第77回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出された、ポルトガルの鬼才ミゲルゴメス監督の新作「グランド・ツアー」が、京都、長野、大阪などの日本各地で撮影されたことが発表された。本作は、ポルトガルイタリアのスタジオ撮影に加えて、日本を含めたアジア7カ国で撮影され、日本側のプロデューサーとして、「コンプリシティ 優しい共犯」(18)、「大いなる不在」(今夏公開)の監督、近浦啓が参加している。このほど、京都・鴨川での撮影風景の写真が公開された。

2012年に「熱波」で第62回ベルリン国際映画祭の国際映画批評家連盟賞とアルフレッド・バウアー賞を受賞、2015年には6時間21分の大作「アラビアン・ナイト」を発表したゴメス監督の最新作は、ポルトガル=イタリア=フランス=ドイツ=日本=中国の国際共同製作。撮影は「ブンミおじさんの森(2010)」「君の名前で僕を呼んで(2017)」など国際的に評価の高い作品を多く手掛けてきたタイ出身のサヨムプー・ムックディプロームが担当。

撮影は2020年初頭に始まり、ミャンマーシンガポール、タイ、ベトナムフィリピンの後、2020年2月上旬に京都、長野、大阪などの日本各地で撮影された。日本撮影後はフェリーで中国・上海に渡航し撮影を行う予定だったが、新型コロナウィルスの蔓延により撮影は延期。ロックダウン期を経て、中国シーンは2022年にヨーロッパと中国を遠隔でつなぎ、ミゲルゴメス監督がポルトガルからモニター越しに演出して撮影を敢行。2023年2月~3月にはリスボン(ポルトガル)とローマ(イタリア)の撮影スタジオでアジア各国のロケ地を再現して撮影し、制作期間4年をかけて完成をむかえ、カンヌ国際映画祭コンペティションで世界初上映される。

なお、第48回トロント国際映画祭、第71回サン・セバスティアン国際映画祭コンペティション部門出品作で、サン・セバスティアン国際映画祭では、最優秀俳優賞(藤竜也)、アテネオ・ギプスコアノ賞のダブル受賞を果たした近浦啓監督作「大いなる不在」は今夏公開予定。

▼近浦啓コメント

2020年の1月末、東南アジアでの撮影を終えたミゲルゴメス監督のチームを迎え、日本各地での撮影を満足いくものにするために奔走したことが懐かしく感じます。撮影では、ミゲルゴメス監督と名カメラマンのサヨムプー・ムックディプロームの即興的なコラボレーションを間近で見て、事物を観察しその光をレンズを通してフィルムに焼き付ける所作に強く感銘を受けました。そこで感じたことは、その後に撮影した僕自身の作品に大きな影響を与えてくれました。

日本での撮影初期に「感染症が広がっていてこの後上海に行けなくなるかも?」というようなことをメンバーと冗談程度に雑談をしていましたが、日を追うたびにその冗談の「しゃれにならなさ」がじわじわと増してきました。最終日前夜に、大阪から上海へフェリーで送り出すことなくチームをそのままポルトガルに帰すことが決まった時は、背筋が凍る思いと共にその後の世界の変容を予感しました。あれから4年の歳月をかけ、様々な困難を乗り越えてこの作品を作り上げたミゲルゴメス監督の創作への情熱と理念には作家として多くの学ぶべきことがありました。映画祭での上映を経て、日本の劇場にも届けることができるように尽力したいと思っています。

「グランド・ツアー」場面写真 (C)2024 - Uma Pedra No Sapato - Vivo film - Cinema Defacto - Shellac Sud