カラパイアの元の記事はこちらからご覧ください

 動物の革を使ったレザーは、財布や衣類、靴など様々な製品に使用されているが、最近では合成素材で作られたフェイクレザーも登場している。だがフェイクレザーも生分解性がないため、環境にやさしいとは言えない。

 そこで新たに開発されたのは、遺伝子操作した細菌(バクテリア)によって作られるバイオ代替レザーだ。

 環境に配慮されているのはもちろん、丈夫でしなやかだ。さらにすごいのは、自ら色素を作り出すため、本物っぽいレザーの色合いを再現できる点にある。

【画像】 研究者が模索する環境にやさしい革の代替素材

 革製品(リアルレザー)は、それを作る過程で環境に大きな負荷をかけている。牛の飼育によって二酸化炭素が排出されるのはもちろん、製革ではたくさんの化学薬品や水が使用され、大気汚染にも関与する。

 それに代わるのがフェイクレザーだが、既存のものは石油由来の材料を使用するものが多く、製造過程で温室効果ガスを排出する。また、性分解性ではないため、廃棄時に環境に影響を及ぼす可能性がある。

 そんなわけで世界中の研究者がもっと環境にやさしいレザーを作ろうと努力している。

000

photo by Unsplash

・合わせて読みたい→サボテンが革素材に「ヴィーガンレザー」が開発される(メキシコ)

細菌を遺伝子操作し、自ら染色可能に

 今回の試みもその1つだが、特徴的なのは自分自身を染色する細菌を使用することだ。

 その細菌は海外では健康飲料として知られる「コンブチャ(紅茶キノコ)」に使われる「コマガタエイバクター・レティクス(Komagataeibacter rhaeticus)」というものだ。

 植物の主要な成分でもある「セルロース」を作ることが得意な細菌で、今回のバイオ代替レザーにもこの特徴が利用されている。

 英インペリアル・カレッジ・ロンドンのトム・エリス教授らによる実験では、コマガタエイバクターを靴の形をした容器に入れると、14日ほどで靴と同じような形のセルロースシートが”育った"。

 もう1つ重要なのは、この細菌の遺伝子が操作されていた点だ。

 その遺伝子はメラニン色素をつくり出す色素細胞(メラノサイト)が持っている酵素「チロシナーゼ」に関係するもので、メラニン色素の生成を抑える作用がある。

 靴型に育ったセルロースシートを優しく揺らしてやると、コマガタエイバクターはメラニン色素を作り出し、画像でご覧の通りレザーらしい黒い光沢に染め上がった。

1

靴の型に細菌を入れると、14日ほどでこのような革靴が”育つ”/Image credits: Imperial College London

 また同じ方法で作った2枚のシートを縫い合わせ、おしゃれなお財布も作られている。

生分解性で自然にやさしいバイオ代替レザー

 こうしたプロトタイプは、この技術が単なるお遊びではなく、実用的なものであることを物語る。

 エリス教授は、「持続可能な自己染色代替レザーの迅速な新製法の発明は、合成生物学と持続可能なファッションにとって大きな成果です」と、プレスリリースで語る。

 同教授によると、細菌が作るセルロースは本質的に”菜食主義”なのだという。

 だから、それを育てるために排出される二酸化炭素はわずかで、使用される水・土地・時間も牛の飼育に比べればごく少ない。

 さらにプラスチックから作られる代替レザーと違い、石油化学製品は使われず、自然に分解されるというメリットもある。

レザーに直接ロゴや模様を印刷可能

 もう1つファッション的に注目したいのは、細菌を青い光に反応させることで、色の出し方を自由に操作できることだ。

 つまりセルロースシートに直接模様やロゴを描くことができる。

 細菌から作られる自己染色代替レザーは、ただ環境にやさしいというだけでなく、形やデザインや色にまで革新をもたらすエキサイティングな新素材として期待される。

 現在、研究チームはファッション業界と協力しながら、この技術で作った製品を展開しようと計画を進めている。

2

現在研究チームはファッション業界と協力して、この技術による製品開発を進めている/Image credits: Imperial College London

 レザーに使用される有害なクロムなど、ファッションにまつわるさまざまな問題を解決するために、200万ポンド(約4億円)の資金が助成されたそうだ。

 この技術を幅広い製品に利用するには、さまざまな細菌株に応用して、業界から求められる耐久性を実現せねばならない。

 だが、環境にやさしいという大きなメリットは、この技術を今後も追求する強力な後押しになるはずだ。

 「動物性レザーやプラスチックベースの代替レザーにまつわるさまざまな問題を、微生物が対処してくれそうです」とエリス教授は語る。

 この研究は『Nature Biotechnology』(2024年4月1日付)に掲載された。

References:Plastic-free vegan leather that dyes itself grown from bacteria | Imperial News | Imperial College London / Researchers grow futuristic bacteria-based leather that dyes itself / written by hiroching / edited by / parumo

 
画像・動画、SNSが見られない場合はこちら

細菌を遺伝子操作、自ら色素を作り出し染色する代替レザーを開発