SUPER BEAVER、sumika、マカロニえんぴつらが所属するレーベル・マネージメント、murffin discs主催『murffin AUDITION 2021-2022』でグランプリを受賞したのち、デジタルシングルをリリースしてきたSPRINGMANが、初の全国流通盤となる1stミニアルバム『SCREW』を4月10日(水)にリリースした。

SPRINGMANは元々、3ピース・バンドとしてスタートしたが、バンド・サウンドにこだわらない曲作りの可能性を追求したいということから、現在はサポート・メンバーを迎え、全曲の作詞・作曲を手掛ける荒川大輔(Vo,.Gt)のソロプロジェクトとして活動中。テレビドラマ『3年VR組』の主題歌として書き下ろしたパワー・ポップ・ナンバー「カポック」を含む『SCREW』には、荒川がSPRINGMANを始めるキッカケとなったバラードの「勤労」から、ヨコノリのバンド・サウンドが新境地を印象づける「エスケープコール」まで新旧の全6曲を収録。SPRINGMANとは何者なのかということを、20分という尺に凝縮しながら端的に伝えるものになっている。

これまでの約5年の活動の集大成と言うこともできると思うが、「リリースするまでに時間が掛かりすぎた」と語る荒川は、ここからぶっとばしていくぜという気持ちなのだろう。「ばねにする」という慣用句があるが、自分が影響を受けてきたロックンロールのかっこよさを受け継ぎながら、どれだけ新しいものを作れるかというライフワークに取り組むSPRINGMANの、ここからの巻き返し(ばねの特性であるエネルギーの蓄積と放出)が楽しみだ。

ーー昨年3月に『TALTOナイト2023』でSPRINGMANのライブを見た時から興味深いと思っていたのですが、SPRINGMANは4人編成のバンドにキーボードがいるじゃないですか。普通に考えたら、リード・ギターを入れるんじゃないかと思うのですが、なぜキーボードなのでしょうか?

理由はたくさんあるんですけど、まず自分が大好きな奥田民生さんがキーボードを含む4人編成でライブをしていることが大きくて。それからもう1つ、4ピースでギター2人って編成はありがちなので、キーボードを入れた4人でやりたいと思いました。

ーーただ、奥田民生さんのキーボードの使い方は、ハモンドオルガンを含め、もっと60年代とか、70年代とかの感じなのかなと。だけどSPRINGMANのキーボードの音色はアナログシンセっぽいところがおもしろくて、それは荒川さんの趣味と言うか、荒川さんがキーボードの方に、そういう音色でというふうにお願いしているんですか? 

そうです。音色は基本、自分がオーダーしているんですが、自分の趣味というわけではなくて、僕が奥田民生さんのスタイルをそのままやっても、たくさんの人から支持されるとは思ってなくて。そういうところは模索しながら、まだ答えは見つかってはいないんですけど、どうやったら自分が好きなロックンロールのかっこよさを継承しつつ、新しいものとして、自分よりも若い人達に届けることができるかということは、常に考えていて。現状、その答えの1つとして、ああいう音色になっています。

ーーなるほど。奥田民生さんの名前が出ましたが、6歳の時に聴いた奥田さんの「プライマル」という曲が荒川さんのルーツだそうですね。奥田さん以外では、どんなアーティストやバンドから影響を受けていますか? また、影響云々にかかわらず、これまでどんなアーティストやバンドを聴いてきたのでしょうか?

みなさんがどんなふうに音楽を聴き始めたり、音楽をもっと知りたいと思ったりしたのかはわからないですけど、僕の場合、子供の頃に両親の車の中で流れているものが音楽の全てだったので、それが音楽の好みの土台にはなっていると思います。母の車だと、民生さん、その当時はバンド名を知らずに聴いていたんですけど、グリーン・デイとか、Mr. Bigとか。母から聞いた話によると、斉藤和義さんも聴いていたそうです。一方、父の車では、ヴァン・ヘイレンの『ライヴ:ライト・ヒア、ライト・ナウ』のDVDがいつも流れていました。子供の頃って、とりあえずそれを見たら子供がおとなしなるみたいなDVDがあるじゃないですか。僕の場合は、それがヴァン・ヘイレンだったんです。その後、中学生になってから、自分でも音楽を見つけるようになるんですけど、大元の音の好き嫌いは、その頃にできたのかなと思っています。

ーーギターを始めたのはいつでしたか?

小学4年生の時です。僕は中学2年生まで、ずっと野球をやっていたんですけど、小学4年生のお昼休みにですね、多目的教室で、ある先生がギターを持ってきて、ゆずの「夏色」を弾いてくれたんです。それを見て、自分でも弾いてみたいと思って、家に父が高校生の頃、買ってもらったギターがあったので、そのギターで練習を始めました。

ーーアコースティック・ギターですか?

そうです。ただ、独学ですし、誰かから「弾けるようになりなさい」と言われたわけでもなかったので、弾いたり弾かなかったりを繰り返していたんですけど、弾けるようになってからは楽しかったですね。中学1年生の頃にはコードチェンジしながら弾けるようにはなっていました。

ーーその後、エレキも弾くようになったんですね?

はい。中学2年生の時に買ってもらいました。でも、アコギとやることは変わらなかったです。ギター・ソロを弾きたいとは思わなくて、たぶん、その頃には弾きながら歌いたいと思っていました。

ーーその流れで作詞・作曲を始め、バンドも始めた、と?

そうです。

ーーバンドを組んだのは何歳の時だったのですか?

中学2年生の時ですね。幼馴染たちとバンドをやろうと言って、集まりましたけど、みんな、そんなにモチベーションはなくて、このメンバーでやることではないとすぐに諦めたことを憶えています。そこから、メンバーが見つからないまま、弾き語りをやっていたら、高校生になったとき、バンド活動している先輩が現れだして、学校に軽音楽部はなかったんですけど、高校の文化祭だけで演奏するバンドを組んで、初めて人前で演奏しました。

ーーその時はコピー・バンドだったんですか?

そうでした。

ーーオリジナル曲を演奏するバンドを始めたのはいつだったのですか?

オリジナル曲を演奏したのは、SPRINGMANが初めてで。

ーーそれが2018年。そのバンドがその後、ソロプロジェクトとなり、2022年4月、『murffin AUDITION 2021-2022』でグランプリを受賞。そして、今回、初の全国流通盤となる1stミニアルバム『SCREW』をリリースするわけなのですが、現在の気持ちは?

うれしいという気持ちでいっぱいです……と、本当は言わなきゃいけないんだろうと思うのですが、正直、『SCREW』をリリースするまで時間が掛かりすぎてしまったという反省と言うか、いえ、自分が経験してきたことはすべてその後に活かすつもりなので、後悔はないんですけど……。次はもっとこうしなければいけないということも含め、正直、次のことばっかり考えていて。それと同時に、ずっとリリースを待っていてくれた方もいますし、これをキッカケにSPRINGMANを知ってくれるという方もいると思うので、こんなのじゃ満足できないんですっていう気持ちはあります。だけど、お待たせしましたという気持ちと、はじめましてという気持ちを忘れずに、みんなのSPRINGMANになりたいなと思っています。

ーー時間が掛かりすぎてしまったというのは?

バンド活動を始めたものの、僕がそれまでがんばってきたものと言ったら、(野球)部活動や受験勉強ぐらい。そこからのバンド活動だったので、最初は本当に手探りだったんです。マニュアルなんてなかったですしね。昔からのバンド仲間と話すと、みんなそれなりに効率のいい方法を見つけて、うまく立ち回っていたようなんですけど、SPRINGMANは遠回りしてしまっていました。本来なら、音源を形にすることが先決だったと思うんですけど、ライブに誘われると、断ることができずに誘われるがまま出演して。その赤字を補うためにアルバイトをして、音源を作るなんて無理無理無理という感じでライブをして、バイトをして、ライブをして……。とりあえずできることをやってきたわけですけど、できることというのがつまりは遠回りだったっていう。そのお陰で、絶対に譲ってはいけないことというのがわかった上で、今は動けていると思っています。目の前においしそうなものがあって、涎が出たとしても、食べてはいけないものがあることは知っているつもりです。

ーー譲ってはいけないことというのは、自分が本当に作りたい音楽しか作らない、やりたいことしかやらないということですか?

それも答えだと思うんですけど、今まで応援してきてくれた人を裏切るようなことはしてはいけない、自分がされて嫌なことは、たとえ自分を守るためでもしてはいけないっていう理想を忘れないようにするというのは大事にしたいところかもしれないです。うまく立ち回ったら、うまく生きられることももうわかり始めていますけど、それでは理想を掲げて、音楽をやっている意味がないので、現状維持じゃなくて、何か変えていこうとしないと、とは思っています。

ーー『SCREW』には、SPRINGMANとして初めて作ったという「勤労」やライブの定番曲だという「右にならえ」を含め、新旧の全6曲が収録されていますが、その6曲はどんなふうに決めたのでしょうか?

正直、これが今の全力だからこうするしかなかったというところはあるんですけど、それが弱点になるとは思っていないです。

ーーその6曲はそれぞれに違う魅力を持っていますが、意識的に曲調をばらけさせて、SPRINGMANは、これだけ幅広い曲を書けるんだということをアピールする狙いもあったんですか?

いえ、僕自身、お酒をマリアージュするように音楽も時間と場所と、その時々の自分の心情に合わせて、今はこれが聴きたいというふうに楽しんでいるので、僕の曲が誰かの耳に入る時も同じように、いろいろなシチュエーションで寄り添えたらいいなと思いながら作るので、それが結果、曲のいろいろなバリエーションに繋がっていると思っています。

ーー今回の6曲はどれも赤裸々な心情を歌っていると思うのですが、 思ったことを思ったまま歌詞にすることは少ないそうですね?

そうですね。

ーーでは、曲はどんなふうに作るのでしょうか?

曲を作る段階では、どんなことを歌うのかは決めてなくて。さっき言ったみたいに、こういう場面で聴きたくなるような自分の曲が欲しいってまず思うわけなんですけど、それを作ってメロディーをつけていると、同時に言葉が少しずつ出てきて、それに引っ張られるようにストーリーが曲から見えてくるんです。それに近い思い出を元にパズルみたいに歌詞にしていくっていうのが自分の曲作りの流れではあります。

ーーストーリーとおっしゃったように荒川さんが書く歌詞は情景が浮かぶものが多いのですが、感情を抽象的に表現するのではなく、物語として聴かせるということは、歌詞を書く上で意識しているんですか?

そうですね。たとえば、ただ疲れただけじゃなくて、何があったのかとか、だからどうしたいと思っているのかとかまで書かないと満足できる歌詞にはならないですね。

ーー歌詞の中のストーリーは実体験に限らず、フィクションの場合もあるのですか?

わかりやすくするために話を組み立てたり、表現を変えたりはしますけど、大元は自分の実体験も含めて自分の目で見たり、耳で聞いたりしたものがメインになっています。

ーー曲だけ聴いていると、なんだか悩みの多い人生なのかなと思ったり。

でも、考えるのは好きです。いえ、好きなわけじゃないですけど、それをしないと、何のために生きているかわからなくなりそうで。

ーー曲作りの方法をもうちょっと聞かせてください。曲を作ってからアレンジを考えると思うのですが、曲を作っている時には、なんとなくどんなアレンジにしようか考えているのですか?

はい、考えています。ただ、メンバーにデモを渡す時は、それぞれの個性を生かしてほしいと伝えています。というのは、僕だけではできなかったと言えるものにしたいんです。メンバーをレコーディングという場所に迎え入れてやる以上は、僕だけの力では出せない人間臭さをもっと出したいし、それはライブに来てくれた人にも伝わると信じているし。だから、デモ通りに演奏してほしいとは全然思っていないです。

ーーなるほど。『SCREW』の2曲目「心境」は終盤、ドラムが倍テンになるのですが、あのアレンジは荒川さんが曲を作った時にはもう、そうしようと決めていたのですか?

この曲はですね、バンド活動を通して、友達ができはじめた時にメロコアと言われるジャンルのバンドをやってる友達がけっこういて。彼らと対バンする中で自分が初期衝動的に表現しているものとはちょっと違うんですけど、メロコアらしさを自分なりに取り入れてみたんです。メロコアを愛している人達ってドラムが倍テンになると、盛り上がるところがあって、僕もやってみたいという気持ちからやってみました。

ーー「心境」のピアノはブギウギ風ですが、それももちろん荒川さんのアイデアですよね?

僕のアイデアと言うか、ロックンロールの伝統なので、こういう曲にはこういうピアノだろうと思いました。

ーーそういうオールディーズなロックンロールをやりたかったわけですね? そして、そこにメロコアの要素も加えてみた、と。

そうですね。

ーーもう1つ、おもしろいと思ったのが、6曲目の「勤労」のギター・ソロの前にベース・ソロが入っているじゃないですか。ベース・ソロを入れるという発想はどんなところから思いついたものなのでしょうか?

「勤労」はSPRINGMANを結成するキッカケになった曲なんです。僕が今、大切にしているギターがあるんですけど。

ーーはい。お茶の水の楽器店で買ったレスポールですね。

そうです。「勤労」はそれを買った帰り道、頭に流れてきてできた曲で、その曲をやりたいというところからSPRINGMANが始まったんですけど、最初は3ピース・バンドとしての活動だったので、この曲にベース・ソロがあって、ギター・ソロがあってという構成になっているのは、ギター、ベース、ドラムという3つの楽器でできることをやりたいっていう気持ちからだったんだろうと振り返ると思います。この曲を作ったとき、3ピースのサウンドがかっこいいと考えていたので、今回の音源もいろいろ付け加えたりせず3ピースのサウンドでまとめました。

ーーそういうことだったんですね。ところで、今回の6曲の中で1番新しい曲は、どれなのでしょうか?

「エスケープコール」です。

ーー8ビートの曲が多い中、この曲の16ビートの横ノリは新境地なのでは?

そういう発想から作ったわけではないんです。曲を作る時は大体そうなんですけど、まずメロディーが浮かんで、リズムはそのメロディーに合わせて決まるんです。

ーー結果として、リズムの幅が広がったとか、新しい曲調がレパートリーに加わったとか、そんなところもあるんじゃないでしょうか?

僕の曲としては、16のシャッフルは確かに新登場ではあるんですけど、世の中的に見ると、こういう曲はたくさんあるので、むしろ懐かしい気持ちがあります。たぶん僕が聴いてきたり、好きだったりする何かから影響を受けてるでしょうからね。

ーー「エスケープコール」の根底にある<僕は今日逃げたくなる>という感情はどんなところから出てきたものなのでしょうか?

「早く帰りたい」とか、「寝ていたい」とか、「やめたい」とか、普段、いろいろな人の口から聞く言葉なので、その気持ちが大きい小さい、本気か、本気じゃないかにかかわらず、逃げたいという気持ちは誰もが当たり前に持っているものなんじゃないでしょうか。同時に「逃げたい」と口にすることはタブーであるという感覚も、みんな同じように持っている。だから、「逃げたい」と言わないために、みんなそれをすることを選んでいるんだと思うんですけど、それをするか、逃げるか、どちらにしても決断する時の1歩を踏み出す力という意味では逃げるほうが楽だとは思っていないんです。逃げることが冷静な判断であることもあるはず。ただ、それが正しい判断だったとしても逃げると思ったことに後ろめたさはある。そんな時、<僕は今日逃げたくなる>と流暢に歌っていたら、みんな、気づかないふりしている感情に気づいて、また違った決断ができたり、いい判断ができたりしないかなっていうお節介な気持ちはありますね。それ、言っちゃうんだっていう。でも、自分が言えなかったことを誰かが言ってくれたら、なんか、すっとできたっていうことは僕もあるんですよ。

ーー5曲目の「雨降り休日」は、他のバンド・サウンドの曲とは違って、フォーク調のアコースティックなアレンジがユニークです。

元々、こういうイメージがあったんですけど、なかなか形にできなくて、今回こそ、自分の理想をちゃんと形にしたいという強い思いでレコーディングに臨みました。

ーー使っている楽器はエレキギターアコギと。

あとはウクレレドラムに加えてコンガボンゴも使ってます。それとカズーも吹いています。

ーーいわゆるバンド・サウンドじゃないところがアクセントになっているという意味で聴きどころの1つではないかと思いました。さて、次のことばかり考えているとさっきもおっしゃっていたのですが、これからどんなことをやりたいのかも含め、これからの目標を聞かせてください。

これまで勉強をがんばったり、野球をがんばったり、アルバイトをがんばったり、受験したり、音楽したり、いろんなことやってきましたけど、みんなから感謝されたり、ずっと続けてこられたのは音楽だけ。だから、音楽に対して、自分の時間をできるだけたくさん使えるようになりたいというのがまずあります。その上で、曲作り、歌詞作り、ライブ作り、演奏がもっとうまくなるように精進しつづけていきたいと思っています。やっぱり人に聴かれてこそ音楽なので。

「SPRINGMAN 1st mini album 『SCREW』release tour」

SPRINGMAN 1st mini album 『SCREW』release tour」

ーー『SCREW』のリリースツアーが6月8日(土)から始まりますが、最後にツアーの意気込みを聞かせてください。

今回は、東京、名古屋、大阪に加えて、自分の地元である栃木県宇都宮でツアー初日を切るということもあって、いつも以上に今日この瞬間が自分の集大成であると思っています。同時に僕がステージに立つからにはということを考えて、ライブをします。『SCREW』で初めて聴いてくださる方にも、ずっと待っていてくれた方にも楽しんでもらえるように、ちゃんと地に足を着けた曲も、どこまで行ってしまうんだろうかって勢いの曲もどちらもしっかりと表現できるツアーにしたいと思っています。

取材・文=山口智男 撮影=大橋祐希