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25%は航続距離に 25%は動力性能に

「資産の半分はギャンブルとアルコール、女性に費やし、残りも浪費した」という名言を残した、俳優かサッカー選手がいたように思う。ポルシェはこんな無駄使いはしないが、マイナーチェンジを受けたタイカンの発表会で、そんなことを思い出した。

【画像】アドバンテージは変わらない! ポルシェ・タイカン 4S 競合クラスの電動サルーンと比較 全153枚

一般的に、自動車の開発へ投じられた費用の配分が公にされることはない。しかし同社は、今回あえてそこへ踏み込んだからだ。

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ポルシェ・タイカン 4S(欧州仕様)

改良へ準備された予算の内、25%は航続距離の延長に、25%は動力性能の向上に用いられたという。残りは、ボディまわりやインテリア、ホイール、ステッカーなどへ割り当てられたそうだ。

トップグレードに設定されたターボGTには、特別な予算が準備された可能性もある。いずれにせよ、カーボンファイバー製ウイングカーボンセラミック・ブレーキピレリ・トロフェオRSタイヤなどには、小さくない開発コストが必要そうだ。

ヴァイザッハ・パッケージを組んだターボGTには、それらが盛り込まれる。気になるところだと思うが、それは別途ご紹介する予定だ。

とはいえ、今回試乗した少し穏やかなタイカンも、相当にアップデートされている。中でも最大のトピックが、ニッケルマンガン・コバルト(NMC)を正極材に用いた、三元系バッテリーの採用。容量は、仕様に応じて82kWhか97kWhが用意される。

高出力・高効率なインバーターも開発された。磁石の配置やコイルの巻き方を改め、最大108ps強化された駆動用モーターも実装。急速充電能力も、最大320kWまで対応するという。

航続距離は最長679km ターボSは0-100km/h2.4秒

軽量化に加えて、細かな設計改良も相乗し、航続距離は最長の仕様で445kmから679kmへ伸びている。モデル中期の変更としては、驚くような性能上昇ではないだろうか。

だが、ポルシェの有能な技術者をもってしても、ダイエットできたのは15kgらしい。新たな装備が追加されたことを考えれば、これも相当な数字なのかもしれない。

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ポルシェ・タイカン 4S(欧州仕様)

エアサスペンションは、全グレードで標準装備。バックカメラとフロント・シートヒーター、駆動用バッテリー用のヒートポンプ、スマートフォンのワイヤレス充電パッドなども、共通して搭載される。

ラインナップは、1つを除いて従来どおり。シングルモーターの素のタイカンがベースで、その上にツインモーターの4S、更にパワフルなターボターボSが続く。トップグレードとして、先述のターボGTが頂点を飾る。

シングルモーターの素のタイカンでは、0-100km/h加速を5.4秒から4.8秒へ短縮。ターボSでは、2.8秒から2.4秒!へ縮めたそうだ。

ボディスタイルは、ベーシックな4ドアサルーンに加えて、シューティングブレークのスポーツツーリスモも選択可能。車高を持ち上げたクロスオーバー、クロスツーリスモも従来どおり提供される。

スペインで開かれたメディア向け試乗会では、ツインモーターのタイカンが用意されていた。実際のところ、その中で1番穏やかな4Sでも、必要以上に鋭い加速を繰り出すことには唸らされた。

操舵感と姿勢制御、乗り心地の融合

試乗車のタイカン 4Sには、ローンチコントロール時に最高出力を598psまで高める、パフォーマンスバッテリー・プラスというオプションが載っていたが、スタートダッシュは息が詰まるほど。これ以上速い必要はあるのかと、感じるほど。

シンプルな運転のしやすさは従来どおり。回生ブレーキは、ドライブモードで変化する。

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ポルシェ・タイカン 4S(欧州仕様)

新機能が「プッシュ・トゥ・パス」。ボタンを押すと、最大10秒間、追加のパワーが開放される。追い越し用なのだが、そもそもボタンを押す前からパワフル。一般道で必要になる場面は限られそうだ。

と、予算の25%が投じられた動力性能は間違いない。だが、タイカンらしいと感じさせるのは、素晴らしい重み付けのステアリングと、フラットなコーナリングを実現する完璧な姿勢制御、洗練された乗り心地という調和にある。

このクラスの高性能電動サルーンは複数存在するが、タイカンの水準へ迫るモデルは存在しない。車重を手中に収めながら、魅力的なドライビング体験を叶えている。

ここで興味深い新技術が、ポルシェ・アクティブ・ライドと呼ばれるサスペンション。油圧リザーバーがアダプティダンパーに備わり、タイヤの上下動を個別に調整。乗り心地と姿勢制御を、高次元で両立させるシステムだ。

バイクがハングオンするように、旋回時に内側へボディを僅かに傾けたり、加速時は前へ、減速時は後ろへ傾ける制御で、水平を保つことができる。ポルシェによると、快適性を向上させるオプションとのことで、車重は30kg増えるという。

特別なアドバンテージに変わりはない

文面ではイメージしにくいかもしれないが、自然な操縦性へ影響はない様子。ドライブモードがノーマルの時に、最も効果を感じられる。スポーツ・モードでは介入が小さくなり、スポーツプラスではオフになる。

筆者は、ノーマル・モードでも殆ど察知できなかった。そもそも姿勢制御はタイト。ロードノイズも小さいから、オンロードでのマナーは素晴らしい。

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ポルシェ・タイカン 4S(欧州仕様)

ボディのシルエットは従来どおりだから、乗降性は変わらない。車内空間は充分で、前席側なら高身長の大人でも快適。後席も、平均的な大人なら問題なく長時間過ごせるはず。

ダッシュボードの操作系や、インフォテインメント・システムも改良。アップル・カープレイは高度な統合へ対応し、ネイティブのOSへ切り替えることなく、車両設定の変更もできるようになった。

またモニターには、航続距離や駆動用バッテリーの温度、充電速度などの情報が表示される。ケーブルをつなぐと、充電量などをリアルタイムで確認でき、有用に感じた。

4年前、満点といえる評価を獲得したタイカン。当時のバッテリーEVとして、出色のドライバーズサルーンにあった。

2024年のアップデートを受け、その地位を堅持したことは間違いないだろう。最終的な評価には、詳細なテストを英国で実施する必要はあるけれど。

タイカンを取り巻く環境は、この数年で大きく変わったといえる。しかし、タイカンを特別なものとしているアドバンテージに、変わりはない。

ポルシェ・タイカン 4S(欧州仕様)のスペック

英国価格:9万5900ポンド(約1841万円)
全長:4963mm
全幅:1966mm
全高:1379mm
最高速度:249km/h
0-100km/h加速:3.7秒
航続距離:476-560km
電費:4.8-5.6km/kWh
CO2排出量:−
車両重量:2170kg
パワートレイン:ツイン永久磁石同期モーター
駆動用バッテリー:82.3kWh(実容量)
急速充電能力:320kW
最高出力:543ps(システム総合)
最大トルク:70.7kg-m(システム総合)
ギアボックス:1速リダクション(フロント)+2速オートマチック(リア)(四輪駆動


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