2010年に放送が開始され人気ドラマシリーズ「ウォーキング・デッド」。“ウォーカー"と呼ばれるゾンビがはこびるアメリカを舞台に、ノーマン・リーダス演じるダリルやアンドリューリンカーン演じるリックをはじめ、約100名の登場人物たちの苦悩や葛藤が描かれる。

【写真を見る】ディスクが多すぎて広げきれない…!「コンプリート・コレクション」を開封してみた

2022年に完結した本シリーズは、全11シーズンの全176話、本編は合計135時間29分という壮大な物語。そのすべてを、脅威のBlu-ray88枚組で網羅した「ウォーキング・デッド コンプリート・コレクション Blu-ray」が現在発売中だ。本稿では、このど迫力のBOXに収納されたBlu-rayの中身を紹介しながら、「ウォーキング・デッド」がなぜこんなにも長く愛され続けてきたのか、その魅力に迫っていきたい。

■「ウォーキング・デッド」ファン必携の特大BOXが壮観!

まずディスクケースが収納されたBOXを見ていこう。とにかくデカくて重いこのBOXは、ディスクケースを含めた重さが約3.4kg。手に持つだけで、本シリーズの歴史とドラマの深さが伝わってくる。

このBOXに収められた本家「ウォーキング・デッド」シリーズのすべては、いまも広がり続けている「ウォーキング・デッド」ユニバースの原点でもあり、シリーズの人気キャラクターたちを描くスピンオフ3作、リックとミショーンを描く「ウォーキング・デッド:ザ・ワンズ・フー・リブ」、ダリルを描く「ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン」、マギーとニーガンを描く「ウォーキング・デッド:デッド・シティ」が現在進行中。いまも広がり続けているこの世界は、このBOXから始まったのだ。

収納BOXからディスクケースを取り出すと、これまた圧巻。各シーズンのキービジュアルが表紙のディスクケースを眺めるだけで、壮大な物語の思い出に浸れるだろう。全6話で始まったシーズン1が、シーズン11では4倍の全24話となった本シリーズ。シーズン内でも物語の厚みを増していったことが、ケースから見て取れる。

また特典として、各シーズンのキービジュアルが描かれたポストカードも付属し、コレクター心をくすぐってくれる。「ウォーキング・デッド」ファンならば、いつでも見返せるように手元に置いておきたいアイテムとなっているのだ。

■壮大な物語を振り返り!シリーズの基本が確立されたシーズン1~5

ここからは、各シーズンのジャケットと共に「ウォーキング・デッド」全11シーズンを振り返っていきたい。まずはシーズン1からシーズン5まで。この間で本シリーズの基本と魅力が確立される。シーズン1でウォーカーが発生し、リックたちは米疾病予防管理センターに向かい、唯一の生存者ジェンナー博士(ノア・エメリッヒ)に会うが解決法は見つからない。

シーズン2でハーシェル一家の農場に滞在し、彼らと一緒に旅することになる。シーズン3では、刑務所だった建物で生活し、アンドレア(ローリー・ホールデン)とミショーン(ダナイ・グリラ)は総督(デヴィッド・モリッシー)のコミュニティに参加。シーズン4では、総督が刑務所を襲撃し、人々は離れ離れになって数人のグループで旅をして、エイブラハム(マイケル・カドリッツ)たちのグループと合流、“終着駅"で再会する。シーズン5では、ベス(エミリーキニー)は病院で暮らすコミュニティにさらわれ、リックたちは、コミュニティ“アレクサンドリア”に加わって生活することになる。

このように、リックたちのグループは旅をしながら、仲間を失い、新たな人物に出会っていく。基本的にウォーカーがいる世界が舞台なので一種の“ゾンビもの”なのだが、それとの対決はドラマの中心ではない。それよりも、安全な場所も食料もない極限状況下で、人間はどうやって生き残ろうとするのか、生き残るためにどこまでするのか、それを描くところが、シリーズ最大の魅力。

そのため本シリーズには、“視聴者が安心して見ていられる人物”がいない。誰もが簡単に死んでしまうし、完全な善人は存在せず、誰もが暗黒面を持っている。主人公格の元保安官リックですら、シーズン1からかつての親友シェーン(ジョン・バーンサル)との仲が気まずくなり、シーズン2第12話「深い森の中で」では、互いに殺し合うしかない状況に陥ってしまう。シーズン3第4話「命の決断」では、妻の死に直面して精神的に危うい状態になる。本作の真髄は、そうしたリアルな人間ドラマなのだ。

■“救世主”との攻防戦に複数のコミュニティも登場し、新たなドラマが生まれる

シリーズの中盤、シーズン6からシーズン8では“救世主”との攻防戦がストーリーのメイン。“救世主”とは、ジェフリーディーンモーガン演じる、ニーガンが率いるコミュニティのこと。ニーガンがルシール(=有刺鉄線を巻き付けたバット)で人間を殴り殺すが、「なにもできない人々は自分が導くべき」という使命感も持つ複雑な人物で、後にスピンオフも製作される人気キャラになる。

また、コミュニティが複数登場して、コミュニティ同士のドラマが生まれるのもこの時期。エゼキエル(カリー・ペイトン)が率いる“王国”、グレゴリー(ザンダー・バークレイ)が仕切る“ヒルトップ”、海の近くに住む女性たちの“オーシャンサイド”、ジェイディス(ポリアンナ・マッキントッシュ)率いる“清掃人”が登場する。

こうして、シーズンが変わるごとに「敵」のタイプや、「難関」の内容が変わり、次を観ずにはいられなくなるストーリー展開の妙が、本シリーズの2つ目の魅力だ。そろそろ卒業しようかなと思っていると、また新たな展開が待っている。シーズン3では総督が怪しそうで正体が気になり、シーズン4ではリックたちが数人ずつのグループに分かれ、また出会えるのか心配になる。

唸らせられたのはシーズン5。やっとアレクサンドリアで住居も食料も確保できたと思ったら、ここでリックの障害となるのは、住民たちの意識。リックの危機感は理解されず、彼が暴力行為に及ぶことになるとは。そして、シーズン6では“救世主”のニーガン、シーズン9では“囁く者”のアルファ(サマンサ・モートン)と、強烈かつ魅力的な敵が登場。シーズン11では、巨大なコミュニティ“コモンウェルス”という、これまでとはまったくタイプの違う敵が出現。観客の興味を刺激し続ける。

■シリーズ終盤には、ヒューマンドラマとしてのおもしろさが極まっていく

シーズン9とシーズン10は“囁く者”との戦いがメイン。ウォーカーの皮を剥いで被り、ウォーカーを偽装して、囁き声で暮らす集団をアルファが率いる。彼女と娘リディア(キャサディ・マクリンシー)の難しい関係も描かれた。また、シーズン11では富裕層と貧民層もある格差社会の巨大コミュニティ“コモンウェルス”が登場し、ダリルたちは市長たちの不正を暴こうとする。

このシリーズの3つ目の魅力である、人物像を深く掘り下げて描き出すヒューマンドラマとしてのおもしろさが極まるのは、シーズン10の追加エピソードである、第17話から第22話。この6話は各話完結で各キャラクターに焦点を当てる物語で、第18話「俺を見つけてくれ」ではダリルの恋愛、第22話「ここにニーガンあり」ではニーガンと妻ルシール(ヒラリーバートン)の過去が描かれる。もっともこの人物描写の魅力はシリーズ初期からのもの。例えばシーズン4第12話「本年の盃」は、全体のストーリー展開とは関係なく、ほぼ1話丸ごと、ダリルとベスが2人で本音を語り合い、2人の人物像を描くエピソードになっていた。

しかも本シリーズは、主要キャラだけでなくサブキャラたちをも掘り下げる。シーズン7第16話「遺志を継ぐ者たち」では、冒頭からサシャ(ソネクア・マーティン=グリーン)が自らウォーカーと化して、ニーガンを倒そうとする心情をじっくり描き出す。また、先述のシーズン10の追加エピソードでも、第19話「あと1カ所」は、ゲイブリエル(セス・ギリアム)とアーロン(ロス・マーカンド)の日常的な物資調達を描きつつ、2人の対照的な人物像をくっきりと浮かび上がせる名エピソードになっている。

こうして振り返ると、また見直したくなるエピソードばかり。BOXの形でこのシーズンのすべてを手元に置いて、いつでも見られるようにしておきたい。

文/平沢薫

「ウォーキング・デッド コンプリート・コレクション Blu-ray」ディスク枚数は脅威の88枚組!