新型コロナを口実に、当時の安倍晋三政権、菅義偉政権がとった入国制限という「鎖国政策」は、いったい何だったのだろう。

 大相撲の第64代横綱で、プロレスラー曙太郎(旧名チャドローウェン)さんが、心不全のため亡くなっていたことが4月11日、明らかになった。54歳だった。

 曙さんは2017年4月に福岡県内で開催されたプロレスの試合後に体調の異変を訴え、救急搬送された。一時は心不全で意識不明の重体となったが、奇跡的に回復。東京近郊の病院でリハビリ生活を送っていた。

 後遺症による記憶障害が残った曙さんにとって辛かったのが、2020年以降の家族との断絶だったという。

 曙さんは1998年に結婚したクリスティーン麗子カリーナ夫人との間に2男1女を授かったが、2人の愛息は曙さんの故郷ハワイで仕事に就き、愛娘も客室乗務員となっていることから、新型コロナで厳しい入国制限が課された2020年以降、曙さんは家族との断絶に苦しんだという。

 記憶障害を抱えた曙さんは「なぜ家族が面会に来ないのか」が理解できなかったそうで、曙さんと懇意にしていたスポーツ紙相撲担当記者によれば、

「空前の若貴ブームを盛り上げた最強の横綱が『寝たきりになった自分は家族にも見捨てられたのでは』と落ち込んだことがあったそうです。日本でひとりぼっちの入院生活、孤独に苦しんだ晩年でした。長男が緊急帰国して病床に駆けつけるのを待っていたかのように、息を引き取ったそうです」

 4月7日NHK総合で放送された「Last Days 坂本龍一 最期の日々」でも、昨年3月28日に亡くなった坂本龍一さんの闘病映像が公表されたが、「教授」ともあろう人物がなぜ、都内のマンションでひとりきりの闘病生活を送っていたのか、不思議に思った視聴者は多いだろう。

 坂本さんの家族も海外生活を送っており、入院中の面会はもちろん、家族の入国もままならない状況が続いていた。番組でも紹介されたように、坂本さんが病を押して、YMOのメンバーでやはり闘病中だった高橋幸宏さんの軽井沢の自宅を訪れた時も、タイミングが悪く高橋さんが緊急入院した後で、病院での面会は叶わなかった。

 新型コロナの異常な鎖国政策によって、国境を超えて活躍する人ほど、翼をもがれたような苦境に陥った。大横綱や世界的ミュージシャン、われわれ日本人の記憶に残り続ける人達に、死の床にあってもなお孤独な療養生活を強要してまで、安倍・菅・岸田政権と有識者会議、日本医師会ら日本の医者は「いったい何を」守るつもりだったのか。

 大きな犠牲を払っておいて、新型コロナ政策について何も検証しないなど、許されない。他国と比較検討して日本の異常な行動制限、鎖国政策の是非を論じるべきだろう。

 馬鹿馬鹿しいことに、新型コロナ感染症法の5類になって1年近くが経った今でも、日本国内の病院や施設は面会制限を続け、友人知人や12歳以下の子供は面会禁止という、人と人との断絶を続けている。人は人のために生きているのではなく、医者のために生かされているのだろうか。

(那須優子/医療ジャーナリスト)

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