和歌山県紀の川市国道24号線沿いに喫茶『サンスイ』はある。外観は年季の入ったホテルのようにも見える。“豪華庭園”と書かれたド派手な看板がなければ、そこにあるのが喫茶店だとも気付かなかっただろう。

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白亜の館へと近づき、扉を開ける。そこで世界観は一変する。

見上げるような高い天井、迎賓館のごとく重厚な調度、大きなシャンデリアまでぶら下がっている。それでいて、大窓の向こうは純日本式だ。そびえる巨石から滝が流れる山水の庭。池では立派な錦鯉が優雅に泳いでいる。和洋の景色の狭間でソファーに身を沈めれば、このカオスな空間に情報処理が追い付かない。

ここはいずこ?、と。

かつては1kmの間に4、5軒は喫茶店があったというこの界隈は、“喫茶銀座”と呼ばれていた。国道沿いにひしめく店が、互いに趣向を競っていたのだそう。このような喫茶店が他にも多数存在したのか。きっとここまで振り切っているのはこの『サンスイ』だけに違いない。

メニューは軽食に定食、和食、洋食、パフェまで100種類近くに及ぶ。今では世間的にも馴染みとなったレディースランチだが、当時はそのような発想はなかった。「うちが元祖かも」とオーナーが笑うので、頼んでみた。

手ごねハンバーグやエビフライオムライスの中身はケチャップライスかドライカレーかを選ぶことができる。手作り感溢れる一皿は、想像以上に美味しかった。書きながら今も、思い出している。

令和の今では「初デートにファミレスはありかなしか」なんてディベートがSNSでも度々繰り広げられているが、『サンスイ』なら確実に“あり”だろう。事実、和歌山では見合いの場となることもしばしば。今も縁結びの場として役目を果たしている。

『カフェ&レスト サンスイ』

住所/和歌山県紀の川市藤崎341

※こちらの記事は、関西の食のwebマガジン「あまから手帖Online」がお届けしています。

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1970年代、和歌山の大動脈だった国道沿いに、今も現れる昭和の遺産というべき一軒。