春といえば桜の季節ですよね。今回は、そんな桜がきっかけでご縁をつかんだ女性のエピソードをご紹介しましょう。



画像はイメージ(以下同じ)



◆マッチングした人と初デート
盛山千秋さん(仮名・32歳/派遣社員)は、マッチングアプリで優弥さん(仮名・35歳/会社員)と知り合い、初デートをすることになりました。


「ちょうど桜がちらほらと咲き始める季節だったので、お花見デートをしようということになったんです。2週間ほど毎日のように楽しくメッセージのやり取りをした後だったので、かなり期待が高まっていましたね」


ですが、初めて優弥さんと会ってみると思っていた感じと違っていたそうで…。


「まず優弥さんがアプリに載せていた写真が、横顔のが1枚だけではっきりと顔が分からなかったんですよ。それを見て私はミステリアスな美形の顔を想像していたので、ちょっと実物とはギャップがありダマされていたような気分になってしまって」


優弥さんは何のへんてつもないごく普通の見た目でした。


「あとメッセージではノリが良く明るい感じだったのに、対面で話してみたらちょっと大人しいというか消極的で。私はリードしてくれる頼りがいのある男性がタイプなので、正直もう次のデートはないかなと思ってしまいました」


◆聞いたことのない桜の言い伝え



桜もまだ咲き始めで、花見というより枝見という感じのデートはあまり盛り上がらないまま終わったそう。


「ですが、その夜に優弥さんから『今日はすごく楽しかったです“春に見た桜の数だけ、その年は幸せになれる”と言いますし、よかったらまたお花見デートしてください』とメッセージがきて驚きました。あれが本当に楽しかったの?あとそんな桜の言い伝えみたいなの知らないし、とちょっと笑ってしまいましたね」


その後も優弥さんにお花見に誘われましたが、実は同時進行でマッチングしたもう1人の男性、洸平さん(仮名・30歳/飲食店経営)とメッセージのやり取りが盛り上がっている最中だったので、適当に断っていました。


「あえてはっきりと拒絶したりしなくても、優弥さんはソフトな印象の人だったので何度か断っているうちに自然と連絡がこなくなるだろうと思っていたんですよ」


◆もう1人の男性とのデートで



そんなある日、洸平さんとのドライブデート中に…。


「私達の前に初心者マークの車が走っていたのですが、明らかに洸平さんがイライラしだしたんです。そして『下手くそ、はやく行けよバカ』と暴言を吐き出して、見苦しくて見ていられなくなりやんわり注意をしたら…今度は私にイライラをぶつけだして、わざと乱暴な運転をして怖がる私の反応を見て楽しみだしたんですよ」


そんな洸平さんの態度に我慢できなくなった千秋さんはキレてしまい、2人は大喧嘩の末に決裂してしまったんだそう。


「洸平さんは私好みのハーフっぽいイケメンだったので、ちょっと気がつきたくない気持ちが働いてしまったのですが…実は頼り甲斐のあるタイプなんかじゃなくて、ただ何でも自分の思い通りにしたいだけの身勝手な子供っぽい人だったんですよ」


千秋さんが意気消沈していると、再び優弥さんからお花見のお誘いがきました。


「もう会うつもりはなかったのですが、なんだか癒しが欲しくなりついOKしてしまったんですよね」


お花見デートを重ねるうちに…
そして2度目のお花見デートは5分咲きの桜がとても綺麗だったそう。


「優弥さんの雰囲気が以前とは変わっていたので聞いてみたら、私が前回『もっと明るい色の服が似合うし、ヘアスタイルは短めの方が合っていると思う』と言ったらしく、しっかり改善してきてくれていたんですよ。そんなことを言ったのはすっかり忘れていたのですが」


自分の好みに近づいていた優弥さんの姿と、その柔軟性に千秋さんは好感を抱きました。


「こうやって人の意見を受け止めて変わっていける人こそが、実は大人で器が大きいってことなのかも…と思い始めたらデートがどんどん楽しくなってしまって(笑)」



そして優弥さんに「桜が咲いているうちはいっぱい目に焼き付けようよ。幸せになれるから」と誘われるがままに満開の桜、散りかけの桜吹雪、葉桜まで何度もお花見デートを重ねたそう。


「ふと“桜の季節が終わってしまったら、もうデートには誘ってもらえなくなるのかな?”と考えた時に寂しさを感じ、自分の恋心に気がついたんです。何度も会っているうちに最初は消極的だと感じていた優弥さんの性格が、実は細やかな心配りのできる優しさなんだと分かり、気がついたら私の方からお付き合いしたいと言っていました」


◆桜の言い伝えの出所が発覚
そして2人は半年のお付き合いを経て結婚して、また桜の季節がやってきました。


「私が『今年もまた幸せになれるように、いっぱい桜を見に行こうね』と言ったら、優弥が気まずそうな顔をして『ごめん、実はそれ千秋ちゃんをデートに誘う口実にでっち上げた嘘で…そんな言い伝えはどこにもないんだ』と告白されて、えー!って感じでしたね」


ですが、お花見デートを重ねる度に幸せを感じていた千秋さんは「最初は嘘だったかもしれないけど、これからは私達の言い伝えとし採用して、毎年桜をいっぱい目に焼き付けよう」と優弥さんに提案しました。


「優弥は自分の嘘にあきれるどころか素敵な提案をしてくれた!と喜んでいて、ありがとうと言われました。そのうち子供ができたらもちろん教えてあげたいですし、私達だけの言い伝えを守っていきたいですね」と微笑む千秋さんなのでした。


<文/鈴木詩子>


【鈴木詩子】漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラー棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop