちゃんと彼なりの戦略があってやっている最低限のムーブなんだと思います。実際、結果として彼は沢山の価値あるものに囲まれていて、所有権は全然彼のものではないのに、何不自由なくそれらを享受できるような環境を築きあげているように見えますし。

――今後の展望や目標をお教えください。

読み物としてある程度まとまった漫画にはなったと思うので、ぜひともドラマや映画になってほしいです(笑)。テーマ的にも、現代に刺さるものだと思いますし。また、プロ奢の活動は今後も続いていくと思うので、変わらずぬるっと見守っていきたいと思っています。自分自身も作家として、もう一皮くらいむけたいなと思います…。

――作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします。

この漫画は、「なんで勉強しなきゃいけないの?」とか、「なんで働かなきゃいけない?」とか悩んでいる人に読んでみてほしいです。嫌ならやめればいいじゃんみたいな無責任なきれいごとだけではなくて、実際に自分を見つめなおすことで荷下ろししつつ、見方や考え方を変えていくことで、自分らしい生き方を見つけるきっかけになる…かもしれません。少なくとも僕はそうなってくれることを願ってこの作品を描きました。

プロ奢ラレヤーさんをとりまく人間模様/画像提供/根田啓史さん