JR北海道は2024年4月1日、「JR北海道グループ中期経営計画2026(以下、中期経営計画2026)」を発表した。厳しい経営状況が続くなかで、明るい話題もいくつか見られる。その代償としてローカル線の切り離しがあることが気がかりだけど、まずは会社本体に立ち直っていただきたい。

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 11年の石勝線列車脱線火災事故以来、数々の不祥事が明らかになり、14年に国土交通大臣から「輸送の安全に関する事業改善命令及び事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令」を受けた。そこからJR北海道の事業方針は「選択と集中」にシフトした。事業を北海道新幹線と幹線を中心とし、安全投資に重きを置く方針だ。

 その方針のおかげで、選択されなかった事業は消えていく。利用者の少ないローカル線や駅の廃止が検討され、実行された。そればかりか、25億円を投資し、8年かけて開発していた新型特急車両「285系」も試作車落成直後に開発中止となった。285系は「複合式車体傾斜システム」と「モータ・アシストハイブリッドシステム」を搭載した画期的車両で、札幌~函館間の特急「北斗」に投入して、所要時間を2時間40分とする目論見だった。

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 これ以降コロナ禍まで、JR北海道といえば暗いニュースが目立っていた。しかしコロナ禍ごろから、明るいニュースも増えている。札沼線ロイズタウン駅の開業、「北海道ボールパークFビレッジ」隣接の新駅構想、「THE ROYAL EXPRESS - HOKKAIDO CRUISE TRAIN -」運行開始、観光特急車両「キハ261系5000番台」の投入と「HOKKAIDO LOVE! ひとめぐり号」の運行、ひがし北海道の「流氷物語号」や「SL釧路湿原号」の利用者回復などだ。事業のあり方が、従来の「これしかできない」から、「できる限りやってみよう」に変わってきた。

●中期経営計画2026に描かれた未来

 JR北海道新幹線札幌開業を機に経営自立する目標として、19年に「長期経営ビジョン未来2031」をスタートした。その手始めに23年までの中期経営計画を策定した。しかしコロナ禍という想定外の環境のなかで、数値目標を達成できなかった。

 だからJR北海道は24年から3年間の中期経営計画2026で、出遅れたぶんを取り返すつもりだ。国からは、総額約1092億円の支援を受けるに当たり、経営改善に取り組むよう監督命令が出ている。安全の取り組みも継続しつつ、稼ぐ努力も必要だ。不動産、飲食部門などの鉄道外事業を拡充するとともに、鉄道部門は観光列車、ダイヤ、線路改良によって「選ばれる鉄道」を目指していく。

新しい観光列車「赤い星」「青い星」

 23年12月に北海道新聞が報じた「豪華観光列車」が、JR北海道の公式資料に初掲載された。中期経営計画はデザインイラストの掲載にとどまっているけれども、12月の北海道新聞記事では水戸岡鋭治氏にデザインを発注するとあり、その通りになった。

 「赤い星」「青い星」ともに4両編成で、新造ではなくキハ143形をタネ車(改造元となる鉄道車両)とし、17億円で改造する。キハ143形は普通列車用のディーゼルカーで、1994~95年にオハフ51形客車から改造された。客車時代から数えると40年も経過している。新造費用までかけられないから、いまある車両を大切に使うしかない。運行開始は26年4月になるという。

 「赤い星」は釧路湿原編成という位置付けで定員は約100人。グリーン車以上の格付けで、個室や展望席がある。ラウンジ車両にキッチンがあり、食事付きのクルーズトレインとなる。茶室を用意するというから、訪日観光客は和風のおもてなし体験ができそうだ。主な運行経路として、冬から春にかけて釧網線を中心に運行する。

 私の予想は、回送の手間がかかる「THE ROYAL EXPRESS - HOKKAIDO CRUISE TRAIN -」を置き換えるつもりではないか。伊豆から北海道まで回送の手間がかかるし、THE ROYAL EXPRESSは四国ツアーも始めている。釧網線の「くしろ湿原ノロッコ号」の車両も老朽化で引退になる頃だ。6月には釧路湿原で活躍しそうだ。

 「青い星」は富良野・美瑛編成という位置付けで定員は約200人。普通座席で構成されるためお手軽な観光列車仕様になるだろう。グループ向けのボックス席や展望席を設置する。編成の名前の通り、富良野線富良野・美瑛ノロッコ号」を置き換える可能性が高い。ノロッコ号の客車もオハ50系の改造車だけれども、機関車の老朽化、交換部品の不足が懸念される。

 「富良野・美瑛ノロッコ号」はラベンダーのシーズンのみの運行だから、それ以外の時期は道内各地の新ルート開拓になるだろう。宗谷線稚内方面、根室線根室方面(花咲線)など黄色線区(地域と相談して対策しつつ収支改善を検討する路線)も有力候補だ。

 「赤い星」の釧路湿原投入は、従来のノロッコ号に比べると普通車からグリーン車になるし、特急扱いとすればもっと値上げになってしまう(釧路~塘路は640円、指定席券840円)。しかし私にはその価値があると思う。この地域は自然保護指定される以前に鉄道だけ通っていて、もう道路はつくれない。つまり鉄道が独占できる自然の風景だ。いわばサファリパークのようなもの。もっと運賃が高くてもいい。景色を見るだけなら普通列車に乗ればいい。中期経営計画では釧網線で「特別なノロッコ号の設定増や高単価化」という記載もある。「赤い星」導入前に高単価化を導入するかもしれない。

 その意味では「流氷物語号」も料金が安すぎる(乗車券970円、指定席券530円)。普通列車扱いで、流氷の海側が指定席になっているとはいえ、自由席乗車券のみで利用可能だ。これは運行本数が少ない区間のため、一般客も乗れるようにという配慮でもある。しかし流氷の絶景は世界的にも珍しい。この車窓風景はもっと価値を認められても良いはずだ。網走、知床ウトロなど回遊観光地も多い。「赤い星」にふさわしい路線だ。あるいは「青い星」を急行扱いでどうか。

北海道新幹線の強化

 北海道新幹線の札幌~新函館北斗間は、整備新幹線区画として時速260キロメートルで走行する設計だ。しかしJR北海道は約120億円の自己負担で時速320キロメートルに引き上げる。具体的には防音壁を嵩(かさ)上げし、トンネル出入り口の緩衝工(かんしょうこう)を延長する。整備新幹線の速度が時速260キロメートルに抑えられている理由は「音」と「空気」だ。線路の強度や車両の性能ではない。

 整備新幹線は騒音問題をクリアするために、時速260キロメートルで環境基準をクリアできるコストになるように設計されている。だから、時速320キロメートルで環境基準をクリアできるように防音壁を嵩上げする。トンネル出口で発生する衝撃音は「トンネルドン現象」とも呼ばれている。トンネルの穴に高速な新幹線車両が突入すると、空気銃のような作用で空気が圧縮され、出口側でドーンという音が出る。これを緩衝工という筒状の工作物をトンネル出入り口に設置して和らげる。

 時速320キロメートル化が実現すると、札幌延伸開業時に東京~札幌間は5分程度短縮されて、4時間半を切るかもしれない。中期経営計画2026には「新幹線札幌開業を見据えた北海道新幹線のさらなる速達化の検討」とも記載されている。これはJR東日本が次世代「はやぶさ」向けに開発している試作車両「ALFA-X」で時速360キロメートル運転を目指していることに連動する。「ALFA-X」は走行試験で時速400キロメートルの安定走行を達成している。課題はもう車両ではなく、防音設備にある。

 また中期経営計画2026には、収入の確保として「イールドマネジメントによる利用促進」と記載されている。これは例えば航空券のように、申し込み時期や空席状況によって特急料金などを上下させる仕組みだ。現在は閑散期、通常期、繁忙期、最繁忙期で料金を調整するほか、「えきねっと」の早期割引がある。これをもっと細かく運用する仕組みをつくるということだろう。これは在来線にも導入する。

札幌~新千歳空港間の高速化(中期経営計画以降の構想)

 道外からの来訪者のほとんどが、来道手段として航空機を利用しており、最も使用頻度が高い空港は新千歳空港だ。必然的に札幌~新千歳空港間の「快速エアポート」の利用が多く、約12分間隔の高頻度運転になっている。停車駅数によって特別快速、快速、区間快速があり、最速の特別快速の所要時間は33分だ。北海道新幹線開業後は最速22分を目標とし、軌道強化や線形改良、最高速度向上、高架化による踏切解消などに着手する。

 途中の上野幌~北広島間では前出の「北海道ボールパークFビレッジ」隣接駅の新設もあり、試合などの開催時には臨時列車も必要だ。新駅には通過設備も必要で、北広島駅は臨時列車折り返しのために線路配置の改良も必要となる。これらと併せて、札幌~新千歳空港をまとめて改良しようという構想だ。

 なお、新千歳空港駅は大規模な改良を実施する構想もある。南千歳~新千歳空港間を複線化し、線路を延長して、室蘭方面や帯広方面へ合流させる。線路配置はプラットホーム2面、線路4本として、折り返し列車と直通列車に対応する。これで札幌~室蘭間や札幌~帯広・釧路方面の特急列車新千歳空港経由になる。帯広や釧路はすでに空港があるけれども、苫小牧、登別、室蘭方面は特急「すずらん」で新千歳空港へ直行できる。

札幌~旭川間の高速化(中期経営計画以降の構想)

 北海道第2の都市、旭川は札幌から136.8キロメートルある。特急「カムイ」「ライラック」などの列車があり、最速の所要時間は1時間25分だ。こちらも軌道強化や線路改良、最高速度向上、高架化を実施し、所要時間60分を目指す。距離と時間を計算すれば、時速140キロメートルで走行できる車両を開発し、その車両がスムーズに走行できる線路にすればいい。

 しかし、机上の計算だけで成り立つほど話は簡単ではない。途中駅で減速、停車するし、ノンストップで走らせたとしてもカーブ分岐器などの減速を考慮すれば、時速160キロメートルで走行可能な車両が必要だ。ただし、全く不可能というわけではなく、現在は京成電鉄スカイライナー」が時速160キロメートル運転を実施している。ただしこの路線は軌間が新幹線と同じ1435ミリメートルで安定性が高い。在来線では、北陸新幹線金沢延伸開業前に越後湯沢と金沢を結んだ特急「はくたか」の681系683系電車が北越急行線内で時速160キロメートル運転した。

 スカイライナーはくたかは、あらかじめ時速160キロメートルを想定して建設された線路で、そこを走る前提で車両が開発された。札幌~旭川間の函館本線は直線的な複線で、取り組みやすそうに見える。京成成田アクセス線とほくほく線新幹線並みの路盤だし、分岐器新幹線と同じ「ノーズ可動式」といって、隙間を減らして高速通過できるタイプだ。必要な分岐器だけを交換するにしてもかなりのコストになりそうだ。

 コストを積み上げることを考えると、北海道新幹線を旭川へ延長した方が良いかもしれない。ちなみに北海道新幹線の基本計画区間の終点は旭川である。

 このほか、中期経営計画には記載されていないけれども、函館市新函館北斗~函館間のフル規格新幹線車両直通に向けて調査結果を発表した。実現すると、北海道新幹線で札幌~函館間を乗り換えなしで直通できる。ぜひ前向きに検討してもらいたい。

 高速、大量輸送が鉄道の本分だ。観光面では座席に縛られたバスより快適な旅を提供できる。JR北海道は若年退職者も多いと報じられているけれども、将来の鉄道の姿をきちんと示せば、希望を持って働けるだろう。全てが実現すれば、JR北海道の未来は明るい。

(杉山淳一)

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